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第4章 3幕 11 欠けた父

「ラティナ、ただいま。」


「うん。」


一通り泣いて、父の顔を見上げる。

いつもの父だ。端正で、まるで女性のように美しい顔。

父でなければ一目惚れしてしまいそうなくらい。


「ラティナ、すまない。少し休んでもいいか?」


「あ!ごめんね!お布団、いやまずご飯を….え?」


疲れたであろう父を、休ませようと少し離れた瞬間。


目を疑う光景が目に入った。


「お…..お父さん。足…..どうしたの?」


「ん?あぁ、ちょっと任務でドジってな!大丈夫!一命は取り留めたから問題なし!」


ぞっとした。そのぶっきらぼうに応急処置をされた足にではない。父の様子だ。

まるで、気にしていないどころか少し嬉しそうだ。


「お….お父さん。痛くないの?」


「あぁ、死ぬほど痛い。こうしてるだけでも涙が出そうだよ。」


痛いはずだ。そんなぶっきらぼうに布で締め付け、断面が顕になった足で平然と立っていること自体奇跡だ。

よく見てみれば、右肩もばっくり無くなっている。何かに食いちぎられたような跡だ。

そして、その言葉には嘘はないと断言できた。長年父と話していく内に、父の会話のトーンで嘘か真がの区別は大体ついていた。

だからこそ、恐ろしかった。


「い…痛いなら治癒魔法を…」


「かけるな!!!」


「え?」


急に血相を変え、父が雄叫びを上げる。

どんな時でも、余裕を崩さない父がまるで、親に睨まれた幼児のように蒼白になり小刻みに震えていた。


「はぁ….はぁ….たのむ、治癒魔法だけはかけないでくれ。」


何故だろう。先程まで恐ろしくて仕方がなかった父への恐怖心が、嘘のように消えていった。


「ご、ごめん。嫌いな魔法もあるよね。で、でもすっごく痛そうだから、お父さんは寝てて!その間に私ポーション塗って治すから。」


「あ….あぁ。ポーションならいいんだ。持ってきてくれないか?」


「え?う、うん!わかった。」


(治癒魔法は大丈夫でポーションはおっけー?。わ、わからない。治癒魔法になにか嫌な思い出でもあるのかな?)


どうにも理屈が分からないが、父は異常な程に治癒魔法を恐れていた。


(ま、まさかアンデットとか….。いや、それならポーションも毒になるからそれはないのか。)


少女は、地下室に繋がる階段をトコトコと降りて行った。

普段は怖くて近づきたくないが、今回は驚くほどに足取りが軽かった。


「ポーションは….あった、これだ!」


鮮やかな萌葱色の液体。外傷を防ぐにはコレだけで事足りる。もっとも、高位の治癒魔法であれば、欠損部位の回復も可能だが。


「お父さんは、強すぎるからポーションの効き目がイマイチだった筈。5本くらい持っていこう。」


小さな身体に、果実一個程度の大きさの瓶を5つ抱え少女は父の所へ戻る。


が、そこにはあの忌々しい金髪の女。エズラと彼女の部下らしき人間が父を囲うように立っていた。


「あらあら、世界最強のエルフ様が随分とみっともない格好ですこと。」


「ちょっとな。任務で不覚をとってしまったもので。」


「やっぱり、私の思った通り。あんた噂ほど大した強さじゃないのね。前は少し驚いたけど、貴方くらいの戦士なら人間にだって腐るほどいるわよ。」


「そうなのか?是非合わせて欲しいな。」


やめろ。父に。お父さんに近づくな。その臭い口で、お父さん話しかけるな。


「あら、誰かと思ったらこの劣等種の娘じゃない。なにその顔、穢らわしい。いつもみたいにニコニコしなさいよ。」

普段、家庭教師として訪問する時と同じ調子で女は語る。

だが、





「待て。」





一瞬で、この場全ての生命体を震え上がらせる冷ややかな声。だが、私は全く恐怖など感じなかった。むしろ、私はその声に言い知れない高揚感を覚えていた。


「お前、なんて言った?お前とこの子は面識がない筈だが。」


「あ….あら?聞いてないんですか?私、今その子の家庭教師をやっていますのよ?」


驚愕と困惑の表情を抱えこちらを向く父に、私は無言の頷きを持って肯定する。


「この子に何を教えた?この子に何をした?」


凄まじい殺気だ。女はたまらずに呻き声をあげる。


「ヒッ、お…お前達!このクソエルフを叩きのめせ!こんな身体じゃお前達の敵じゃない!!」


命令の後、一瞬動きが遅れた部下達が剣と銃を抜き父を討たんと攻撃を仕掛けーーーーー

ることはなかった。

その瞬間、女を除く全ての人間がその場に倒れ伏した。


(あぁ….。これが、これが父だ。世界最強のエルフ。この人が私のお父さんなんだ。)


自身が恐怖や、植え付けられた劣等感にも似た感情によって逆らおうにも逆らえなかった女が今、獣に睨まれただ捕食される事を待つ餌のように失禁し震え上がっている。


「ま…待って!私は父に、最高議長に言われてコレをやってたの!本当はやりたくなかったの!お願い、信じて!」


「最高議長?おいおいおい、何を勝手に1人で盛り上がっている?俺は娘に何をしたのか聞いているんだが。」


「そ…それは、貴方様の娘様に人類の….」


「あぁ、結構、娘に聞く。ラティナ、このお漏らしババアに何吹き込まれた?」


「人間は素晴らしい種族、エルフは下等な劣等種で人間を犯してせせら笑う野蛮な生き物、お父さんはお母さんを犯して私を産ませたって。」


「………」


「あ…..あ……」


その瞬間、父は今まで私に見せたことのないような表情で笑ってみせた。


「覚悟はいいね?」


「ま…まっーーー」


-静寂(サイレント)-


「ラティナ、ここからは見ない方がいい。あと、そのポーション何個か置いていってくれないか?」


「はい!あと、私もここで見学してていい?というかさせて下さい!!」


「……わかった。でも、今からやることは決して他人にやってはいけないよ?」


「こころえました!!」


「ーーーーー!!!!」


その後、私の人生で最も幸せで痛快な1時間が始まった。


血は争えない!

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