戦地に降り立つ十傑
「おい、はやく準備しやがれ」
早朝。
ドアが蹴破られる音で慌てて飛び起きた俺は、侵入者にそのまま飛びかかった。
「うおっ!?」
「誰だてめぇッ!」
俺の突き出した短剣がブスリと刺さる――ビール瓶に。
「……お前は」
「びっくりしたじゃねぇか。酔い覚まさずに来てたら、腹に風穴開けられてるとこだったなぁ?……けへへ」
俺の眼前にたたずむ、全身からアルコール臭さを発する中年の男。
以前にオーク討伐で共に戦った、駆除区分一級保持者のブーザーであった。
「準備って何の事だ」
「移動だ。行くんだろぉ?クソみてぇな戦場によぉ……」
なんでその事をコイツが……ああいや、昨日キプロスにギルドに話を通すよう頼んだわけだし、伝わっていてもおかしくはない、か?
「何でお前がその移動を指揮してるんだ」
「指揮ぃ?違うね。俺ぁ後輩の面倒見が良いんだ。送っていってやるからさっさと準備しな」
「……まあいいか。とりあえず着替えるからどっか行ってろ」
「おーう。下で酒飲んでくらぁ」
飲酒運転の四文字が頭の中をよぎったが、俺はあえてソレを無視し、準備を始めた。
「意外にはえぇなあオイ。まだ一瓶しか飲めてねぇぞお」
「タカ、おはよう」
「おう、おはよ」
一階のロビーには、既にできあがったブーザーとその横にサンドウィッチを頬張るモータルが居た。
「おい、おっさん」
「俺ぁおっさんじゃねぇ」
「どっからどう見てもおっさんだろ。移動手段についてさっさと話せ」
「俺ぁブーザーだ。ブーザー様と呼べぇ」
「殺すぞ」
俺がそう言って凄むと、何がおかしいのかブーザーはケタケタと笑いはじめる。
「ヒッ、ヒヒ、いいな。若い奴はそのぐらい尖ってねぇと。移動手段ってな俺の魔道具だ。面白ぇ乗り心地だぞぉ?」
先ほどよぎった四文字が再び頭の隅をかすめていくのを感じながらも、俺はブーザーにたずねた。
「その魔道具ってのは何だ」
「古の乗り物を再現したモノらしくてなぁ……確か、クルマ、だったか?」
俺は飲酒運転の四文字が脳にノンブレーキで突っ込んでくるのを感じた。
タカ:異世界に車があったんだが
タカ:しかも酔っ払いに運転して貰うはめになりそうなんだが
ほっぴー:は?車?
タカ:魔力で動くらしいが
スペルマン:ほろ酔いくらいならセーフだよ~
タカ:そんなわけねぇだろ。頭発泡酒か?
ジーク:草
お代官:前々からダメ人間臭はしていたが、そこまで酷いとは思わなかったよスペルマン君……
七色の悪魔:流石に無いですね
ガッテン:まだマトモなほうだと思ってたのに……
ジーク:名前の時点でかなり最低な部類だと思うんですけど
スペルマン:しばらく沈むんで許して……
紅羽:名前は別によくね
ジーク:あっ……
ジーク:そっすね
紅羽:は?
紅羽:おい
スペルマン:区切り方間違えなきゃ健全だよ
ほっぴー:てめぇは沈んでろ
スペルマン:はい……
紅羽:調べてもよく分からん
お代官:調べなくてよろしい
砂漠の女王:車に関してはもう良いのですか?
お代官:あっ
お代官:タカ君。今からでも詳細を
ほっぴー:もう居なくね?
お代官:しまったな……生きて戻ってきてくる事を信じるしかない、か
「あああああああああ!!!!ふっざけんなぁあああああああああああ!!!!」
めまぐるしく変わる景色。
そして前方でゲラゲラと笑いながらハンドルを切るブーザー。
「一回!一回止まれ!おい!聞いてんのか薄らハゲ!」
「きこえねぇ!俺ぁ風だ!風になる!」
「一人で勝手になってろ!俺ら巻き込んでんじゃ……うっ、うぉえええええええ」
うっそだろ!?三半規管とかもそれなりに強化されてる、はず、なのに……!?
