第4章 3幕 8 水蒸気爆発
顕現したギドラを目にした瞬間、焔獄竜の目の色が変わる。
「ギシャァアアッッ!!!!」
焔獄竜の咆哮が遺跡全土に響き渡り、床に立ち込める霧が爆風の様にその場を駆け抜け、艶やかな大理石が顔を覗かせた。
(まずは小手調べといくか。)
-水流放射-
右肩に顕現したギドラから、大量の激流が放出される。巨木を薙ぎ倒し、岩をも砕く超高圧力の水流。しかし、原初たる竜には攻撃としての効果は殆ど望めない。
しかし、それで良い。狙いは別にある。
水流を喰らった焔獄竜は、その水圧によりその巨大半身程度後ろへ後退するが、一瞬怯んだのちその水流を諸共せずに突っ込んできた。
(やはり、竜は真っ向から責められれば基本的に乗ってくる。水を嫌がらない所を見ると、鉱石や土壌ベースの鱗ではない、か。)
ドラゴンの鱗の性質を考えているうちに、奴が突っ込んできた。
「引っ込めギドラ!」
先程まで、自身の背中に顕現していた邪神が、まるで幻のように姿を消す。
巨大な爪を振り翳し、地べたを這いずる虫を潰さんと全力で爪を地面に叩きつける。
その瞬間、床の大理石には亀裂が入り、その亀裂からは赤黒い炎が噴き出してきた。
(-煉獄の炎-か!)
すんでのところで躱したが、地面は不用意に踏みつければたちまち大ダメージを負う火の海と化した。
高位魔法 -煉獄の炎-
性能としては、自身が扱う中位魔法-影炎-のほぼ上位互換。
無機物ですら、燃焼させ術者が解除させる。そして、対象物を燃やし尽くすまで決して消えることはない。
解除するには、自身の魔力を消費し炎と身体に魔力の膜を作る必要がある。
(でも残念、雷の鎧を纏っている今の俺にその炎は届かない。さて、次はこっちから仕掛けるか。)
-一点集中-
自身に纏った雷の鎧を、槍の矛先の一点に集約する。
その矛先を、ドラゴンの首を目掛け突き立てる。
「シャアッッ!!」
独特の掛け声と共に、稲妻の如き一閃がドラゴンの右首に突き刺さる。
バチッという音と共に、その部位が爆発。ドラゴンは男を振り払おうとするも、槍を巧みに扱い男はその場を一瞬で離脱する。
(効果あり!やはり、鱗が電撃で緩むのは雷主体のドラゴン以外は共通、だな。)
男が最初に水を敵にかけた理由。それがこの、水と雷を合わせた連携技。水蒸気爆発だ。
理論は単純、水をかけた部位に電撃を流すだけ。これだけでワイバーン程度であれば致命傷だ。だが、鱗が少々剥がれ落ちる程度で済むあたり流石は原初といったところだろう。
「ギャアアアス!!!」
「うっわ怒ってる、怒ってる。てかなんだギャースて。断末魔か。」
どうやら、今の一撃で完全に怒らせてしまったらしい。だが好都合、後はこちらの土俵に持ち込むだけだ。
-竜王の漆黒翼-
男の背中から、漆黒の翼が生えてくる。まるで、巨大なカラスのような翼には所々金色の羽毛が生えており美麗な外套のようである。
「こっちだ。」
ドラゴンを挑発し、その頭上を凄まじい勢いで飛び抜けかの存在の背後に回った。
ドラゴンは、憤り男を追わんと翼を広げ、今にもこちらへと突っ込んでくる様子だ。その刹那
バチィィンッという音と共に、ドラゴンの左翼に雷が走る。それと同時に、先ほどよりも更に大きな水蒸気爆発が起こった。
「残念。雷針はまだ残っていました。さぁ、飛んでくるならきてみたまえ。出来るのならな。」
-雷撃-
男は自身の使用できる雷魔法の中でも高位魔法に属する魔法をドラゴンに放つ。
男を中心に光輪のように広がった雷の槍は、雨霰のようにかの巨龍の鱗を直撃し、爆発による衝撃でベリベリとその鱗を削ぎ落とした。
(よし!)
束の間の喜び。刹那ドラゴンは怒り狂い凄まじい熱線を放ってきた。
-溶岩熱線-
「うおっ!!危ねぇな。まともに喰らったら死にはせずとも大ダメージは必至か。これは、勝負を急いだ方が良さそうだ。」
また、すんでのところで男はひらりと翼をはためかせ回避する。まるで、何度も見てきたかのような身のこなしだ。
ドラゴンは賢い生き物だ。先程から二度も雷針のトラップに引っかかっている。だからこそ、下手にちょこまか動く自分を追うより座して待った方が良いと考えたのだろう。
「畳み掛けるぞギドラ!」
その声と共に、先ほどから姿を消していた邪神が片方出てくる。
-水海の宮殿-
詠唱と共に、凄まじい量の水がギドラの口から放出される。
巨大な水の塊は、かの巨龍を一瞬で包み込み遺跡全土をその美しい水面で覆った。
-神雷-
その一言の後、即座に入れ替わったもう一つの邪神。
雷竜の放つ最強の超位魔法が解き放たれた。
凄まじい爆発音と、竜の絶叫が遺跡に響き渡り、美しい大理石で造られた美しい遺跡は見るも無惨な廃墟と化した。




