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第十一話

数日後、村の畑仕事を手伝ってから私は村を後にしました。

毎晩宴会騒ぎで楽しかったです、妹も連れてこれなかったのが残念ですね。

王都でのお仕事が凄く忙しいらしく、私と出会う時間もなかなか取れないと嘆いていましたが、次は時間を合わせて行きたいです。


それより、ようやく私は我が家に帰ってくる事が出来ました。

村は私の故郷ですが、我が家も第二の故郷です。居なかったのはたった数日ですが懐かしさがこみ上げて感極まりますね。

しかし、いつもはもっと明るく辺りを照らしてくれているのですが、今日に限って全く明かりがありません。一体どうしたのでしょうか。


「おかえりなさいませ。ご主人様」


門扉に近付いた所で傘を差したシドラさんが出迎えてくれます。もう片方の手にはランタンを持っていました。

これからますます暗くなってしまうので、今はシドラさんのランタンの明かりだけが頼りの状況ですね。そのまま私を先導してくれるようです。


「それと、申し訳ありません。グラディエルちゃんがロウソクの在庫を全て使ってしまって……今館にあるのは少しのオイルランプしかありません」


家の中に入ると、シドラさんが腰を折りながら明かりが付いていない原因を教えてくれます。

ああ、館にもう明かり用のロウソクが少なかったのですね。これは私が気付かなかったのも悪いでしょう。

グラディエルちゃんは暗いのが苦手で沢山ロウソクを使ってしまったのでしょうか。やっぱり可愛らしいですね。


「いえいえ、シドラさんは悪くないですよ。明日になったら買い出しして大量に備蓄しておきましょう」

「有難うございます」


中を歩きながら、いつもと感じが違う我が家を見渡します。この雰囲気も良いものですね、新しい顔を見せてくれたグラディエルちゃんに感謝です。

そういえば、グラディエルちゃんはどうしているでしょうか?家を気に入ってくれているのは良いのですが、そろそろ帰らないと親御さんが心配していると思うのですが……。

恐らく、衛兵かアンブレラさんの自警団の方に迷子になったと親から話がいっていると思います。明日にはアンブレラさんにでも相談してみましょうか。


「傘をお預かりします。既にお湯を沸かしてありますので、その後にでもお着替え下さい」

「ああ、有難うございます。この服は汚れてしまったので後で処分して貰って構いません」

「畏まりました」


お風呂に入ろうと、浴室への道を歩いていた所で、玄関から何かが倒れる大きな音がします。


「……ご主人様」

「ああ、大丈夫です。どうやらアンブレラさんみたいですね」


アンブレラさんは元気な人なので扉を開けないで飛び込んでいくのを良く見ます。どうやら私の家でも変わらないみたいですね。

急な来客ですが、アンブレラさんは友人ですからね。友人には私自身がまず挨拶しませんと。踵を返して戻ろうとした所で、シドラさんは持っていたランプを渡してくれます。


「お気をつけ下さい」


暗くて足元が見えづらいですからね、転んで油の火がカーペットに移ったら大変です。

私は段差に気をつけながら戻っていきます。



玄関ホールには、金具が外れて倒れた扉の上にアンブレラさんが立っていました。

今日はドレス姿ではなく、アンブレラさんが組織している自警団の制服を着ていますね。他の方と違って赤く染色されていますが、動きやすくて良さそうです。

妹に言われているので私はこの服装ですが、アンブレラさんの服も着てみたいですね。


「相変わらずアンブレラさんは元気ですね」


アンブレラさんの良いところは、常にやる気に満ちあふれていて私達にその元気を分けてくれる事です。

