忘れることなかれ
「ほっぴー!良い感じに高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に指示よろしく!」
「つまり丸投げじゃねぇか!」
そうとも言う。
救世の兵の首をちょんぱしつつ、飛んできた雷撃を避ける。
「おい!あの魔法使うヤツ殺してくれ!」
「バリア張る奴の処理が先だ!」
チッ……
一旦攻撃の手を緩め回避に専念する。
しかし参ったな。紅羽の魔法がいまいち機能してないせいで削り切れない……
防御魔法を使う兵を狙い撃ちしてるみたいだが……クソ、ジークのヤツなんで狙撃手じゃねぇんだよ。
おおかた、並行して育ててたネタ職にしたまんまサービス終了を迎えたんだろうが……
「うぉおおおああああああああ!!!!」
そんな俺の思考をかき消すように、戦場に響くガッテンの悲鳴。
「ざまぁ!……じゃねぇわ、大丈夫かガッテン!?」
「ちったぁ本音を隠す努力をしろ!」
見れば、ガッテンへと凄まじい速度で斬りかかる一体の救世の兵。
その兵の右腕は短剣のような形状になっており、その動きはどこか――
「あれタカじゃね?」
「寝返ったのか。最低だなタカ」
今言ったの誰だ!あぁ!?
「おい!コイツやべぇ!馬鹿みてぇにはえーし火力高ぇ!」
俺じゃん。
俺は後方から投げ入れられた爆弾の爆風で吹き飛びつつ思考を続ける。
どうやら俺モドキは他にもいるらしく、先ほどまで黙々と敵を狩っていたモータルと七色の悪魔からも苦悶の声が漏れてきていた。
「コイツ、やばい!ジーク、ちょっと一体に集中したいから爆弾で周囲の兵を!」
「あいよ」
「ジークさん、こちらにもお願いします!」
「ほいほい」
二人に言われるがままジークがぽんぽんと爆弾を投げる。
流石は普段狙撃手のジョブをやっていただけあって、その精度はなかなかのものだ。
「おいジーク!爆弾はもっと考えて使え!紅羽が機能してない今、お前の爆弾は貴重だ!」
「了解」
そういやアレ、消費アイテムだもんな……こりゃジリ貧か……?
……いや、待てよ?
爆弾ならとびきりのがあるじゃねぇか。
「ほっぴー!!!ガッテンにバフだッ!ありったけの!」
「あぁ!?」
「いいからやれぇッ!」
「チッ、鳩貴族さん!あとスペルマン!」
「はい」「おっけー」
ガッテンの振るう剣の圧力が目に見えて上がる。
よし、いける。
「ガッテン!まだ俺モドキを連れて群れの中心まで突っ込め!」
「はあ!?ちょ、うお!?……タカモドキ結構他にもいんぞ!」
「じゃあ中心で俺モドキを殺せりゃなんでもいい!やれ!」
いつの間に俺の魂を採取したのか気になるところだが……そこはまあ、いい。
着目したのは、こいつが俺を模しているという事。
なら再現しているのは、火力と速度だけじゃないはず。
これがとびきりの爆弾の正体だ。
見てろよイカれ聖女さんよ。
「ガッテン!!!!最高火力で、俺モドキをぶっ叩けぇえええええええ!!!!」
「……はッ!そういう事な!……プレス・ブレイドぉおおおおおおお!」
鳩貴族さんが妨害魔法を唱えたのか、群れの中心で動きを止められた俺モドキに、ガッテンの渾身の一撃が突き刺さり――
「タカだいばくはつ事件を、忘れるな」
――衝撃スキルの影響で、周囲の兵が一瞬にして爆散した。
「はっはー!ナイスぅ!避けろよガッテン!……いけ、紅羽!」
「ドラゴンブレス」
もはや集団でバリアを張る事もかなわず、兵の残党達が圧倒的な質量を持った炎に焼き消される。
……ガッテンも。
「ぐぉああああああああ!」
だがその身体はヒールの光に包まれており、ダメージ自体は回復で相殺していることが分かる。
痛みは別だが。
「ねぇ普通そういうことするぅ!?」
「勝ち優先だボケ……おらッ!ぼさっとしてねぇで取り巻き復活する前にボス叩くぞ!」
ほっぴーの指示で前線組、だけでなくほっぴー含む後衛組も一気に前進していく。
