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たったひとつの冴えないやりかた 1

リリーの手を引いて、白亜宮殿の正面まで走った。


宮殿の正面玄関には十数段の階段が広がり、その奥に左右5メイルを超える扉が2枚広がっている。

通常なら、その扉の左右に数人の兵が武装して警備にあたっているが。


「何がどうなったんだ?」

素っ裸のマッチョな男が10数名ほど、手で大事なところを隠しながら右往左往していた。


「えっ、あ、その。ディーン様…… あの御方が加勢してくれて、その」


合流すると同時に話しかけてきたのは、真夜中の福音のルージュちゃんだ。その後ろには特殊部隊の隊員や真夜中の福音のメンバーが、困り顔で佇んでいる。


「はっはっはー、せっしゃと尋常に勝負できる真の(おとこ)はおらんのか!」

そして正門前の階段の下で、マントを広げて高笑いしているのは……


「どうして、ど変態がここにおるのじゃ!」

ああ、やっぱりリリーから見てもど変態なんだな。


「おお、そこにおるのはディーン殿と……

――その姿は西方の龍姫か、久しいな!」


ガンリウは相変わらずの、ハッキリと死相が出ている顔を楽しそうに歪め、俺たちに向かって笑いかけた。


その後ろには、他に6体のアンデッドがいて。その言葉にカクカクと歯を鳴らして同調する。もう、微妙感が半端ない。


「ガンリウ、なぜここにいるんだ?」

俺が問いかけると、やつは「ふむ」と頷いて。


「せっかくこんな西の果てまで来たからな、まあ観光みたいなものだ」

そう呟いた。

……くそう、ど変態のくせになんだかクールじゃないか。しかも死相がさらに濃くなってるところが、妙に痛い。


しかし、正面入り口に配備されている1個小隊が無力化されているのは大きい。敵味方共に負傷者も見当たらない。


ここは素直に礼を言うべきだろう。

「助かったよ、ガンリウ。おかげで次の作戦が楽になる」


「それでディーン殿、その次の作戦とはいかなるものだね」


ガンリウの言葉に視線をさ迷わすと、真夜中の福音のメンバーの後ろの方にジェシカがいた。俺と目が合うとジェシカは小走りに近付いてきて。


「バーニィやルージュから話は聞いたけど、その…… なんか圧倒されちゃって」


チラチラと全裸になった兵士たちを見て、ジェシカは恥ずかしそうにうつむいた。

そうか、ジェシカはあのど変態とは初対面だったな。


「ここからダンフィル卿の私室までどのぐらいだ?」

俺は兵士たちがジェシカの視線に入らないように体をズラして、問いかけた。


「敵勢力がいなきゃ、そんなに時間はかかんないよ」

切れ長のパープルアイをさ迷わせながらそう言って、リリーを見て少しおどろき。さらにリリーの胸を見て、大きくおどろいた。


――まあ、その気持ちもなんかわかるよ。


バーニィ隊長とルージュちゃんは、真っ裸で右往左往している男性兵をガン見してるが……

ジェシカはどうやら苦手らしい。


ふとリリーを見ると、興味津々な顔で真っ裸兵を眺めている。

ここは注意すべきかどうか悩みどころだが…… いつまでもガンリウを放っておくわけにもいかない。


「ガンリウ、これからダンフィル卿の私室へ行って、その後陛下の寝室へ向かう。

おまえがいるってことは、バド・レイナーも来てるんだろう」


俺がガンリウに話しかけると、やつはニヤリと笑って。


「それは言えん約束だ!

だがダンフィルとやらのところまではついて行ってもいい。

――露払いぐらいにはなるだろう」

そう答えた。


ということは、バド・レイナーは既に帝都城のどこかにいると考えるべきか。


しかしここでガンリウと戦うのも得策じゃないだろう。

ど変態だが、実力は超Sクラスの魔物であることは間違えないし。


協力を拒む理由もない。

なにより無傷で敵を無効化する能力は、この作戦には打って付けだ。


「頼めるか」

俺の言葉に、ガンリウはゆっくりと頷き。


「ふむ、ではついてまいれ!」

マントをバッと音をたてて振ると、配下のアンデットを連れて自信満々に歩きだし。白亜宮殿の正門をくぐりしばらくすると。


「で、どっちに行けばいいんだ?」


ガンリウは足を止めて、不思議そうに聞いてきた。



なんだが、いろいろと迷走が止まらない気がして……

――俺は返答の代わりに、大きなため息をついた。



++ ++ ++ ++ ++



ガンリウとその配下のアンデッドが先頭になり。その後ろを、俺とリリーとジェシカの3人でついて行く。


俺たちの後ろには、栗色でふわっとしたショートヘアを揺らしながら、真夜中の福音のバーニィ隊長が残り5人の隊員に指示を出している。


その横には、特殊鎧を着た赤髪ショートヘアの巨乳美女。特殊部隊のコレット隊長が、連射可能な応用魔法銃を構えてついて来る。こちら同じ装備をした部下5人に、指示を出しながらだ。