あと、ちょっと怒りっぽい所もありますが、それ以上に人に優しいのを私は知っています。なかなか表に出してくれませんが。


「どうやら立て込んでたみたいね。折角の服が台無しになってるわよ?」

「……?ああ、これですか。別に大した事じゃありませんよ。ちょっと家畜の屠殺をしましてね、思ったより暴れてしまって困りました」


私の姿を見たアンブレラさんが、早速私の服の汚れを指摘します。

本当は着替えた方が良いのでしょうが、彼女は友人ですからね。着替えの為に待たせるなんて他人行儀な事はしませんよ。

それにしても、あの鶏は元気でしたね……卵を産まなくなったとの事なので仕方なく命を頂く事になってしまいましたが、本来はまだまだ元気に野を走り回っていたと思います。


「それより、そろそろ来られる頃だと思っていましたよ」


グラディエルちゃんとは街中を結構歩きましたから、いろんな人から見られていたと思います。

あの子の親からアンブレラさんの所に連絡が行ったのならば、私が保護した事を遠からず優秀なアンブレラさん達が突き止めるとは思っていました。

本当は私から連れていけば良かったのかも知れませんが……いけませんね、グラディエルちゃんが私の家に居たがっているようなので、舞い上がってついつい歓待し続けてしまいました。

みんな私の家に長時間居たがりませんからね。でも、私のワガママでアンブレラさんにわざわざ来てもらう事になったのは申し訳なく思っています。


「へえ……なら話は早いわ。あの娘を連れてきなさい」


やっぱりアンブレラさんはあの子を迎えに来てくれたみたいですね。寂しいですが、お別れの時間がやってきてしまったようです。


「もちろん、今呼びますね。少し待って頂けますか?」


グラディエルちゃんの言葉に甘えて、いつまでも彼女を家に帰さないわけにはいきません。私は、アンブレラさんに一言告げるとグラディエルちゃんに与えた一室に向かいます。

本当はお茶でも飲んで頂きたいのですが、今家はこんな様子ですからね。次来られた時は絶対にご馳走しますよ。


グラディエルちゃんの寝起きしている部屋は館の奥にあるので、少し歩く事になりますね。私の居ない間、元気で居てくれたなら良いのですが。

部屋に近付くと、虫除けの香の匂いがしてきます。懐かしいですね、村で良く焚いていました。


部屋の前に立つと、中からグラディエルちゃんの声がしますね。ノックしたのですが、返事が無かったのでそのまま私は扉を開けます。

グラディエルちゃんが寝泊まりしていた部屋は、私が帰ってくるまでに大分様子が変わっていました。

少し前にはあった筈の家具の殆どが無くなってしまっていて、壁や床も含めて私が見たことのない色んな絵が書かれ、中心には変わった格好をしたグラディエルちゃんが、

仰向けになり手を組んで眠るように横たわっていました。


はええ…………最近の都会の若い子は変わった遊びをするんだべなぁ……おら、ここ最近で一番驚いたべ……。


「サンクトゥス・モーテム・リディ・ラ・メ――死神様、お帰りですか」


私が中に入ったのに気付いた彼女が、呟いていた言葉を切り上げて立ち上がります。

グラディエルちゃんが言っていた言葉の意味はわからなかったので、この辺りの言語では無さそうです。グラディエルちゃんは頭のいい子なのでしょうね。

ところで、何でグラディエルちゃんは私の事を死神様と呼ぶのでしょうか……。


「グラディエルちゃん、お迎えが来ましたよ?それと、私はザペルです」

「ごめんなさい、此処は現し世でしたね……。それと、どうやら星辰が正しい位置へと向かいつつあるようで」


……?言っている意味が私にはわかりませんが、もう何日も雨が降ってるので星は見えませんよ?

