第七話
都会に来るまで知らなかったのですが、私の故郷ポック村は交通の便が非常に悪い所で、王都から直通の馬車は無く、
途中の街から月に一度商人がお付き合いも兼ねて物を売りに行く程度しか交流のない村です。
よって、故郷に戻るには徒歩になります。もっとも、私は早く帰って村の人達の顔を見たいので走って行くことが多いのですが。
普段王都で着ている服は村の農作業等汗や土の汚れが付いてしまうので、家から毎回着替えて向かう事にしています。
ただ、今回は妹に言われたので王都の普段着も背負って里帰りしました。帰る時には王都に近付いたら着替えて中に入ろうと思います。
妹は村の時の服装で街に入るのを嫌がりますからね。
今回は残念な事に雨が振ってしまって地面の状態が悪かったので、2日程で見慣れた村の様子が見えてきます。
「あら~ザペルさもう帰ってきたんかい!?嬉しいなぁ」
「村の畑今忙しいべ?おら今割と暇だべし、任しっせ」
「帰っできたんだからぁ、一日くらい休んどき」
「おら土弄りたくてウズウズしてたんだぁ」
被り笠を付けて畑で雑草を取っていたグランマおばあちゃんが、私の姿を見つけるとしわくちゃな顔を歪ませて歓迎してくれます。
私も王都から差してきた傘を置いて、農具を置いてある小屋から笠を借りると早速畑に入って中腰で片っ端から小さい草を取り払っていきます。こう見えて私は小さい頃から『草むしりのザペル』と村で有名でしたからね、この程度余裕です。
土の状態は濃い茶色になってだいぶ良くなりましたね、肥料でも仕入れたのでしょうか。
「はぇぇ……やっぱ若え子はすげえなぁ……あっという間に終わりそうだべ。あ゛、前にも言ったけんど、ザペル来たべし鶏さ締めっかんな?」
「へへ、ここに来る前から楽しみにしてたんだぁ。実はそれ目的で帰ってきたべ。都会とちがって、村の鶏は一味違うかんなぁ」
「はは、ザペルは食いしん坊なぁ」
皆と食べる村の食事は格別ですからね。ついつい食べすぎてしまいます。勿論、家でのシドラさんの食事も美味しいですが。
グランマおばあちゃんと話しながら時間も忘れて農作業をしていると、あっという間に畑は綺麗になりました。
それにしても、この一面の畑をおばあちゃん一人で整えていたのですか。やっぱりまだまだ大変そうですね。
「鶏締めんのも、おらがやっとくべ。中々都会だと鶏触れねえかんな」
「いつもすまねえなあ」
「お互い様だべ」
おばあちゃんの荷物を持って、私は村への道を歩きます。時折違う畑で農作業していた村人を見かけると、その都度挨拶して回りました。
大変な状況だとは思いますが、みんな元気そうで良かったです。私は皆の笑顔を見る為に出稼ぎに行きましたからね。
「おっザペルぅ元気してたかぁ?」
「スミス兄も元気してだか?まーた嫁さんに怒られてたらおらも黙ってないだ」
「……はっはっはっ」
私の言葉を聞いたスミスさんは笑いながら去っていきます。奥さんに関する話は全く聞けませんでした。まあ、何かあっても次の日には仲良くしてるでしょう。
「ほら、ばあちゃん疲れてるべ?居間で待ってっせ」
「しょうがねぇなぁ……まあ、夜の料理は期待しとき」
おばあちゃんの家に着くと、持て成そうとしたのを押し留めて居間の椅子に座らせてから、私は外の放し飼い場に行きます。
ええと、卵を産まなくなったのは確かこの子でしたね。私から逃げていく鶏を追いかけて手早く捕まえると、村共用の屠殺場へと運んでいきます。
そういえばこの屠殺場は私が建てたのでした。まだ慣れてない頃だったのでちょっと歪んでますが、それすら昔を思い出して懐かしいです。
「おお、ザペル」
「ボブじい、久しぶりだべな」
途中で、一応この村の村長であるボブじいさんとも会いました。一応、というのはこの村では誰が上だとか区別は無いからです。
