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第十六話

「クソ、余計な手間を取らせやがって」


国を回って三蛇会の後始末を終えた俺は、ようやくアラバに戻ってくる事が出来た。

相変わらずクソ野郎共はしぶとく生き残りやがる。お陰で予定より大分遅れたじゃねえか。


この世に残った最後の例の薬を火の付いた暖炉へとぶん投げてやる。

もしかしたら上手く利用すれば良い薬になるかとも思ったが、結局厄モノ中の厄モノなのは変わらなかった。

奴は「不死になるが、著しく知能が低下する薬」と簡単に言っていたが、俺達に正直に話すつもりは無かったのか、それともクソ共が知らなかったかは分からんがアレは嘘っぱちだ。

本当に知能が低下するのならば、まず歩行する事すら困難になるだろう。人間が歩くというのは案外高度な技術だ。

そして、あのクソ死体もどきは他の人間を襲うという目的を持って行動していた。本当に知能が無いなら適当に動く筈だろ?何故人を狙って襲うんだ?


疑問に思った俺は三蛇会の残党を潰すついでに薬の調査をした。

まずは不死化の条件を調べる事にした。試しに三蛇会の構成員を数日放置して腐敗させた後、例の薬を投与してみたら動かなかった。

三蛇会のクソで生きてる奴の脳の大半を切り取った後に与えてみたら、徐々に暴れだした。


まあ、他にも頭だけにした奴とかめんどくせえ調査もしたが、とりあえず擬似的な不死を得るためには新鮮な必要があるって事はわかった。

腐敗してしまうと薬による身体の変化が起こらないのだろう。



そして、何故クソ死体共は人を襲うのか。

これに関しても色々確かめてみたんだが、最終的に俺は一つの推測へと至った。

薬の副作用は知能を低下させるのではなく、暴力へと向かう感情を増幅させるのではないか?それこそ、知能が無いと感じる程に。

これならばあの会合でのクソ死体の行動に目的があるように見えたのもわかる。奴らはとりあえず目立つ動いているモノである人間に暴力を振るっていたんだ。

試しに牢屋に勝手に動く仕掛け人形を置いて、三蛇会のクソに薬をやってから俺は全く動かず静かにしていたらクソは真っ先に仕掛け人形を壊した。

その後は俺に襲いかかってきたので、どうやら認識が全く出来ないわけでもないらしい。やはり知能が無いとは思えなかった。


脳に関してはまだ知られていない事が殆どだ。この俺でさえ脳が指令を送って人間を動かしていると漠然に知っている位だからな。一般人は未だに心臓に心があると思っているだろう。

もっとも、穴は多い推測だ。この推測だと身体だけのクソ死体もどきが暴れる理由がわからねえ、せめて薬が効いてる奴と話せれば良いんだがな。


だが、俺の推測が半分でも正しいならばそれは無理な相談だ。仮に薬を飲んでもおかしくならない奴は、何があろうと怒りの感情が出ない人間という事になる。

どんな人でも全く怒らない奴なんて居ない。温和と呼ばれる野郎でも、鳥のクソが頭に落ちたら鳥にイラつきを覚えるだろ?


「仮に居るとすれば、それは聖人か――狂人だろうな」


薬の事が書かれた書類も一緒に燃やした。製法を知る者は全員殺したし、部下もこの薬に関する事は触らせていない。もう、薬を作ることは出来ないだろう。

クソみたいな奴らだが、三蛇会の哲学者は間違いなく天才だった。こんなクソ薬を開発出来る人間は少なくとも俺の生きている間は現れない筈だ。ようやく肩の荷が下りた気がした。


「チッ、気持ちわりい。やっぱり余計な事をするんじゃなかったぜ」


万が一不死になれる効能だけ取り出せたら、と思い色々やったが結局俺は諦めた。後に残ったのは実験の後味の悪さだけだ。

使った人間は三蛇会のクソ野郎共だけだが、もう二度と似たような事はしねえ。



「クラス様……王宮で、動きがありました」


自室がノックされ、白髪を総髪にした中年の男が入ってくる。

昔から俺に仕えている部下で、この街に降ったときにも内密に付いて来てくれた信頼出来る者だ。


「エル関係か?」


王都の外に居るときも連絡役から情報は仕入れていた。特に王宮と例の三人は念入りに調べるようにと頼んである。

グラディエルがザペルに攫われたという話も既に聞いていた。急いで戻ろうとも思ったが、クソザペルがアイツを害するつもりなら既に手遅れであることから本来の仕事を優先したのだった。

ただ、その件は怪力女がグラディエルを救出して解決したという話だった筈だ。あのヤロウが死んでいないらしいから実際はどうなのかわからないが、ただアンブレラが国から多額の報酬と市民が得られる最上位の勲章を貰ったというのは周知されていた。

しかし、縛れるとは思っていなかったがあんなに釘を刺したのにやり合いやがって、腹立つぜ。


「ええ……女王陛下が、反感を持っている貴族達を粛清しました」

「何だと!?」


思わず、怒声を上げてテーブルを殴りつける。クソッタレ、何か起こると思っていたが、こんな血なまぐさい事になっちまうとは……。


「かの執事の協力もありましたが、見事な手際でした。確実に敵と言える貴族のみを粛清し、我が派閥の者は全員無事です。流石に、地方の悪徳貴族までは手が届かなかったようですが」

