277話 鬼策。
277話 鬼策。
「も、もちろん、私は断りました! しかし、狡猾なあの犬は、あろうことか、私に、何かしらの魔法をかけて、暗殺を強制させたのです! なんという卑劣な犬でしょう!」
「……」
ヒークルは糞野郎だが、アホではない。
パッサの言葉を、そのまま丸のみしたりはしない。
ただ、
(ここでパッサを粛清したとしても……私は手ゴマを失うだけで、何も得ない。……コマを失うだけではなく、『配下殺し』という荷物も背負うことになる……パッサが暗殺しにきたから殺した……と周囲に説明したとしても、それはそれで、『配下に暗殺されそうになる支配力のない領主』という荷物を背負うはめに……)
ここで、パッサを処分することは簡単。
ヒークルが本気を出せば、数発殴るだけで、パッサを殺せる。
だが、そこにメリットは皆無。
だが、逆に、パッサの言い訳を採用するのであれば、
(このパッサの愚行を……あの犬のせいにすれば……大きなプレッシャーを与えることができる。あの犬だけではなく、パッサに対しても……大きな頸木にできる)
今後、負い目のあるパッサは、ヒークルから、どんな無茶な命令を受けても断ることができない。
『殺されそうになった』という事実はイラつくが、パッサごときでは、ヒークルは殺せないという前提がある以上、
安易に処刑するよりも、『負い目のある従順な配下』として使い潰した方が利益は大きい。
そして、今回の件を、うまいこと、センエースのせいに出来れば、
色々と旨味は大きい。
もし、センエースが、見事に反論して『自分のせいではなく、パッサが勝手に言っているだけだ』と、証明したとしても、その時に、罰を受けるのはウソをついたパッサだけであって、ヒークルは被害者の立場を死守できる。
(あの犬が、濡れ衣を晴らせなかったときは、ガリオ様の前でその大問題の責任を問い……濡れ衣を晴らしてきた時は、パッサに、ちょっとした罰をあたえて幕を引く。あの犬が、賢しらに謝罪などを要求してきたとしても、パッサにやらせればいい。そのぐらいの屈辱は受けてもらう。それで終わりだ。私は何も困らない。あの犬が困るか、パッサが屈辱を味わうか……それだけ)
なかなかのプランを思いついたヒークルは、
パッサに、
「あの犬め……私の配下を脅して、私を殺そうとするとは、とんでもない話だ。明日、審問会を開く。その場で証言しろ。分かったな」
「え……あ……はい……」
あんな無茶な言い訳は信じてもらえないだろう、と思っていたのだが、
なぜか、ヒークルに全面的に信じてもらえて困惑する。
そんなパッサに、ヒークルは、強い目を向けて、
グっと顔を近づけつつ、
「ことがことだけに、しっかりと是非をとう。ガリオ様も交えての審問会だ……死ぬ気で己の無実を叫べ、パッサ。決死の覚悟で、センエースの罪を問うんだ。もし、事実を証明できず、センエースが不問ということになったら……罰を受けるのは貴様だぞ、わかっているな、パッサ」
「は……はい」
★
翌日、開かれた審問会。
会議室への招集を受けたセン。
会議室にいるのは、
センと、ヒークルと、パッサ。
そして、通信魔法でつながったガリオ。
必要な役者が全員そろったところで、
ヒークルが、昨夜の問題を話し出す。
センエースに脅されて、パッサがヒークルを暗殺しようとしたという件。
センは、黙って、ヒークルの状況説明に耳を傾けていた。
心の中では、
(……お粗末なプランだな……その無茶を通すのは厳しくない? 何かしら、俺を犯人に仕立て上げられる決定的な捏造証拠でもあるのか? なかったら、ヒークルのガリオに対する心象が悪くなるだけだと思うんだが……そんなことすら分からないほど、ヒークルはバカなのか? バカはバカでも、そこまでのバカではないと思っていたんだが……)
と、頭の中で思っていると、
そこで、ヒークルが、
「私の配下を脅して、私を暗殺しようとするなど、言語道断。さて、センエース……貴様の反論を聞こう。それとも、罪を認めて謝罪をするか?」




