82話 逃げました。
82話 逃げました。
「こいつらを捕縛した俺の部下が、先に、簡単な状況説明をしている。お前が魔人に変化したことと、こいつらを殺せば、お前の魔人化が解除されること。……魔人が大嫌いなお前は、最終的に、クラスメイトだろうと関係なく殺すだろうってことも」
「……」
恨みがましい目で見つめてくるラスに、
カドヒトは、
「それ、どういう目? もしかして『なんで、そんなことを言ったのか』とでも言いたい感じ? もし、そうなら、こう答えてやるよ。その方が、お前を苦しめることが出来ると思ったから。以上だ。何か他に質問はあるか? 可能な限り、答えてやるぜ。俺は優しいんだ」
「…………このクラスの担任……魔人の担任がいたはずだ……そいつは……どこに?」
「ん? ああ、センエースのことか? クロッカから派遣されている犬だよな? あいつなら、速攻で逃げたと報告を受けているぞ。あいつは俺の強さを知っているからな。ちょっと前に、十七眷属関連のあれこれで、殺し合ったことがある。俺にボコられて、死にかけたことがあるから、俺の存在を感知すると、しっぽを巻いて逃げる……というクセが出来てしまったんだろうなぁ。カワイイやつだ」
「……教師のくせに……逃げたのか……ニスン先生やエトマス理事は立ち向かってくれたのに……あいつは……」
「おいおいおい、その二人は、俺の実力を知らずに突っ込んできて撃沈しただけだろ。センエースは俺の実力を知っているから、戦略的撤退をした。そこの差はキチンと理解しておけよ」
「……逃げたことに……変わりはない……」
「ま、そりゃそうか。……さて、センエースのことはもういいよ。それより、お前の魔人化についての案件を先に進めようぜ。さあ、ラス。じゃんじゃか殺していこう。とりあえず、ここにいる全員を殺せば、ご褒美として、呪いを半分だけ解いてやる。で……完全に、一人残らず、根こそぎ、皆殺しにできたら、その時は、完全に呪いをといてやるよ。さあ、元気よく、殺ってみよう! まずは、そこの震えているポニテからがいいと、俺なんかは思うんだが、お前的にはどう?」
「……」
「おい、聞いてんのか、ラス。そこのポニテから殺せって命令してんだ。ちゃんと上司の言葉の意図を読み取って忖度しろや。それこそが配下が果たすべき最大の仕事と言えよう」
「貴様なんかの……配下になんか……なってたまるか……」
「あん? なんか言ったか? 空耳か? 幻聴か? なんだか、とても不愉快な発言が聞こえてきたんだが?」
「……」
「ま、なんでもいいや。ほら、さっさと殺せよ。その剣があれば、豆腐みたいにサクっと首を切れるぜ」
「……」
「ラス! 聞いてんのか! やれと言っている!」
強い口調で命令されたラスは、
ゆっくりとした歩調で、
ポニテ担当のリノの目の前まで歩く。
そして、ゆっくりと剣を振り上げた。
そんなラスに、リノは、
「……や、やめて……お願い……」
と、ボロボロ涙を流しながら懇願してくる。
「……殺さなきゃ……俺は魔人として生きなきゃいけない……それは嫌だ……絶対に……」
「……お願い……助けて……お願い……」
あふれる涙で顔がぐちゃぐちゃになる。
リノ以外の面々も、『やめてくれ』と必死に懇願してきた。
「……」
ラスの頭の中で、無数の思考が浮かんでは消えて、まとまらずにこんがらがって、ムリヤリ消して、浮かんでは溶けて、弾けて、混ざって……
そんなことを、何度も何度も何度も繰り返した果てに……
「……出来ない……」
ラスは、剣を落として、ガクっと地にヒザをついた。
「僕には出来ない……」
リノ以上に、大量の涙を流しながら、
『出来ない、出来ない』と何度も、何度も口にするラス。
そんな彼に、カドヒトは、
「一生、魔人で生きていく……それでもいいのか?」
「……いやだ……」
「あれもいや、これもいや……それが通じるのは赤ちゃんの時だけだぜ」




