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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第01章 転生したら、雪だるまのような姫でした。

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軽々しく祈らないよう、気をつけます

「ヒメコ様!」


 ふわりと髪が緑色に光ったかと思ったら、イスラに両肩を掴まれた。

 咄嗟の行動だったのだろう。

 祈りを中断させるには、少しだけ乱暴な方法だった気がする。


「……今度は、どちらの神にお祈りを?」


「えっと……緑の神様? がいるかなぁ、と」


 オタク文化特有の『萌え』については説明が難しいので、省いて答える。

 緑の神に祈ったのだ、と。

 髪が光ったのも緑色だったので、きっと余計な言葉が付いていたことはばれないはずだ。

 というよりも、推しが尊いと祈ったことまで、神への祈りにカウントされるとは思わなかった。

 いや、推しへの祈りは信仰と同じではあるが。


「あまり、軽々しく神々に言葉を届けるのは、お控えください」


 また髪の色が変わっている、とイスラが私の髪をひと房だけ手に取る。

 少しだけ癖のついた銀髪は、先ほどまでは紫がかった輝きをしていたのだが、今は緑がかった輝きをしていた。

 青と赤が混ざって紫になったと思うのだが、紫に緑が混ざった色にはならなかったようだ。

 それを不思議に思っていると、イスラが解説してくれた。

 この国は風の神マヘワシの加護を受けた地なので、この国の王族には緑の力が馴染みやすいのだろう、と。


 ……あの風神、マヘワシなんて名前だったのか。


 何度でも言うが、『ごっど★うぉーず』は年齢制限のついたゲームである。

 平たく言うと、エッチな衣装の女の子が山盛り出てくる。

 もちろん、エッチなのは衣装だけではなく、そういったシーンもある。

 そして、そういったシーンは神様にも存在した。


 主人公を鼓舞するためか、プレイヤーを釣るためか、女性型の翅の生えた妖精の姿をした風の神マヘワシは、作中では自分のことを『マーシィ』と名乗っていた。

 腐っても年齢制限エロゲーだ。

 本来は男神であろうとも。

 設定上は男神であろうとも。

 作中では本来の性別など、トコトン隠していた。

 可愛らしい『マーシィ』の本名が『マヘワシ』であったことも、その隠された情報の一つだろう。

 むしろ男神を女体化させてヒロインたちの中に混ぜ、年齢制限シーンまで用意するだなんて、とんだ地雷もいいところ――閑話休題。


「えっと……神様に祈るのは、よくないことですか?」


「悪いこととは申しませんが、あまり……」


 神に祈ること自体は、悪いことではない。

 そもそも、銀の髪を持つ王族が神に祈ったからといって、本来はそう簡単に神から奇跡が贈られることはない――はずだ、とイスラは眉間に皺を寄せる。

 普段は祭祀にまつわる仕事は正妃に任せてあるが、豊穣や戦勝祈願といった大きな祭祀は、やはり王であるアゲートが執り行なう。

 その父王アゲートですらも、髪の色が神の眼差しを受けて変わることは一年に一度あるかどうかということらしい。

 私のように、祈るたびにコロコロと色が変わるのは珍しいことのようだ。


「わたし、神様に愛されまくってます……か?」


「あまり神々からの寵愛が深いようですと、御許へと呼ばれることがございます」


 『御許へ呼ばれる』というのは、綺麗に飾った言葉だろう。

 飾りを取ってしまえば、『早死にする』だ。

 イスラが難しそうな顔をして眉間の皺を深くしているので、間違いない。


「……軽々しく祈らないよう、気をつけます」


「そうしてください」


 カーネリア姫、と続けたイスラは、私を『カーネリア』の名で呼ぶことにしたようだ。

 『姫子』と呼ぶ練習をしてくれていたが、やはり呼びにくかったのだろう。


 ……まあ、『姫』って付いている時点で、『白雪姫子わたし』が呼ばれている気がして美味しいんだけどね。


 考えてみれば、今日会った人間の中で、『カーネリア姫』と呼ぶのはイスラだけだ。

 他は父が『カーネリア』『ネリ』と呼び、乳母やマタイは『姫』『姫様』と呼んでいた。

 そしてイスラは元のカーネリアを『カーネリア様』と呼び、私のことは『カーネリア姫』と一応呼び分けてくれている。


 ……少しどころじゃなく嬉しい。


 今の私は、推しに認知されていた。


 ほわほわっと胸の内で湧き上がる温かい気持ちを、萌えの神に祈りたくなったが、グッと堪える。

 自己責任で飛竜に打たれて死に掛けても、イスラと飛竜が処刑されそうになったのだ。

 神に祈りすぎて早世したら、祈る原因となったイスラが処刑されてしまう。


「それで、カーネリア姫はこれから、どのように過ごされますか?」


「それをさっきまで考えていました」


 自認としては『白雪 姫子』だったが、私は今日までの『カーネリア』でもある。

 カーネリアが耳に入っても流していた言葉の一つひとつの意味が、白雪 姫子には判ってしまう。

 それに、白雪 姫子にはゲームでのこの世界の知識がある。

 カーネリアの聞いた話と、白雪姫子のゲーム知識を合わせれば――


「……この国、いろいろと……マズイ、ですよね?」


「……、……はい」


 肯定までの間が長かった。

 ゲームでは滅びるその瞬間まで国に尽くしたイスラであっても、自分を誤魔化せないぐらいにこの国は『マズイ』らしい。


「今日、明日にもどうこうというわけではございませんが……」


「それでも、あと十年は持たないでしょう」


「それほど……っ、いえ、はい」


 容姿の整った人間というものは、外見で年齢が判りにくいことがある。

 イスラもそうだ。

 彼はゲームでのイスラと、ほとんど同じ姿をしている。

 だから判った。

 いや、たしかにボロ布姿で現れた時に即気付かなかったことは、ファンの名折れではあるが。

 今は、そんな細かいことはどうでもいい。


 容姿の整ったイスラでは、ゲームの開始時期を予想することは不可能だ。

 逆に、父アゲートほど年齢を重ねていても、数年程度の変化は判らない。

 しかし、カーネリアの身近にはもう一人、ゲームの登場人物がいる。

 おあつらえ向きに、ゲームでの姿とまるで違う姿の人物が。

 その姿から逆算すると、主人公が現れるのは十年以内だ。


 つまりは、十年以内にこの国は滅びる。


「国が倒れるのはかまいません。父とカーネリアのしてきたことです。でも……イスラや、国民がそのあおりを受けるのは『違う』と思います」


「ヒメ、私は――」


 自分のことは数に入れなくていい。

 そう言われそうな気がして、イスラの言葉を遮る。

 イスラが生きて目の前にいるのだから、私が求めるものは一つだ。

 イスラが生きて、幸せになるルートが欲しい。

 推しに対して祈るのに、祈りの声がひたすら聞こえてくる緑系の神様は被害者。

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