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268話 優しすぎる。


 268話 優しすぎる。


 街に出たセンは、背伸びをしながら、ゆっくりと散歩を開始。

 ドラウグルが暴れた跡を見学しつつ、街中を練り歩いていると、

 不可視化状態のセラフが影から出てきて、


「ご命令通り、今回の騒動で『死亡』という扱いになった者は、全員『魔人化』の呪いをかけた上で、洗脳・支配の魔法を重ね掛けして、邪教団ゼノに送り込みました」


「はい、OK。今後も、カスを見つけたら、大半はゼノに送り込む。マジでどうしようもない奴は殺すけど」


「尊き王よ……なぜ、カスどもにチャンスを与えるのですか?」


 純粋な疑問をぶつけてくるセラフに、

 センは、遠くを見つめながら、


「チャンスを与えているつもりはねぇよ。俺はあいつらに対し『楽に死ねると思うなよ』と脅しをかましているだけだ」


「……あなた様は、優しすぎる……それが、今後、あなた様の枷になる気がしてなりません」


「キモいこと言ってんじゃねぇよ。俺、そういう『生ぬるいだけの現実逃避した言葉』が、吐くほど嫌いなんだ。『優しさ』は『アイロニー』の対義語。辞書的にどうかは知らんが、俺的にはそれが現実。そして、俺以上の皮肉屋は、そういねぇ。それが俺にとってのリアル。揺るぎない現実。オーライ?」


「……」


「そんな目して、見つめちゃ照れるぜ」




 ★




「……んっ」


 ヒークルが目を覚ました時、すでに外は真っ暗になっていた。

 ズキズキする頭をおさえながら起き上がり、

 パーリナンとカイを呼ぶ。


 部分的に、記憶が混濁しているので、自分の記憶が正しい順序をたどっているか確認しようとした。


 結果、特にズレている個所や、妄想で補完しているところなどもないということが判明し、


「あの、糞野郎……」


 センに対する『自身のイラつき』が『正当なものである』と理解する。

 すると、また血圧が上昇。

 とにかく、センエースに対するイライラが止まらない。


 センを呼び出して殴りたかったが、

 顔を見たら、また、あの軽薄な態度にイラつき、血管にダメージがいきそうなので、

 奥歯をかみしめて我慢する。

 だが、この怒りを放っておくわけにもいかず、

 反射的に、カイを殴ろうとして、


「ぐぁああああ!!」


 呪い発動で、また頭痛。

 懲りない男、ヒークル。

 自分にかかっている呪いは理解しているのだが、どうしても、長年の習慣から、イラっとしたら、すぐに手を出してしまいそうになる。


「くそ、くそ、くそぉおおおお!」


 カイに対する悪意を引っ込めたヒークル。

 しかし、怒りそのものは収まらない。

 ……となれば、必然、


「パーリナン!!」


 と、叫びながら、

 ガツンッッ!

 と、パーリナンの顔面に拳をたたきつける。


 殴られたパーリナンは、

 一瞬、何が何だか分からない顔をしていたが、


 すぐに、キっと、目線を強くして、ヒークルを睨みつけ、


「な、何をなさるのですか……私がいったい、何をしたと――」


 と、まっとうな文句を口にするパーリナンに、

 だからこそ、


「うるさぁああああああい!! 貴様も口答えするのかぁあああああ!! 口答えするから殴られているのが、なぜ、わからんのだぁあああ! このクソバカがぁああああ!」


 時系列がめちゃくちゃシッカリと破綻した暴論で、パーリナンをボコボコにしていくヒークル。


 もう、ぐっちゃぐちゃ。


 パーリナンは、数発は殴られてやったが、しかし、


「や、やめてください!!」


 と、流石に我慢の限界という顔で抵抗を試みる。

 ヒークルの右ストレートに、右のフックをクロスカウンターであわせていく。

 ガツンとヒークルの顔面にささる、パーリナンの拳。


 存在値的にも、戦闘力的にも、ヒークルの方がだいぶ上だが、

 消耗しきっている今のヒークルだと、パーリナンとほぼ互角。


「ぐっ……」


 殴られた痛みと衝撃でフラつくヒークル。

 パーリナンが相手だと気持ちよく殴れないと理解するや否や、


「くそがぁあ!」


 と叫びながら部屋を飛び出し、

 生き残っている精鋭部隊のもとへと向かい、

 手ごろなヤツに、テキトーな理由をつけて、暴力をふるう。


 パーリナンは、その様子を黙って見守りながら、


(この男も、もう終わりだな。まあ、センエースという異常種に目をつけられた段階で終わっていたんだろうが……)



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― 新着の感想 ―
センの静かな散歩と、ヒークルの醜い暴れっぷりの対比が鮮烈でした。呪われてもなお暴力の習慣を止められず、ついには部下のパーリナンにまで見限られるヒークルの「終わっていく感じ」がリアルで面白いです。
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