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過疎ゲーが現実化して萎えてます。  作者: ペリ一
本編

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異界の森

「いきなり骸骨か」


 モータルが小屋に入るなり呟く。

 玄関先に骸骨が転がっていた為だ。モータルはそれを跨ぎつつ、小屋の中へずんずん入っていく。


 その後ろから遠山がひょこっと顔を出し小屋の内部をぐるりと見渡した。


「意外と綺麗じゃん」


 同じくぐるりと室内をチェックしたモータルがボソリと呟く。


「……一晩、ここで過ごすか?」


「うむ。悪くない環境だ。こんな妙な森を夜間、移動するのは危険だし、他の皆も了承するのであれば……」


 江藤がそこで言葉を区切り、遠山をチラリと見る。


「いいんじゃない?」


「だ、そうだが。ああ、ライカン君。君はどうだ?」


「君付けはやめろ。まあ、俺としても賛成だ」


「おい見ろよコレ。てってーん!異世界の武器を手に入れた」


 室内のイスに寄りかかるようにして死んでいる二体目の骸骨。

 その傍らに錆付いた剣を見つけたモータルが興奮した様子で言葉を発した。


「すげぇよ。異世界にも鉄みてぇなのがあるって事だぜコレ」


「う、うぅむ。そうだな」


 三人は、はしゃぎ始めたモータルを温かい目で見つめつつ、荷物から寝袋や今晩の食料などを取り出し始めた。












「モータル、起きて。見張り交代」


「ん……ああ。分かった」


 目を擦りながら遠山が、モータルを揺する。

 それでパチリと目を覚ましたモータルが、錆びた剣を片手に入り口の扉の前へ立った。


「……」


 静寂の時間が訪れる。


 モータルは何をするでもなく、ただ扉についた窓から、チラつく雪のような物を眺めていた。


「……」


 時折、隙間風が吹き込む。


 ヒュオオ……ヒュオオ……


 どこか黒板を引っ掻く音にも似たその音に耳を預ける内に、モータルの目蓋が下がっていき――


「……ッ!!」


 いや、おかしい。


 自らの手の甲を内出血を起こすほどにつねり、無理やりに目を覚ますモータル。


「バッドステータス……眠気?いや、でも何だ……この違和感」


 攻撃を受けている。しかも、気付かぬよう偽装された攻撃を。


 その事を自覚した瞬間に、モータルは、今まで聞こえていた物、見えていた物がまるで違うモノであった事に気がついた。


 窓から見えていた雪は、白い、人型の魔物に。


 聞こえていた隙間風の音は、癇に障る魔物達の鳴き声に。


「見た事ねぇ魔物だ」


 窓に張り付くようにしてコチラを見ていたのは、異様に首の長い、真っ白な人型の魔物。

 ふわふわと浮かびながら動くソレの顔には、ぽっかりと穴が三つ空いている他、一切のパーツが見受けられない。そして、その穴は時折蠢き、不快な高音を周囲に撒き散らしていた。


