275話 女々しい!
275話 女々しい!
パッサは、それだけの実力者なので、
これまで、ずっと、ヒークルに、だいぶ可愛がられてきた。
優秀で従順な戦力として、目をかけられており、
そのことを、パッサも誇りに思っていた。
パッサは、会議室に足を踏み入れてすぐ、
ヒークルの、みっともなく泣きじゃくっている姿を見てしまい、
「あっ……えっと……申し訳ありません」
と、反射的に、目をそむけながら、頭を下げた。
そんなパッサに、
ヒークルは、
「なにがだぁ……」
ゆっくりと立ち上がりながら、
涙を拭きつつ、
「おい……パッサ……なにが、申し訳ないんだ? あぁ?」
まるで、スラムのチンピラのように、
擦れた悪態をつきつつ、
パッサに近づき、
パッサの髪をワシっと掴んで、顔をムリヤリあげると、
パッサの目を睨みつけ、
「ナメるなよ、くそがきぃ……」
「ヒークル様を……な、なめてなど――」
「やかましぃいいいい!!」
叫びながら、
渾身の頭突きをお見舞いしていく。
センが相手だと、ノーダメージの一撃でも、
パッサが相手だと、
「ぐわぁああっ!」
額が割れて、血があふれる。
頭を押さえて苦しんでいるパッサの姿を見て、
ハっと我に返るヒークル。
センに『小さな女の子みたいな拳』とまで言われたので、
本当に、そのぐらい力が弱まっているのか、と誤解していたが、
流石に、そこまで力がなくなっているわけではない。
いつもと比べれば半分以下ぐらいになっているが、
もともとが強大な力をもっているので、
本気で頭突きすれば、配下の頭を割るぐらいはできてしまう。
本来であれば、ここで頭を下げるべきだが、
しかし、意味のないプライドばかり高いヒークルは、
「こ、この程度で、わーわー騒ぐな! 女か! 女々しい!」
と、『2000年代の第一アルファで口にしたら一瞬で炎上しそうなこと』を口にする。
暴言を吐き捨てられたパッサは、頭の痛みにもだえつつ、
心の中で、
(こ、この野郎……)
ギリギリっと奥歯をかみしめ、普通に怒り狂う。
パッサは、ヒークルのことを、それなりに尊敬していたが、
心の底から崇拝していた……とかではない。
あくまでも、『可愛がってくれる上司』『たまの癇癪がまあまあひどいけど、自分にとっては悪い上司ではない』という感じで、折り合いをつけていた感じ。
そして、根本的なパッサの性格は、短気でプライドが高い。
プライドが高い男というのは、珍しくもなんともない。
特に、パッサのような、『精鋭部隊の上澄み』という立場にいる男は、プライドが高くなりやすいもの。
だから、こんな風に、分かりやすくパワハラされてしまうと、
(こ、殺す……こいつ……)
プライドが高い短気な男に、ゴリゴリのパワハラなど仕掛けようものなら、
こうして、キッチリと、恨みを買ってしまう。
ここでヒークルが謝っていれば、
あるいは、パッサの怒りもおさまっていたかもしれないが、
「さっさと消えろ、パッサ。いつまで、そこで喚いているつもりだ」
引っ込みのつかなくなったヒークルからの『トドメの一撃』をくらい、
パッサは覚悟する。
(決めた……絶対に殺す……絶対に……絶対に……)
★
その日の深夜、
場所は、ヒークルの寝室。
いつものように、ベッドで眠っているヒークル。
ストレス性の歯ぎしりしがやかましい。
そんなヒークルの寝室に、忍び込む影が一つ。
その曲者の名前はパッサ。
理不尽なパワハラに怒り心頭のパッサは、
色々と悩んだ末に、
『ヒークルを暗殺してやろう』
という、えげつない決断を下した。
(幸い、現状、センエースという、格好のスケープゴートがいる。ヒークルが死ねば……犯人として疑われるのはあいつだ)
全ての罪をセンエースに押し付ける腹積もりで、
パッサは、ヒークル暗殺計画を敢行するに至った。
だいぶ安易な考えだが、
しかし、なんだかんだで、実際のところ、
センの仕業として処理される可能性が高い。