前にアンデッド6体、後ろに真夜中の福音6名、特殊部隊6名。


3分隊からなる20人以上の構成なら、立派な中隊構成だが。その人数で隊を編成して進んでも、白亜宮殿の中央廊下は広すぎて、余裕があるぐらいだ。


廊下の幅は20メイルを超え、天井までの高さも10メイル以上あり。突き当りまでの距離も100メイルを超えていそうだ。


この廊下の一部だけで、大型教会の神殿ひとつに相当する。

通常なら壁沿いに隊をなして、周囲を警戒しながら徐々に進むところだが……


「はっはっはー、どうしたどうした! せっしゃと尋常に勝負できる真の(おとこ)はおらんのか!」


ガンリウは廊下の中央を堂々と進み……

押し寄せる兵たちをどんどん無力化していった。


この手の突出したバケモノに応用魔法兵器はあまり通用しないようで。

しかも多少ピンチになりそうでも。


「ふん、その程度の火力で我の前にはばかるとは立ちはだかるとは、片腹痛い!

伝説の古龍リリー・グランドが、帝国に巣食う悪を滅ぼしに来た、覚えのないものは今すぐ立ち去り、はむかう勇気のあるものは前に出ろ! 我が天に変わって裁いてやる」


調子を戻した? リリーが大声で叫びながら、左手からブレスを出して敵正面に叩き込む。

このガンリウとリリーのコンビネーションにまともに対抗できそうなのは……


帝国ではクライたち北壁騎士団と。カイエル率いる、応用魔法兵器を手にしない精鋭ぞろいの南壁騎士団。

あとは勇者一行ぐらいだろう。


リリーも手加減しているようで、ケガ人は出ていないし。撤退する兵たちは全裸になっていたから、ギャーギャー叫んだり。

女性兵も混じっているせいか。


「もう、どこ見てんのよバカ!」とか。


「お、お嫁に行けない……」

「じゃあ、あの、俺と結婚してください!」


等という…… 微妙な言葉も聞こえてきた。


これじゃあ戦闘というより、バカ騒ぎか祭りのパレードか何かのようだ。

――まあ、新たな恋が生まれたのなら、せっかくなんで幸せになってほしいが。


中央廊下を半ばまで過ぎると、帝国の兵たちも抵抗せずに遠巻きに俺たちを警戒するだけになった。


攻撃をあきらめたのもあるだろうが、兵たちの中にチラホラ見知った顔がある。ひょっとしたら、北壁騎士団のメンバーがなにか伝達をしたのかもしれない。


「その左にある通用口に入って」

ジェシカの指示で、ガンリウたちアンデッドが方向を変える。


「なあガンリウ、アームルファムの秘宝についてどこまで知ってるんだ」

俺はタイミングを見計らって、ガンリウに聞いてみた。


「知っていても話す事はできんが…… 神殺しの秘宝とは、東方では縁や輪廻を変え。運命を操るものだと言われているな」


ガンリウは俺とリリーの顔を交互に見比べると。


「そして龍は、悪しき運命の元とも言われておる。西方でも東方でも龍が封印された理由はそこだが……

神殺しの秘宝は龍を解放し、また混乱の運命を創造するそうだ」

少し寂しそうに、そう呟いた。


リリーはその言葉に反論せず、唇をかんだが。


「アームルファムの預言書にも同じような記述があったが、その後に。

『善なくして悪は存在せず、悪なしにして幸せは存在しない。

なぜなら光は必ず影を生み、夜の闇なくして命はたもたれないからだ。

問題は、悪ではなく。調和である』

――そう書かれていた。

ガンリウ、この意味はなんだ」


俺はガンリウにそう問いかけた。

アームルファム特有の言い回しだが、ここには宗教的意味だけではなくて。


今回の件も含めた、見落としてはいけない真実が含まれているような気がしてならなかったからだ。


「はっはっは! このような姿になりはて、永遠の業を背負った時は我が身を呪ったが。長く生きてみるのも悪くないな!!

まさか西方の僧に禅問答をしかけられるとは。

東方では、その問いに対してこう答える。

善に対して悪、光に対して闇、すべては表裏一体の出来事。

ならば運命とは、すべてを認めることにあり。 ……とな。

ディーン殿、運命を操るとはそう言う事だ。ゆめゆめ忘れんように」

そこまで話すと、通用口は行き止まりになった。


ガンリウの言葉に悩んでいると……

リリーが俺に寄り添い、心配そうに、そっと右手を握ってきた。


「ここよ」

俺の後ろを歩いていたジェシカが、低い声で呟く。

そこには、複雑な魔術結界が組み込まれた扉があった。


俺がそれ眺めると、左側にジェシカが寄り添ってきて。


「ここがダンフィル卿の私室。

そしてその奥には地下牢に通じる特別な部屋があるわ。

あんたならきっと大丈夫、安心して…… あたしもついて行くし」


俺がジェシカの言葉に頷くと、リリーが握っている右手がギリギリと握り込まれ、激痛が走る。

それを見ていたジェシカが、すまし顔で。


「ちょっと大きくなったからって、なによ」

リリーの胸をにらみながら、さらに身体を寄せてくる。


左腕に、ジェシカの形の良い膨らみがハッキリと感じられ。

リリーがさらに強力に握り込んだせいで、右手の感覚が徐々になくなってきた。


俺は迷走を続けた自分の過去を振り返りながら。



その冴えない出来に……

――なぜこうなったかと、深くため息をついた。

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