281話 ガリオはバカじゃない。
281話 ガリオはバカじゃない。
そこで、センは、パッサに、
「パッサさんよぉ……ヒークル様を暗殺しようとするなんて、あんた、なかなか見上げた根性してんじゃねぇか。しかし、その責任を俺に押し付けようってのは、流石に悪手だったな。……残念ながら、お前は、最悪の道を選んだ。確実に、地獄を見るぜ。震えて眠れ」
その発言に対し、ヒークルが、
「それは脅しか、センエース。今度は私ではなく、パッサを殺そうとするのか?」
「未来を示しただけっすよ。姑息に他人を貶めようとする奴は、運命に嫌われて、地獄を見るものです。それでは」
そう言い捨てると、センは、
そのまま会議室を出ていった。
残されたのは、ヒークルとパッサ……そして、通信状態のガリオ。
センが出ていったあとで、
ヒークルが、
「ガリオ様に対する数々の無礼な態度……そして、私に対する悪意も、ご覧の通り。証拠は必要ないかと存じますが」
と、ガリオにそう詰め寄ると、
ガリオは、タメ息交じりに、
『ヒークル。真相は、あの犬が言った通りだろう?』
「……っ」
『配下に裏切られ、暗殺されそうになるなど言語道断』
「い、いえ、ガリオ様。私は――」
『配下に裏切られるだけでも大問題だが……私がもっとも危惧しているのは、貴様が、あんな頭の悪い犬にあっさり見抜かれる程度の謀略しか打てないということだ』
「……」
『ヒークル。貴様は、突出した戦闘能力を買われて十七眷属になった。領地を守るためには強さが必須だから。しかし、ここ最近は連戦連敗で、今も満身創痍……その上、犬にナメられるほど頭が悪いとなると、貴様の領主としての存在価値はなんだと問いたくなる』
「うぐっ……」
『あの犬が気に食わないと言うのは当然だ。穢らわしい魔人に対して好意を抱く必要などない。とことん無慈悲に使い潰して、壊れたら捨てればいい。だが、まだ使い道が残っているのに、感情だけで排除しようとするのはいただけない。その愚行には益がない。私は貴様の感情のしりぬぐいをするために、貴様の支配者をしているのではない。あまりに使えないようなら、犬よりも先に貴様を排除するぞ』
「……も……申し訳ございません」
『これ以上、私を失望させるな、ヒークル』
そこで、ガリオは通信を切った。
残されたのは、ヒークルとパッサ。
ヒークルは、ギリギリィっと、奥歯をかみしめながら、
「パッサぁあああ! 貴様が私を殺そうとしたせいで……とんだ大恥をかいただろうがぁああああああああああああ!!」
叫びながら、パッサの顔面を思いっきりぶん殴るヒークル。
ヒークルの本気の拳だったので、パッサは耐えきれず、一撃でノックアウト。
意識を失って、白目で、その場に倒れこむ。
のびているパッサを何度も踏みつけながら、
ヒークルは、
「うぅううううっ……うぅうううううううっっ!!」
と、声にならない屈辱を叫ぶ。
全身が怒りで爆発しそう。
脳の血管が、いまにも、全部引きちぎれそう。
「くそがぁあ、くそがぁあ、くそがぁあああああ!!」
叫びながら、何度も、何度も、何度も、
パッサの頭を踏みつけていく。
ギリギリ死なないように……と、最初は配慮していたのだが、
感情が高まってきて、抑えがきかなくなり、
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
殺す気はなかったのだが、
しかし、つい、はずみで、
「………………ぁ」
気づいた時には、もう遅かった。
パッサの頭がグシャリとつぶれてしまった。
確認するまでもなく、パッサは完全に死んでいる。
「…………」
しばらくの間、ボォっと、パッサの死体を見下ろしていたヒークル。
30秒ほど、そんな時間を過ごしてから、
「……私のせいじゃない。暗殺しようとしたお前が悪い。あと、濡れ衣を着てやらなかった犬が悪い。私は何も悪くない」
と、妙に冷静で平坦な声でそう言うと、
そこで、会議室のドアがガチャっと開いて、
「すいませーん、忘れ物しましたぁ」
と、そんな事をいいながら、
センが会議室に入ってくる。
ちなみに忘れ物などない。
『不可視化状態で会議室を監視していたセラフ』から連絡があって戻ってきただけ。




