第79話 春闘
なんだか、妊娠も二度目だと、最初ほどつらくはない。
「姫さま!元気してるにゃ?」
テラスで本を読んでいたら、ナキが現れた。
「どこから沸いてでたのよ?」
「人をボウフラみたいに・・・」
「違ったの?」
ユニィが、うたた寝している。
「猫は、こういうものにゃ。」
「用は?」
「じ・・・実はまた「できた」にゃ。」
「ペース速いわよ。」
「旦那が、エロいにゃ・・・うれしくって、夢中になっちゃうにゃ・・・」
ふいに、ポータブルテレビを見る。
「春闘にゃ・・・どうせ、また母ちゃん負けるにゃ。」
ドンッ!
裁判長席のような机の上に、母さまはでっかい純金のクマの首を置く。
これは、初代騎士団長アルムが仕留めたクマのそれを、石膏取りして鋳造した由緒正しいシロモノだ。
「今年の春闘となりました。雇用者代表・商工会ギルドマスター・アリシア・ミケランジェロ。
労働者代表宰相・ティナ・エラル・・・
この「黄金の熊」を擬似的に落札してください。
勝った方が、雇用賃金案を提出できます。」
「一万にゃ!」
アリシアが、先手を打つ。
「三万です。」
「五万!」
「八万!」
「十五万!」
「二十万!」
「三十万!」
宰相ティナは、スケベなメス猫と言われるが、やりての宰相だ。
「五百万!」
「ぐッ・・・」
「もう出ませんか?」
母さまが、声をかける。
「・・・・・・」
「では、勝利は「宰相」です。労働者の最低賃金は、時間当たり五百ノワールの法案が、評議会に提出されます。そして、お金はこの場合必要とされません。来年の春闘まで、「黄金の熊」は、王家の預かりとなります。」
「やっぱ、負けたにゃ。」