国からの役人の対応はボブじいさんが行っていますが、じいさんは村長と呼ばれるのはむず痒いから普通に呼べと言っていました。
「ザペル……いつもすまねえ。お前ら兄妹の金、大事に使ってるべ」
「古かった農具も新しくなってるべし、牛も増えたなぁ……良かったべ」
牛は老人が多くなりつつあるこの村で大切な労働力です。途中会った村の人も助かっていると言っていました。
今まで完全に手作業でやっていた作業も、農具である程度短縮出来ていました。これで、村の収穫も増えた筈です。
「だがなぁ……ザペル、もう仕送りは止めっせ」
「どういう事だべか?」
「新しくなった農具さ見て、役人が別に収入があると気付いただ。まあ仕送りだげんど、額が額だけに役人が納得してねえだ。脱税と因縁付けられて今だら二人の仕送りも納める事になっちまってるべ」
「はええ……」
「それに、別の収入があるからと畑の作物も――まあ、お前さ言っても良く理解できねえのはわかる。取りあえずファーに今の話言っとけ。そして仕送りは止めっけんろ」
最近の詳しい村の事情はよく分かりませんが、お金を渡すのを止めるのと今の話を妹に伝えるように言われたのは理解しました。
でも、私達の仕送り無しで村はやっていけるのでしょうか。今でも畑の面積の割に人手が少なくて大変そうなのですが……。
「それで、村は大丈夫だべか?」
「アテはあるべ……村のみんなとも相談したし、あんたら兄妹に迷惑はかけねえ、約束する」
「それなら良いべ……でも、困ったらアラバのおらの家に来んさい。広すぎて困ってんだぁ」
家には私の他に三人居ますが、部屋はまだまだ沢山空いてますからね。ちょっと無理すれば村の人全員住めますよ。
それに、村の皆に街を紹介したいと思っていました。あの場所には村に無いものもいっぱいですからね。溶ける冷たいお菓子とか村の子供が喜びそうです。
「ああ……ありがとなぁザペル、おめえはこの世の中にもかかわらず、真っ直ぐ育ってくれた、村の宝だぁ。両親も天からおめえらの姿見て喜んでる筈だべ。くれぐれも、身体には気をつけてなぁ」
「ボブじいもなぁ。生涯現役じゃなかったら妹と一緒に許さないど」
「勿論だべ。んじゃまた今夜な、ザペル。皆鶏鍋囲んでザペルと一緒に宴会すんの楽しみにしてっぺ。今夜のために酒と野菜さ一杯用意しでなぁ」
ボブじいさんが去っていきます。何故でしょう、心なしか元気が無いように感じました。
こういう時、妹が居れば私の頭を叩いてから理由を分かりやすく説明してくれたのですが……いえ、今は少しでも楽しいこれからの事を考えなくてはいけませんね。
私の両親は言っていました。普段から楽しい事を意識していれば、気付かないような楽しい事も気付く事が出来ると。
悲しい事ばかり考えては、負の螺旋へと陥ってしまうのです。
屠殺場に入ると、私は鶏を梁に吊るして、立て掛けてあった斧を持ちます。こう見えて私は『屠殺のザペル』と街で有名ですからね。鶏を締めるのも慣れてます。
あ、このまま斧を使うと服が汚れてしまいますね。村で着る服は私自身が編んで作るので、一度駄目にしてしまうと大変です。
もっと暖かければ裸で作業をするのですが、ここ連日の雨で少し肌寒いですからね。風邪引くとみんな心配してしまいますし――
そうだ、王都から持ってきた服が有りましたね、それを着て作業しましょうか。どうせ家に同じのが沢山ありますし、一着位汚くしても大丈夫でしょう。
あっ……この子結構元気ですね、お陰でちょっと失敗してしまいました。これでは『屠殺のザペル』は返上しなくてはいけませんね。妹も締め方知ってますし、ファーに返せば良いでしょうか。
「それにしても、グラディエルちゃんは何でおらが鶏締める事知ってたんだべ?」
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