「――当たり前だ。俺が教育したからな、人を見る目は鍛えてある。アイツは本気を出せば女王の器なんだよ」


ただ、グラディエルの手を汚させるつもりは無かった。本来なら俺があと五年……いや、三年程時間をかけてクソ貴族野郎を排除し、裏からグラディエルを助けてやろうと思っていたのだ。

例えこの粛清が成功だったとしても、歴史書には血塗られた女王として名が残る事になってしまうだろう――俺はそんな女王にアイツをしたくなかった。


「クラス様、あまり気を落とされませんよう……王宮で見たグラディエル様の様子、もう時間が無いとも言えました」

「……俺の手段じゃ間に合わなかったか?」

「きっと、自死を選ぶか、貴族に命を奪われていたでしょう」


握った手を緩めて、椅子に深く腰掛ける。

ここから出る前のグラディエルはいきなりこんな行動をするヤツでは無かった。何がアイツを変えたんだ?

――そう、クソザペルだ。ヤツがグラディエルを攫ったのが原因の一つだろう。


「……昔、グラディエルに暗示をかけたんだ。当時、最悪だと考えていたのは俺ら兄妹が全員死ぬ事だった。クソ貴族が幅を利かせていたせいで、俺らが死んだらクソが王になっちまう。そうなったら国は終わりだ」


暖炉の火を眺めながら、俺は呟いた。腹心の部下はそんな俺の様子に何も言うことなく静かに聞いてくれていた。


「クソ貴族によって俺たちは排除される。そう思った俺は最後に残るのがグラディエルだと思った」


腕を組んで、まぶたを閉じる。小さい頃のグラディエルが浮かんでは消えていく。


「アイツはまだ小さい。心が折れて人生を諦めてしまうかもしれない。実際、以前の王宮では既に諦めていたようだったしな。そう思った俺は自ら死ぬ事が出来ないように最後の壁であるエルへと言い聞かせたんだよ。『王家の誇りを忘れるな』とな。この国の国教は自死を戒めているし、自分から死を選ぶような弱いヤツが王だと国民はどう思う?と何度も尋ねた」

「そう、だったのですか。確かにグラディエル様はあんなに様子になりながらも、良く一線は越えないでいてくれていると思いましたが……」

「ただ、死にたくても暗示によって自分を殺すことが出来ないアイツは、王宮だと『無気力』になった。これは良かったんだ、俺らが助ける予定だったから、後で王宮をアイツの住みやすいようにしていけば徐々に昔の性格に戻れると思っていた」


手元にあった金属ペンを握りしめる。徐々にそれは歪んでいき、ついに役目を果たさないものになった。


「だが、よりにもよって悪魔がアイツを攫っていった。住んでいるヤツ全員が大量殺人者で、趣味の最悪な物が置いてある伏魔殿に、グラディエルを留めたんだ。そんな異常な場所で、死にたくても死ぬことが出来ないエルは一体、どうなったと思う?」

「……」

「『適応』したんだよ、あの環境にな。勿論、クソザペルが吹き込んだのもあるだろうが、それだけならあそこまで変わりはしない。昔からアイツを見ていた俺にはわかる」


戻ってきたグラディエルの様子も聞いていた。かつて睨まれ処刑されていた魔女と呼ばれた者のような服装を好み、夜な夜な儀式と称して怪しげな行為をしている事も。

ただザペルに洗脳されただけならこうはなるまい。ヤツならばこんな洗脳されましたと分かりやすい状態にはしない。

誰も気付かないような普段通りの変わらぬ様子のままで、人を殺せるようにする筈だ。


「ザペルを殺しますか?」


部下が聞いてくる。ああ、気持ちはわかるぜ。俺もエルをあんなにした原因を作ったクソヤロウをどうにかしてえ。今隣に居たらぶっ飛ばしてる。


「何故殺す必要がある?ザペルが関わったお陰で、俺達の計画は年単位で早まって、上手くいっているんだぜ?エルはああなっちまったが、粛清の手際からしてしっかりした補佐が居れば政治は出来そうだ。そして、王都のクソ貴族は殆ど死んで、風通しが良くなってる――これから更に国は良くなるぜ?」

「……確かにそうですね。失礼しました」


毎回毎回ザペルのクソヤロウの行動は、結果だけを見るならば歓迎するべき事なんだ。クソッタレが。

もっと殺したくなるような理由が有れば良いのによ。


「……それにしても、今ならば王宮に戻る事が出来るのでは?クラス様……いえ、第一王子――」

「やめろ。今更表舞台に戻れる程俺はもう上品じゃねえよ。王宮から逃げる時に顔も大分変えちまったしな。変わり果てた俺の顔を見ても誰も喜ばねえだろ」


手を振って部下に答える。エルの行為が可愛く思える程に、俺もクソだ。街に降ってからは大量の人を殺したし弄んだ。

助けられる者も、国の利益の為と言い訳して犠牲にし続けた。今更民を導くなんて言ったら頭に雷が落ちちまうよ。


「チッ、こんな事になるなら、俺が王宮に居る時にさっさとクソ貴族を全員ぶっ殺しとけば良かったぜ。トロトロ不正の証拠集めをしてた昔の俺をぶん殴ってやりてえ」


グラディエル、揃いも揃って手を汚せなかった甘い兄貴達を許してくれ。

今章はこれにて終了です。

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