206話 ケンカに負けた犬。
206話 ケンカに負けた犬。
そこで、センは、ゴロンと寝転がり、腹を出して、
「キャイン!」
と、一度、『ケンカに負けた犬』のように鳴いてみせた。
そんなセンの、『ある意味』で、『もっとも人をナメた態度』に、ガリオは、
「……」
普通に、不快感マックスな顔をしつつも、
「……お前の望みは、出来るだけ叶えてやる。魔人の地位向上……面倒な話だが、対応してやる。少なくとも、過剰な迫害に対しては、正式に罰則を設けよう。数日以内に龍法として定める」
センは、ゆっくりと立ち上がって、
「龍法は、憲法ですので、自由に書き換えることは許されないのでは?」
「自由に書き換えることはできない。しかし、ルールにのっとって、『時代に適合した法』を加えていくことは可能……というより、それこそが、当主である私の最大の義務である」
「ほう……なるほど」
「魔人の扱いに関してだけではなく、私直属の十七眷属が保有する有能な魔人を、何人かくれてやる。……これで、お前の望みは全て叶えてやった。今後、私の命令には忠実に従ってもらうぞ」
「ははーっ」
と、返事をしながら、センは心の中で、
(……最初からそう言っていれば、お前の、今後の扱いも変わっていたんだがな。ガリオ……お前は、一手、遅かった。……悪くない提案だが、それは、俺という暴力に屈して折れただけ。『むしろ、信念がない』とすらいえる、怠惰で愚鈍な一手。お前に王は任せられない)
センの、ガリオに対する判定に変化はない。
センの中で、ガリオは、『終わった者』である。
「セン。貴様には『異常』と言ってもいいほどの『過剰な褒美』を与えた。相応の働きをしてもらわなければいけない。私のため……そして、お前なんかを拾ってくれたクロッカのためにも、死ぬ気で任務をこなせ」
(このオッサン……一応、クロッカのことは愛しているのかね……まあ、愛情もなくはないんだろうが……んー)
そこで、センは、顔を上げて、ガリオに、
「一つ、質問よろしいですか、我が主ガリオ様」
「なんだ。もうしてみよ」
「ガリオ様とクロッカ様……どちらか一人しか助けられない、という状況になった時、俺は、どちらを助ければよろしいですか?」
「両方助けろ、バカ者」
「もちろん、両方助けるために尽力させていただきます。龍神族の御方々のために、俺は死力を尽くして奮戦すると誓います。しかし、現実問題として……『どちらか一人しか助けられないという場面』――『俺の努力どうこうでは、どうしようもない場面』というのが、普通にありえると思います。その際に、俺は、どちらを先に助けるべきですか? ここは大事ですよ。私は、そういった場面になった時、ここで命じられたとおりに行動いたしますので。『ガリオ様を優先しろ』と、ここで、ハッキリと御命じになられるのであれば、もし、そういう場面になった際、私は、絶対にガリオ様を優先させると神に誓いましょう。しかし、明言されないのであれば、クロッカ様を優先させる……可能性があります。どうします?」
「……」
ガリオは、眉間にシワを寄せて、少しだけ考えた。
『数秒』という『思いのほか重たい時間』を使った果てに、
ガリオは、センに、
「私を優先させろ。特殊な場面限定の話ではない。すべてにおいてだ。当然だろう。私は龍神族の当主。この世で最も尊き存在。民のためにも、世界のためにも、あらゆる意味で、死ぬわけにはいかないのだ」
「……仰せのままに」
そう言いながら、センは頭を下げた。
その心の中では、
(民のためだの、世界のためだの……その辺の『蛇足』は完全に『おためごかしの寝言』だが……まあ、ここに関しては、別にいい。『自分を優先させるための言い訳』をツラツラのたまうのは、ガリオだけの異常ってわけでもねぇからな。みんな、そうさ。たいがいのやつは、結局、自分が一番かわいい。それに関しては、俺も変わらない)