「タカ。喋ると舌噛むよ」
てめぇはてめぇでなんでそこまで平気なんだぁ!?
素のスペックの差か!?そうなのか!?
「とりあえずブーザー、てめぇは後で殺s……痛ぇえええええ!!!!」
「ほら、言ったじゃん」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!俺は風だぁあああああああ!」
混沌を乗せたクルマは荒野をそのまま爆走し続けた。
出発から数時間は経っただろうか。
ドン!という衝撃と共に身体が前のめりになる。
「うお!?」
「到着だぁ。ホラさっさと降りろ。俺ぁここの最寄の宿場街に用事があるんでな」
そう言いニッと口の端を歪めたブーザー。
俺はその面に拳を叩き込むのをグッと我慢しつつ口を開いた。
「……ありがとよ、おっさん」
「はっ、ひゃははは!礼の言える奴ぁ嫌いじゃねぇ!今度娼館にでも連れてってやらぁ!だはははは!」
俺は今度こそブーザーの顔面に拳を叩きこんだ。
「さて、と」
俺の拳を食らい鼻血をたらしつつ笑い続けたキチガイが去った後、俺とモータルは二人でポツンとその場に立ち尽くしていた。
「ここが戦場か?違うよな」
「だけどかなり近いよ。あの酔っ払い、狂っているように見えておそろしく観察眼が鋭い。侮れないねぇ」
「そうなのか…………誰だお前」
いつの間にか俺とモータルの間に入ってきていた黒装束の男。
その男はマスクをスッと外しその中性的な顔をニッと歪めると、俺達の肩に手を回してきた。
「ようこそ、新兵さん。俺は駆除区分特級の……そうだな、影とでも呼んでくれるか」
「うわキッツ」
「おやぁ?だいぶ良い感じのファーストコンタクトだと思ったんだけどなぁ……?」
いやだって影って。
「何だ、影が嫌ならもっと別の言い方でも良いんだぞー?絶速でも可」
「なんでことごとくキツいんだよ」
「えぇ……」
俺は自称特級の厨二病野郎の手を振りはら……おうとした。
それなりに力を込めたその振り払いは、その男の腕をピクリと動かすことすら叶わなかった。
「……マジっぽいな」
「うんうん。大人しく呼びな?ほらほら」
「ハゲ」
「うーん、惜しい!」
二の腕をギリギリとつねられる。
クッソ、力強ぇなコイツ……
「タカ。漫才やってないでさっさと案内してもらお」
「賢いねぇ!そんな君にはボクを特別な呼び名で呼べる権利をプレゼント!」
「は?」
「わぁい、辛辣ぅ!タカくぅん、タカくんならボクの事を、さ?ほら」
「は?」
「新兵が軒並みガラ悪い……」
知らんがな。
はよ案内しろや。
「……はあ、なんで皆呼んでくれないんだろ……めっちゃかっこいいのに……」
やっぱ他のヤツからもキツいって思われてんじゃねぇか。
危ねぇなホント。もうちょいでヤケになって呼ぶとこだったぞ。
「じゃあ案内するから……ちょっと目瞑ってくれる?失明しちゃうかもだから」
色々と突っ込みたい部分はあったが、一先ず言われるがままに目を瞑る。
すると、周囲から音が消え、何かベールのような物で囲まれる感覚が俺の身体を襲う。
だがその感覚は一瞬で終わり、気付けばガチャガチャと金属の擦れる音が耳に入ってきていた。
「はーい、もう大丈夫ですよ……っと」
「遅いぞ」
「ごめんごめん。あ、コレ言ってた新兵ね」
「ああ」
「明日の事について話したいからさ、ちょっと場所移そうか」
目をしばたかせ、周囲の様子を確認する。
見れば鎧を纏った兵士らしき者達が思い思いの場所で食事らしきものを摂っていた。
そして正面にはさきほどのキツい奴と、比較的軽そうな鎧を纏った女が何やら会話をしながらこの場から去っていく。
「……あー、どうすりゃいいんだコレ」
「さあ?」
俺とモータルは兵士達の拠点らしき場所でただただ立ち尽くすばかりだった。