いえ、子供に否定の言葉は使ってはいけませんね。教育は認めてから、訂正するべきと村のアンナさんが言っていました。


「それは素晴らしいですね――さあ、玄関へと向かいましょう」


すみません、アンナさん。どう訂正すれば良いのか私にはわかりませんでした。


「わかりました」


私の言葉を聞いたグラディエルちゃんは、床に転がっていた変なオブジェを拾います。杖のようですが、普通使われない飾りが先端にくっついていました。

果たしてそれは家に帰るのに必要なのでしょうか……都会の常識も理解してきたと思っていたのですが、なんだか自信が無くなってきました。

でも、ここに来た時よりグラディエルちゃんが元気になっているのは良かったです。



………

……



「今から本気でこのお姫様を助ける事に決めた。悪魔――いえ、魔王の方が今のアンタにはしっくりくるわね。魔王、お前を討つわ」


……正直、混乱しています。どうして今この話の流れでアンブレラさんに勝負を挑まれるような事になるのでしょうか。

グラディエルちゃんが実はマルファちゃんという名前だったのには驚きましたが――72のなんとかは私には理解出来ませんでした――アンブレラさんに彼女を預けてこの件は解決だと思ったのですが。

アンブレラさんには洗脳とか謂れのない指摘を受けますし……一体どうなっているのでしょう?


落ち着いて考えましょう。まず、アンブレラさんはグラ……マルファちゃんを迎えにここまでやってきました。

次に、私はマルファちゃんをアンブレラさんに預けようとしました……そうしたらアンブレラさんがいきなり魔王を討つとか言い出しました。


最後の展開に脈絡が無さすぎますね。これはマルファちゃん関係とは別件と考えるべきでしょう。

アンブレラさんと私は友人ですので、最後のアンブレラさんの言葉は私と遊びたいという事でしょうか。

友人の家に行くときは、広義の意味で遊びに行くか物を借りるかの二択しかありませんからね。


そして、私の事を魔王と呼ぶという事は……もしかして、アンブレラさんは昔の妹のようにごっこ遊びしたいのですか?


私と遊びたいというアンブレラさんの気持ちは嬉しいですが、今はマルファちゃんを親御さんの元へと送り届けるのが先だと思うのですが……。

それに、今我が家は明かりも無く外も大雨ですよ?せめて、日中の晴れた日に外で身体を動かしませんか?

マルファちゃんをお姫様と言う位ですから、彼女も参加させる気マンマンのようですし……ただ、私の勘違いという可能性もありますね、念の為確認しましょう。


「本気ですか?私は構いませんが、別に今でなくても良いと思うのですが」


私はこの街に居る時はいつでも暇ですので、何なら明日にでも一緒に遊びましょうよ。


「本気も本気だよ。私は今直ぐ()らなきゃ気がすまないんだ」


アンブレラさん、もの凄い気迫ですね。そして、どうやら私の勘違いでは無かったようです。

そんなに私と遊ぶのを楽しみにしていたのでしょうか……まあ、良いでしょう。例え今の状況が何だろうと、私は友人の求めを断るつもりはありません。


「気が進みませんが、アンブレラさんの頼みというならば仕方ありませんね。しかし、正直意外です……アンブレラさんにそういう趣味があったとは」


私も妹と村を出るまでごっこ遊びをしていたのであまり人の事を言えませんが、アンブレラさんもこういう遊びが好きなのは意外でした。

正直、とっくの昔に卒業していると思っていたのですが。


「私も不思議に思ってる。でも、そうさせたのはアンタだよ」


そんな、私のせいにされても困ります……アンブレラさんが誘ってきたのではないですか。


「……分かりました。では、お相手しましょう。貴女の言う通り、私が『魔王』で貴女が『勇者』ということで」


いつもの役割ですね、妹と遊ぶ時、私は毎回魔王です。

魔王は慣れていますので、むしろいきなり勇者をやらされないで安心しました。勇者はどう振る舞えばいいのかわかりませんから。

まあ、色々と不思議な所はありますが、折角友人と遊ぶのですから私も全力で行きましょう。

グラディエルちゃんが愉快すぎて話が進まない。おのれザペル!ゆ゛る゛さ゛ん゛!!


今までこの小説を読んで下さって、また、ポイント評価感想有難うございました。

また来年も宜しくお願いします。



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