 そんな異形のモノが、窓から見るだけでも10体ほどは確認できた。


「やべぇ」


 さしものモータルも、額に汗が滲む。


 持っていた錆びついた剣を構え直すと、じりじりと皆が眠る場所へと後退していく。


「おい、起きろ!……おい!」


 扉の方向へ剣を向けつつも、手前に居た遠山の身体を揺すり、必死に起こす。


「ふぁあ……なに?さっき見張り交代したばっかしじゃん……」


 今にも寝そうな程にフラついてはいたが、遠山が身体を起こした。


「襲撃だ。魔物がここを囲んでる!」


「……はあ!?」


 モータルの言葉に、一気に目を見開いた遠山が、慌てた様子で隣の江藤を叩き起こす。


「起きて!やばい!」


「……ぐ、おお。な、何だ。どうした?」


「魔物が!」


「……!ライカン君、起きろ!襲撃だ!」


「ん、何だよ……俺の嗅覚には反応なんて……反応……なんだこのえぐい臭い!?」


 江藤に続きライカンが吐きそうな表情のまま飛び起きる。


「おえぇえええ……気持ち悪ぃ、なんだこれ!?」


「知らん!見た事ねぇ魔物だ!」


「クソ!なんだか知らねぇけどさっさとぶっ殺そうぜ!俺の鼻が壊れちまう!」


「ああ。最低でも10体は居るが、いけるか?」


 モータルの返しに、ライカンがフンスッ、と鼻を鳴らし答える。


「俺らならやれるんだろ?モータル」


 だがそれに対するモータルの言葉は、ライカンの意にはそぐわないものであった。




「いいや?多分無理」





「「「はあ!?」」」




 簡単な話なのだ。


 モータル達は、魔王軍本部――即ち、ゲームで言うところのラストダンジョンから逆行するようにして逃げてきた。

 そこで未知の魔物と遭遇したという事は、ゲーム時代では未実装だったラスダン付近の強モブと遭遇したという事に他ならない。


 群れている為、一個体一個体は弱いと仮定したとしても、実際はこうやって群れで襲ってきているのだから劣勢には変わりない。


 だが、モータルはこの世界を、ゲームを通じて多少知っているという事を隠している。正確には、仲間達と、隠すという約束をしたからそれを守っている。

 

「……とにかく、俺達は劣勢だ」


「打開策はねぇのかよ!?」


「夜明けまで耐えれば何とかなるかもしれない」


 だがそれは確証の無い、希望的観測だ。

 三人も、無論その言葉を発したモータルも、そんな事は理解していた。


 だがそれに縋るしかないのも事実。


「幸い、小屋を破壊して入ってくる様子はないし、何か制約的なのがあるのかもしれない。このまま寝ずに夜を明かすぞ」


 眠れない夜が、始まった。










 数時間が経ち、モータルがふと窓を見上げる。


 そしてそこに――朝日が、射し込んだ。


 ギラギラと魔物達の白い肌を照らし、輝かせる朝日が。


「……モータル、全然去る様子がねぇ。こっちに入ってくる様子もねぇけど……クソ、どうすんだよコレ!」


「一か八かで俺が突貫するしかないか」


 モータルがそう言い、立ち上がって扉から飛び出そうとした、その時、扉が吹き飛んだ。


「ぐおっ!!?」


 ひしゃげて飛んできた扉ごと壁に叩き付けられるモータル。


 強制的に開け放たれた入り口から例の魔物が雪崩れ込んでくる……なんて事は、無かった。


 


 ただ、巨大な、銀色の狼。


 狼は、獰猛そうな見た目に釣り合わぬ理知的な瞳で、モータルを見つめていた。


「……あ、れは……」


 MMORPG聖樹の国の魔物使いにおいて、一日だけ出現した、「運営の調整ミス」と言われた強大なレイドボスが居た。

 名前も狼としか表示されなかったそのレイドボス。今眼前に居るその狼は、それに姿が酷似していた。


「……クソ!」


 扉の残骸を跳ね除け起き上がったモータルが、錆び付いた剣を狼に向け構える。


 狼は少し驚いたような顔をした後に、ふい、と興味を失ったように顔を逸らし去っていった。



 その様子を見届けたモータルが、すぐさまに叫んだ。


「荷物は持ってるな!?撤退するぞ!」


「!わ、分かった!」


「了解!」


 三人がバタつきつつも荷物を引っ掴み、小屋から出て行くモータルに続く。


 外を出たモータル達を待ち受けていたのは、数体ほど残った白い魔物に、地面に散乱した大量の白い粉のようなモノであった。


「あの白いのがおそらくドロップ品か?」


「モータル君!回収している暇は無さそうだ!」


 見れば、こちらに気付いた白い魔物がふわふわとコチラに近付いてきていた。


「逃げるぞ!」


 そう言い走り始めた四人。


 全力で森を駆ける中、モータルがポツリと呟いた。


「これが異世界、か……!」




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