第889話 文明の痕跡
がッ!
一級貴族の考古学者・サクジ・ヨシのスコップが、硬いものに当たった。
「お・・・
おおう!」
サクジの尻尾が、ピンと伸びている。
まあ、おっさんの伸びた尻尾なんぞ見たくもないが。
「陛下!
これは、すごいですぞ!」
わらわらと、イノセンスの考古学者が集まってきて、ハケで土砂を取り除いていく。
「こ・・・
これは・・・
神の像!?
大昔の遺跡でしょう?」
「そうとも限らんよ。」
言うと、サクジは、近くにあった金属板を掘り出した。
「よし!」
サクジは、慣れた手つきで、金属板に刻まれた文章を翻訳機に入力していく。
「ほほお・・・
「我ら、悠久の争いの後、数を減らす・・・
我ら、猫の一族に星を明け渡して故郷を去るものなり・・・」
と・・・
いうことは・・・」
「ってことは・・・
少なくとも、私たちがここにくることは「予言」されていたわけね。」
壁画に、艦内服を着た猫耳の女性や、猫耳の女神が描かれている。
「「女神や王・・・
女王の導きで、ここに至る・・・」
って・・・
大公殿下やニケ様のことか・・・!」
「うむむ・・・」
アルナスが、頭をひねって考えている。
「なるほど・・・
我々の文明にも匹敵する、電算機・・・
そして、並外れた予知能力・・・
この二つをもってして、ここら一帯の文明が滅びた後に、事跡を残し、ここを去ったというわけか・・・
「諸行無常」とは、よくいったものだ。」
「なんだいそれ?」
ジョルジュが、尋ねる。
「どんなに栄えた文明や国でも、滅びさるということだ。
百歩譲って、滅びず栄えても・・・
今のままの姿ではなく・・・
常に変わっていく・・・
地球の大賢者「ブッダ」の教えの一つだ。」
それを聞いたライティアは、はっとする。
「そうですね・・・
少なくとも、建国期のキティルハルム本国は、現代のような「近代国家」ではなかったようです・・・」
「くくく・・・」
ジョルジュが、笑い出した。
「傑作だ・・・!
僕は、こんなことを修めている「賢人」と二度も戦ったのか!
勝てるわけないよ。」
「いいや。
私なんぞ、「ブッダ」に比べればひよっこだ。
そもそも「ブッダ」とは、「全てを悟りし者」という意味だ。」
アルナスが、微妙な顔をした。
「謙遜するなよ。」
ジョルジュは、ふっと笑った。
「学者代表」は、あの考古学者です。




