210話 理不尽。
210話 理不尽。
「そ、そのお体では……む、無理ではないでしょうか」
と、真っ当な進言。
普通に『心配』してもらっているにも関わらず、
ヒークルは、真っ赤な顔……ブチギレ顔で、カイをにらみつけて、
「やかましい! 腑抜けたことを抜かすな! 糞虫が! 貴様がもっと上手くサポートしていれば、あのくそアンデッドにも勝てたんだ! 貴様の失態だ! わかっているのか! 毎度毎度、貴様のような糞虫に足を引っ張られる私の気持ちが、貴様にわかるか!」
そう叫びながら、いつものように、カイをボコボコにしていくヒークル。
カイは、『特化型のサポーター』で、セラフとの闘いでも基本的には後方支援に徹していたため、セラフからダメージはほとんど受けていない。
――だというのに、カイの肉体は、ヒークルと同じか、それ以上にボコボコの状態。
その理由は、ヒークルの八つ当たり。
イラついた時、モノにあたるタイプ。
ヒークルは、ちょっとでもイラついたら、とりあえず、カイを殴るというのが日課になっている。
カイは、存在値51で、かなり強く、後方支援型ではあるが、防御力も高いタイプだし、回復魔法も使えるので、ヒークルが思い切り攻撃しても、そう簡単には壊れない。
ゆえに、『ちょうどいいサンドバック』として、日々、理不尽な暴行を受け続けている。
――普段の暴行だと、最低限の『手加減』をしているヒークルだが、
セラフにボコられて怒りがマックス状態になっているため、
リミッターが解除されており、一切手加減なく、カイを殴り続ける。
ガフっと、濃い血を吐くカイを見て、
ヒークルの側近であり副官でもある『パーリナン』が、
「ヒークル様。おやめください、それ以上は流石に死んでしまいます。カイは有能なサポーターなので殺されては困ります。それに、クロッカ様から、『魔人に対する過剰な折檻は控えるように』とお達しが出ているのをお忘れですか」
「あんな小娘の命令など聞いていられるか!」
怒りに任せて、そう叫びつつ、ヒークルは、さらに、カイをボコボコにしていく。
『このままだと本当にカイが死ぬ』と思ったパーリナンは、
「ヒークル様! 魔人に対する過度な暴行を禁じているのは、クロッカ様だけではありません! ガリオ様からも、同じ命令が下っております! おやめください!」
と、そう叫んだ。
結果、ヒークルは手を止めて、
「ふー、ふぅう…………ちぃっ……」
鬱陶しそうに舌を打つと、
カイから手を放して、
「ガリオ様は有能な王だが……『娘に甘いところ』だけ、玉に瑕だな……あんな愚かな小娘のワガママに耳を傾ける必要などないというのに……」
深いタメ息まじり、本音を吐露するヒークル。
気を静めようと、その場でスクワットを開始する。
常に、隙あらば『訓練と鍛錬』をしているヒークル。
向上心と意識は非常に高いし、能力も優れているが、人格という点では、さほど優れてはいない。
差別意識に関して言えば、普通。
彼が突出して酷いわけではなく、この世界での魔人の扱いは基本こんなもの。
ただ、一応言っておくと、皆が皆、いらつくたびに魔人をボコボコにするわけではない。
ヒークルやオンドリューは、
単に『イラつくとモノに当たるタイプ』というだけ。
イラついた時の態度は、千差万別。
何もせず静かにキレて内側に溜め込むタイプもいれば、
ヒークルやオンドリューのように、
道具に当たって発散しようとするタイプもいる。
それだけ。
スクワットをしているヒークルを見つめながら、
冷静な副官『パーリナン』が頭に手を当てて、あきれ混じりに、
「クロッカ様を小娘扱いは……流石に許されません」
パーリナンは、ヒークルの強さやストイックさやは尊敬しているが、気性の荒さに関しては、正直うんざりしている。