「レオノラぁああああああ!殺してやるぜぇえええええ!」
「ふ、は、はははははは!なんだ今の爆発は!特級に匹敵する火力だったぞ!」
あのだいばくはつってそのレベルの火力だったのか……ふ、ふーん……
「よお戦犯区分特級」
「なんだぁ?てめぇ……」
俺はとりあえず煽ってきたほっぴーを睨みつけつつ、レオノラに斬りかかった。
「良い!良い!私は今、生死の狭間にいる!」
「そうかそうか。すぐに地獄に送ってやるから安心しな」
鳩貴族さんのデバフが入ったのか、身体にうっすらと鎖のエフェクトが浮き出ているレオノラ。
そのレオノラの懐へ飛び込み喉笛を裂こうと怒涛の連撃を放つ。
「はッ!甘い!」
一発、二発と攻撃を槍でいなされる。
そして三発目の斬撃で完全にタイミングを合わせられ、俺は短剣ごとはじき飛ばされた。
「やっちゃえガッテン!」
「日産みたいなノリで言うな!」
しっかりと突っ込みを決めつつも、ガッテンが俺と交代するようにして攻めに入る。
「なかなかの連携の練度だ!素晴らしい!」
「言うほど素晴らしいか?」
ほっぴー、水を差してやるな。
そんな会話の隙に、ガッテンが重そうな一撃を食らってしまい、慌てて撤退してきた。
こちらをキッと睨みつつガッテンが叫ぶ。
「喋ってねぇで援護しろよ!」
「うるせぇよ」
「うるさかぁねぇだろう!?」
ガッテンとほっぴーがそんなやり取りをしてる間に、七色の悪魔さんがレオノラの前へと飛び出した。
前のめりな七色の悪魔さんを宥めるように、レオノラが牽制で槍を突き出す。
だがその動きを事前に予測していたらしい七色の悪魔さん。
その槍の軌道上に剣を差し込むようにして槍を弾いた。
キィン!と甲高い金属音が聞こえたその瞬間には、既にレオノラの懐に七色の悪魔の姿。
「ふッ!」
そして放たれる強烈な一薙ぎ。
「……ッ!」
レオノラが弾かれた槍を瞬時に手元に引き戻し、肉迫していた七色の悪魔の剣と己の鎧の間に滑り込ませる。
お互いに体勢を崩した状態となり、一時両者に距離ができた。
「……っと、不意を討ったつもりか!」
「うおっ」
背後で隙を窺っていたモータルを、レオノラが振り向きざまに槍で突き飛ばした。
「メテオ」
吹き飛ばされつつ放ったモータルの魔法をするりと避けつつ、再び斬りかかってきていた七色の悪魔を槍であしらう。
「ハッ、ネタ切れか?」
「ネタが切れたのはてめーの方だろ」
次いで俺がレオノラへと飛びかかる。
槍の攻撃をかいくぐりつつ、短剣での一撃を狙う。
「ああ、やはり技の冴えはお前が一番素晴らしい!」
「うっせぇ殺すぞ」
「ははは!そう言うな!……楽しもうじゃないか。最後の晩餐だ!」
意味分かんねぇっつーの。
しかし以前戦った時よりも動きにキレが無い。
もしや、あの兵を一斉に処理したのが効いてるのだろうか。
槍をなんとかいなして隙を窺いつつ、口を開く。
「もう子は出さないのか?」
「子に任せきりというのも格好がつかんだろう?」
「ああ、そう」
何らかの事情があって出せない……というか単純に作るための素材が切れた、か?
「俺の子は優秀だったなぁ?」
「ああ、お前にそっくりだ」
煽られた俺はぐんと踏み込み、レオノラに強烈なひと突きを――
「おや?何か癇に触ったか?」
「チッ」
レオノラはそれをまるで予測していたかのように弾き、そのまま隙だらけの俺を突き殺そうとし――
ベキリという嫌な音を立ててレオノラが、歪んだ。
「プレス・ブレイド」
「ぐ、うぅ……ッ!?」
はははは!馬鹿が!背後で隙をうかがってるヤツがいる事くらい分かってただろうがよ!
「獲物にトドメをさす瞬間ってのは誰だって隙を晒すもんなのさ」
バトロワ系ゲームとかで経験あるだろ?キルに夢中になってる隙に狙撃、みたいな。
「は、見事、だな……」
「そりゃどうも」
俺は身体を槍で貫かれつつ、ニヤリと笑った。




