第59話 図書検閲
ミナは、少し困っていた。
それは、トラルティールの出版社からきた、代表の抗議についてだった。
「ですから!
ベストセラーなんですよ!売れますって!」
「いいえ。むしろ売れ残ってしまいます。」
ミナ自身、小説家でもあり、国内の読者の嗜好をすべて把握していた。
そのため、輸入図書の全てを取り仕切っていた。
「我が部署は、目の肥えた調査員を派遣。
それにより判断しています。我が国では、「家庭崩壊モノ」や「家庭問題モノ」は、ウケません。
どうしてもというのなら、「受注」という形にします。
「国」ですから、「特殊」な性癖な人は、いくらかいます。」
「しかし、本を読むのは自由でしょう?」
「ええ。だから、そちらのベストセラー作家の作品も、趣向を変えた途端、以前の作品も売れなくなってしまいました。」
ミナにしてみれば、読者に対する裏切り行為だった。
「申し訳ありません。我が国の国民性です。」
「「売れる作品」だけですか?」
「はい。ベストセラー作家というのはそういうものでしょう?
「売れなくなって」も、作風を変えるものではありません。
変えなければいくらかは、読者は残ります。
我が国は、「売れなくなった作家」の作品も輸入していますが、そちらは、「重版はまだか!」と、問い合わせが殺到しています。」
代表は、受注の手続きだけ終えると、そのまま帰って行った。
「まったく・・・最近の本は質が悪い・・・
人に嫌がられる展開を書いて、何が楽しいのやら・・・
かつての地球でも多かったってミリアム姉さまが言ってたっけ。」
基本的に楽天的な、キティルハルムの民は、なぜだか、ミリアムのいう「鬱展開」を嫌う傾向にあるようだ。
「さて・・・
この見本を王立図書館に納めて・・・」
ミナは、いいかけて、背筋が震えた。
「うまくいきすぎている!
宇宙開発計画も順調で、軌道エレベーターも一基完成している・・・
宇宙連合との接触も順調・・・
そこへいって、文学の嗜好的変化?
末期文明にありがちな傾向・・・
母さまかミリアム姉さまに相談しないと!」
少し、こだわってみました。




