混乱と、混沌
「人間?魔族じゃなくてか?」
よほど衝撃的だったのか、俺の他には声を出す者すら居なかった。
「ああ、人間だ」
念を押すように、お代官さんが言葉を繰り返した。
人間……人間が何だってこの領域に攻め込んでくるんだ。
「魔族がやられ次第こっちもって感じか?」
唐突にそんな言葉を発したのは、ほっぴーだった。
「流石だなほっぴー君」
その言葉の意味とはすなわち、肯定。
「はぁ!?」
理解と同時にもれたのはそんな素っ頓狂な叫び声。
「それは確実な情報ですか?」
「まだ推測の範疇ではある、が。楽観視できるようなレベルではない」
質問をした七色の悪魔さんの眉がスッと顰められる。
「では、情報の筋は……」
「砂漠の女王、それとカーリア、だ」
……うん?砂漠の女王は分かるが、カーリアちゃん?……そういや魔王軍でそこそこの地位だったわ。PR動画のイメージに染められて切ってすっかり忘れてた。
「ここを攻める目的は?」
ほっぴーが既に答えを察しているかのような、諦観の入り混じる顔でお代官さんにたずねる。
「……我々の排除、資源の搾取」
「クソっ、やっぱりか」
ははは。何だそりゃ。
それってつまり――
「話し合いの余地が無い?」
「……おそらく、な」
……
「さて、そうなる過程を説明しようか」
お代官さんの言葉に反応は無い。
だがそれを気にせずお代官さんは続けた。
「砂漠の女王は、世界を、いや世界群を俯瞰できる。そうして見たモノは迂闊に口に出来ないらしく、私が得た情報は断片的だ。だがそれらをつなぎ合わせると……今回の結論に至る」
「いいだろうか。まず、基本的には一つの世界に高度な知性と社会性を持つ生命体は一種類しか存在できない」
出だしからもうヤバい情報なんだが。
「そこで疑問に思ったのが人間対魔族という構図。流石に黒人や白人、黄色人種程度の違いとは思えないほどの生物としての違いが両者にはあった。これは先ほどの情報と矛盾する」
高度な知性体が二種類、か。
「そこで私は悩んだ。知性体が一種類しか存在できないというのは、二種類目が誕生した瞬間、争い合い、片方が絶滅するからなのか?だが砂漠の女王は、共存の道も無論あると言う」
「……私は答えを出せぬまま悶々と過ごしていた。だがある日、私は砂漠の女王に聞いたのだ」
「世界同士が何かの事故で接触し、一つになることがあるか」
「ある」
「砂漠の女王はそう答えた。つまり、我々が異世界と呼んでいるあの世界は、少なくとも一回以上は世界同士の接触を経験している。だからこそ、魔族と人間が存在しているんだ」
「そして、私はもう一つ問うた。常々、思っていた事だ。何故スマホが未だに使えている? 何故ネットが未だに機能している?」
「砂漠の女王は答えた。それは、我々にスキルの概念が生えた、その余波で成された事だ、と」
……。
「待ってくれ、お代官さん。スマホが、ネットが使える事がなんでおかしい事……あ、いや……おかしい、な。おかしいよな……」
次第に言葉が尻すぼみになっていく。
その通りだ。
俺は一度でも充電をしたか? いや、した。だがそれは電力などではなく――魔力で、だ。
「思考誘導か!? でも、何でこんな」
「いつものように使って貰うためだろう。実際にソレが功をそうし、領域という防衛拠点が手に入った」
確かにそうだが……クソ、なんで俺は今の今まで疑問すら抱かなかった……?
