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91.『企み』

魔法の遺産で出版技術なんかは、発展しているってことにしてください…。

ご都合主義でごめんなさい…。orz

 シルフィールが今いるのは、エルサティーナの後宮の中だった。

「あんまり勝手にうろつき回ったりしないでね。」

 目の前には面倒臭そうな顔をした、この国の側妃の一人である姉がいた。

「わかってますわ。お姉さま。」

 そう答えるシルフィールの顔は、あまりわかっていなさそうだったが、気だるげな顔をした側妃は特に言葉を加えることなく自分の部屋に戻っていく。お付きの侍女も、姉の後に続いて部屋へと帰って行った。

 閉められた扉を見て、シルフィールはにやりと笑った。

 後宮入りをした長らく会っていない姉に会いたい。そう言って、シルフィールは後宮に数時間だけ滞在する許可を得た。

 しかし、シルフィールと姉との顔合わせは、少し言葉をかわしただけで終わった。文官にはさも姉を慕っていたように話していたシルフィールだが、実際のところ二人は仲睦まじい姉妹ではなかった。

 年も離れていたし、姉はこの国の側妃となるための教育で忙しかった。お互い興味のないドライな関係。

 そんな姉に会いたいという理由で、後宮に入る許可を得たのは別の理由があった。

 身をひるがえしたシルフィールは、事前に得ていた情報を頼りに後宮のすみへと向かっていく。

 シルフィールにとって幸いなことに、廊下で侍女たちに会うこともなかった。後宮には、以前ほども活気はない。ここ数年、王の訪れを受ける側妃が、一人もいないのだから当然かもしれない。

 やがてシルフィールは、とある部屋のまえにたどり着く。

 この国の側妃の部屋としては、あまりにもみすぼらしい小さな部屋。

 エルサティーナの第八妃、魔女ベアトリーチェと呼ばれた側妃の部屋。


***


 シルフィールはベルを見返す機会を待っていた。

 いま笛吹姫と呼ばれベルが立っている位置。あそこは本来、自分がいるべき場所だったのだ。

 才能も容姿も兼ね備えた最高の魔笛の奏者として、皆からたくさんの賞賛を浴びる。そのためにまわりに最高の奏者を揃え、民間誌にも自分の記事を書かせ、審査員たちとも親しくした。

 なのにあのコンクールから、あのベルという女にすべてを持っていかれた。誰もがあの女を称え、ちやほやするようになった。

 だから今回のエルサティーナのコンクールに、マーセル楽団たちが参加すると聞いたときはチャンスだと思った。

 コンクールでベルたちから優勝を掻っ攫い、誰が本当に笛吹姫と呼ばれるべきなのか教えてやるのだ。

 そのために今までよりも選りすぐりの奏者を集めた。エルサティーナは母国なので審査をする貴族たちへの根回しも完璧だ。

 だが、まだ足りない。

 奴らを完全に打ち負かすために、もうひと押し何かが欲しかった。

 そして思いついたのだ。

 王妃を称える歌を、新しく作る。

 かつては人気曲だった王妃を称える歌だったが、マーセル楽団が各所で演奏するようになってからその人気は下火になっていた。マーセル楽団はさまざまな曲を市民たちに聞かせ、今までマイナーだったはずの曲が市民たちの間で流行るようになってしまった。

 でも、ここはエルサティーナだ。レティシア王妃の人気も依然と高いし、二人の恋物語に未だ憧れる女性も多い。

 ここで新しく王妃を称える歌を作らせて、みんなにコンクールで聞かせればまた大人気になるに違いない。

 だからシルフィールは、後宮に侵入しベアトリーチェの部屋を調べることにした。何かセンセーショナルな真実を得て曲の歌詞に加えられれば、インパクトが増しさらなる人気が得られる。

 マーセルたちの弾く田舎臭い曲の記憶など吹き飛んでしまうだろう。

 そしてその曲を弾いて、自らの人気を取り戻すのだ。


***


 ギシッ

 鈍い音がして、木の扉があっさりと開く。

 王により立ち入りが禁止されてると聞いていたが、見張りはいなかった。でも、侍女たちもこちらに来る様子はないので、立ち入りを禁じているのは本当かもしれない。

 部屋に忍び入ったシルフィールは、ぐるっと部屋を見渡した。

 家具の少ない、寂れた部屋。しかし、部屋の主がいなくなってから三年は経つはずなのに、埃が積もった跡などはなかった。

「誰かが掃除してるのかしら。」

 シルフィールは呟きながら、部屋へと足を踏み入れていく。机を見ると、アーサー陛下とレティシア王妃殿下の写真があった。

 国王に横恋慕していたという話から、アーサー陛下の写真があるのはわかるが、何故レティシアさまの写真まであるのだろうか。

 本当に呪いでもかけてたのかもしれない。そう期待して写真に近づいたが、写真は綺麗に立てかけられており、乱暴に扱われた形跡もない。期待が外れて、眉をよせる。

「何かないのかしら。どうせなら、王妃さまを虐めてたって証拠みたいなのは。」

 何か見つけなければ、せっかく後宮まで侵入した意味がない。

 机の上を見渡すが、何もない。

 次に引出しを開けて見るが、特に面白そうなものはなさそうだった。

「もう!呪いの道具でも仕舞っときなさいよ!」

 いら立って、乱暴に引出しをしめた時、ぱさりと何かが地面に落ちた。

「ん?なにかしら。」

 拾い上げると、それが写真だとわかった。それを裏返して、何が写っているか見た時、シルフィールは少し驚いた。

「なんであの女の写真がここに。」

 それはシルフィールの一番の憎しみの対象である、ベルという女の写真だった。自分の知るあの女より幾分か髪が長いが、見間違いようがなかった。

 そしてあの女の後ろで、肩に手を置いて一緒に微笑んでいる女性を見てもう一度驚く。

「レティシアさま!?」

 侍女として地味な格好をしているが、特徴的な銀色の髪も、美しい顔立ちもまったく変わってない。

「なんなのこの写真は。」

 驚きながら写真を凝視すると、右下に文字が書かれていることに気付く。そこに書いてある文字は…。

「ベアトリーチェとレティシア…。」

 レティシアはわかる。後ろ側で笑っている侍女の格好をした女性。この国の王妃である女性。なら、前にいるこの少女は。笛吹姫と皆から呼ばれ、ベルと名乗っているあの女の正体は。

 シルフィールの唇が歪み、喉から笑い声が漏れる。

「あはは、そう言う事だったのね!なんだ。コンクールで勝負するまでもないじゃない!」

 写真をしっかりと握り締め、シルフィールは暗い笑みを浮かべた。

「これであの女を潰せるわ。」


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