はたらけじゅっけつ
「失礼します」
ガチャリとドアが開き、三十代後半らしき歳の男が入室してきた。
「ああ……鳩貴族さん?」
眉間のしわが日頃の苦労を物語っているように思えるその男は、俺の問いに対しにっこりと笑い——
「はい」
そう、鳩貴族さんが頷くと同時に俺に石をぶん投げてきた。
俺は投げつけられた石を掴みそのまま割った。
辺りは光に包まれ、そして——
「チッ、ガーゴイルか」
「爆死までの流れがスムーズ過ぎませんかね?」
「爆死は呼吸だ。呼吸をするのにいちいち構える必要なんて無いだろ?」
まぁ物理防御補正のスキルはおいしいか。
ちょうど良い。
「バンシー」
「あう」
俺の一言で全てを察してくれたのか、とことこ、と床に描かれた魔法陣の片割れへと歩いていく。
「ほら、お前はあっちだ」
「ググ、ガ?」
事情を飲み込み切れていないガーゴイルをもう片方の陣へ押しやる。
定位置に着いたのを確認した後に、俺は魔法陣へ魔力を流した。
「あううっ」
バシャリ、と光の塊となったガーゴイルがバンシーの中へ吸われるようにして消えていく。
「よしよし。じゃあ鳩貴族さん。一揉みね」
「……初回ですしサービスで三揉み、というのは」
「爆死じゃなかったら考えてたかもな」
「爆死は呼吸じゃなかったんですか……?」
「呼吸の途中でむせちゃう事ぐらいあるだろ」
そういいながら俺が床に寝転がると、バンシーが俺と床の間にすっとお腹を差し込んできた。
「揉むならさっさと済ませてくれ。俺は忙しい」
「自堕落の擬人化の如き所作ですね……」
お?なんだなんだ?コレ以上いちゃもん付けるならこの一回以降、揉めなくしたっていいんだぜ?
俺が寝転がったまま鳩貴族さんに挑発的な目を向ける。
やがて観念したのか、鳩貴族さんが俺の枕となっているバンシーのお腹をゆっくりと、一揉みした。
「ほぉう……」
まるで湯船に浸かるときの老人のような唸り声を漏らした後、その余韻を邪魔されたくなかったのか、そそくさと俺の部屋から出て行った。
「……」
「あうー?」
ん?どうした。
「あううあ、うーあう」
はいはい、なるほど。
超あうあうだよね。わかるー。
「あうー!」
タカ:あううああう、あう。
タカ:あうー?
ガッテン:日本語でおk
タカ:ああ、すまん。つい母国語が
ガッテン:知ってるか?俺らの母国語って日本語なんだぜ?
タカ:いやいやいや。いいか?まず俺達人間は誰しも最初はお腹の中に居たわけだ。つまり俺達の母国とはお腹の中でありバンシーのお腹はあうああうううあああうあうあー!!!!!
ガッテン:怪文書やめて
ジーク:翻訳班はよ
Mortal:殺し合えそう
タカ:!?
タカ:あの……何か気に障るような事しましたか……?
ジーク:例を挙げればキリがなさそう
Mortal:違うよ。運び屋と
タカ:あっ
ガッテン:運び屋さんのご冥福をお祈りします
ジーク:モータルに干し肉500グラム賭ける
タカ:俺も俺も
ガッテン:可愛そうだから俺は運び屋さんに賭けるわ……
タカ:何を賭けるか言えよ。こっちに来る権利?おk
ジーク:言えよ(言わせない)
ガッテン:俺だけ賭ける物重過ぎない
紅羽:ようタカ。暇そうだな
タカ:そろそろ仕事戻るわ!じゃ!
紅羽:おい
紅羽:シャノンの相手してやれ。色々丸投げし過ぎだ。
タカ:あー
タカ:どこにいる?
紅羽:あたしの親とあんたの妹が居る部屋
タカ:おk
ジーク:仕事はどうしたんですかね……?