慌てて周囲の様子を見ると、例外なく皆、狐につままれたような表情を浮かべていた。
「そして違和感を指摘した程度で解ける。これは領域内の避難民、数人で試しても同じだった」
「お代官さんの連れてきた人達は? 思考誘導がなかったんじゃないのか」
だってそうだろう。一度指摘された程度で解けるならもっと早くに騒動に……。
「いや、あまりに君達が普通に扱うものだから、そういうものと納得してしまっていたらしい。掲示板魔法の件もあったからな」
んな、間抜けな話があるかよ。
「これらの思考誘導。何か、人為的な……人類を守ろうという意志を感じるが……この話についてはもうこのくらいにしておこう。重要なのはここからだ」
まだ腑に落ちてはいない、が……確かに今回の本題はそこじゃない。
「私は今度はカーリアにも話を聞いてみた。次は、向こうの世界の歴史についてだ」
「すると、異世界人の中には他にも様々な種が居る、と。伝承によれば、その種族達は人間がかつて攻め入り、土地を奪った者達であるという」
「魔族にも、大昔、別の種を一つ完全に滅ぼし、土地を奪ったという記録があるようだが……まあ、そこは一旦置いておこう」
「先ほどの異世界の人間の伝承。つまりはこういう事にはならないか? 異世界の人間は、これまでに何度も他の世界と接触、結合し、新たに現れた種と土地を奪い続けてきた、と。そしてその矛先が魔族と、その魔族の住む世界に向いた、と」
そこでほっぴーが口をはさむ。
「そして魔族がやられれば、次は俺達……そういう事か?」
「まあ、あくまで私の推測だ。断片的な情報を用いた、な」
……
「整理がつかないか。なら今日はここで一旦お開きにしよう。各自、じっくり悩んでくれたまえ」
俺は、いや俺達は、夢遊病者のようにぼんやりとした頭と足取りで、部屋を出て行った。
ほっぴー:ようお前ら。眠れそうか?
タカ:無理だろ
ジーク:流石に整理し切れんわ……
ほっぴー:今日の話、あれでもかなり端折ってると思うぞ
ジーク:お代官さんが有能すぎ。もう任せていいんじゃないかな
ガッテン:え、なに。どしたの
タカ:部外者は黙っててくれます?
ガッテン:俺も十傑ですぅー!というかそろそろそっち行く算段つきかけてんだぞ
タカ:尽きかけてるのか。やったぜ。
ガッテン:着きかけ、ですぅー!
ジーク:タラちゃんかな?
ほっぴー:タラちゃんで草
タカ:牛からランクアップしたな
ガッテン:もおおおおおおおおおお!!!!
ジーク:先 祖 返 り
スペルマン:まるで実家のような安心感だぁ……
タカ:というかガッテンに構ってる暇なんかねぇんだよ。どうするお前ら
七色の悪魔:どう、とは?
タカ:まず一つ。お代官さんの推測を信じるか
ほっぴー:俺は信じる
ジーク:俺も
七色の悪魔:信じます
Mortal:信じる
スペルマン:信じるでしょ
紅羽:信じるぞ
鳩貴族:信じますとも
ガッテン:よく分からんがお代官さんの言ってる事なら信じる
タカ:ああ?てめぇ周りに流されてんじゃねぇよ自分の意見を言え
ガッテン:なんで俺だけそんな感じ!?
タカ:ほっぴー、個チャで今日の事説明してやれ
ほっぴー:今日の事?ケイドロでお前が壁よじ登って怒られたことか?
タカ:違いますぅー!
タカ:間違えた
タカ:違う、ですぅー!
ジーク:タラちゃん!?
スペルマン:草
紅羽:深夜にあんま笑わすな
ほっぴー:分かってるよ。おい、ガッテン。説明してやっから個チャ来い
ガッテン:うす
タカ:返事が違うよなぁ?
ガッテン:分かったですぅー!
ジーク:タラちゃん!?
スペルマン:暫くこれでイジれそう
タカ:さぁお前ら、おふざけはこの辺りにして、だ
タカ:ガチ作戦会議としゃれこもうや
ジーク:会議はぐだぐだフラグ
タカ:うるせぇ!!!!!毎回グダるのは誰のせいだと思ってんだ!!!!
スペルマン:今日もブーメランが綺麗な弧を描く……