「しゃーねー、行くか」
別れの挨拶とばかりにバンシーのお腹をぐにぐにすると、俺は部屋を後にした。
廊下に出ると、子供のはしゃぐような声が耳に入った。
「……」
そのはしゃぐ声の一つに覚えのあった俺は、声のする方向へと足を向けた。
「あっ、サボり魔の人だ!」
「やーい穀潰し!」
俺はクソガキ共にアイアンクローをかました。
「おうお前ら、その言葉誰に仕込まれた?」
「ほっぴー」
はっはっは。あの野郎。
「……あれ、シャノンは?」
「ん?あー、鬼ごっこしてたんだけどシャノン速過ぎてさ」
ふむ。
異世界出身ともなると基礎能力からして違ってくるか。
というか異世界人の中でも速度という点においちゃなかなかのモノっぽかったし。
「ほー。鬼は今誰だ?」
「俺とコイツ」
なるほど。
「よし、片方の鬼は俺が引き受けてやる」
「えー?仕事サボって鬼ごっこー?また怒られるよ」
「これが俺の仕事だ」
俺がそう言ってニコリと笑うと、ガキが顔を引き攣らせつつも、俺の差し出した手にポンと触れた。
「あともう一人の方。そうだな……七色の悪魔さん辺りなら付き合ってくれそうだし、タッチしてこい」
「えぇ……七色の悪魔さんは穀潰しと違って仕事が……」
俺はそのガキにもう一度アイアンクローをかました後、シャノンを捕まえるべく駆け出した。
「ようシャノン」
「あ、タカ」
シャノンが嬉しげな表情で近寄ってくる。
俺はそれを手で制した後、ニコリと笑い、言った。
「俺、鬼」
「……性格の話?」
ぶっ殺すぞ。
「鬼ごっこの鬼だよ」
「……うっげぇ!?」
ようやく理解したのか脱兎の如く駆け出したシャノン。
ははは。流石の速さだな。
こりゃ同年代が手も足も出ない訳だ。
「だが俺と比べると遅すぎるなァ!?」
「うっわ!?全力ダッシュかよ大人気ねぇ!?」
高校生に大人気なんか期待されても困るなァ!わははははは!
「タッチだぁ!はははは!」
「くそーーーーーーッ!!!」
シャノンを捕まえた俺は早々にその場からずらかった。
それから三十分後。俺は何をするでもなく部屋でだらけていたが、そろそろ様子を見る時か、と思い部屋を出た。
「シャノンと他の子供の身体能力の差はどうしようもねぇな……かと言ってレベル上げをやるわけには……」
そう俺がぼやきつつ歩いていると。
「ああ、タカさん。ちょうど良かった」
「七色の悪魔さん」
「変更のお知らせです。鬼ごっこはケイドロに、参加者は領域内の人間全てに」
……は?
「ストレス解消と運動不足の解消。殺し合いをさせて賭博を行うより余程健康的でしたので、良い機会かな、と」
「あー……なるほど?」
「終了は4時間後。勝利した陣営には豪華賞品が。どうです?」
「いいんじゃないですか?」
俺がそう言うと、領域全体に、砂漠の女王の声が響いた。
『二十分ほど前から告知していましたケイドロを現時刻より開催いたします』
『警察役は中学生以下の子供と、七色の悪魔、ほっぴー、紅羽……以上のメンバーです』
『期限は四時間。頑張って逃げてください?特にタカさん?』
……
「ケイドロ、だよな」
「はい」
「檻の位置は?」
「ドロボウさんに教える道理はありませんねぇ」
そう言いながら七色の悪魔さんがしゃがみ込む……ああいや、違う。これは。
「クラウチングスタート!?あっぶねぇ!?」
えげつない速度で突っ込んできた七色の悪魔さんをすんでのところでかわす。
「あーあー!大人気ねぇなぁ!?」
「ストレス解消のためのレクリエーションですから。思いっきりやらないといけませんよね?」
俺は全力で逃げ出した。




