第4章 3幕 6 奈落の底
ミズガルズ最南端 戻らずの滝 最下層
不可思議。その言葉以外にこの場所を形容する事が出来るだろうか。
滝壺といえば、水が凄まじい勢いで大地を打ち付け、水飛沫が飛び交い、その水が河川へと流れていく。それが普通だ。
ここには、水の一滴すら流れていなかった。
下降途中までは、普通の滝だった。確かに圧倒的に巨大ではあったが所詮それまで。
問題は、おおよそ周囲に光が届かないであろう付近まで降りてからだ。
突如として空気が変わり、真っ白い霧が地面を覆う神殿の石畳のような場所へ出た。驚いて戻ったが、しっかり先ほどの深淵に戻る事は出来る。地続きならぬ、滝続きだが、まるで突如として世界が変わったようだった。この世界は元より謎が多いが、やはりまだまだ知らない事ばかりだ、と高まる胸の内をそっと宥める。
(十中八九ここが最下層だな。滝の下はこんなになってたのか。太古の地図だとここはすでにアルフヘイム領なんだが、いかんせん常識は通用しないし、俺は方向音痴だから地図と現在地がすれ違うなんてしょっちゅうだからな。)
-知覚強化- -嗅覚強化- -竜王の瞳-
感覚系強化魔法をかけ、更に固有スキル竜王の瞳を発動する。エルフの知覚は人間を遥かに上回り、数キロから数十キロ先まで見通す事ができる。それに加えて、このスキルは竜の瞳の特性を付与できる。景色をモニターのように拡大縮小でき、時間は短いものの録画のようなものも可能だ。
他にも五感強化魔法はあるが、触覚強化を使うと余計に痛みが倍増したりするので今回はかけない。
(この臭い。チッ原初か、ギドラがまた暴走しなきゃいいが。)
臭いですぐに、以前撃退した化け物”魔竜マディラ”である事がわかった。奴は、手負いの筈だが正直かなり危なかった。ギドラの頭を5本も千切られ、自身の魔力も8割消費させてようやく撃退できた化け物だった。
(やつが、切り札を使えなくなっている事を願うが、恐らくそれはないだろう。使えるモノだと思って対処するに越したことはない。)
-竜狩りの雷纏い(ドラゴンライトニングアーマー)-
対ドラゴン用の自己強化魔法を使用する。これは、自身に雷の鎧を纏う事で、死霊系や精神系を除く物質的な破壊を伴う魔法や現象に対して高い耐性を付与するモノだ。もっとも、上位者や原初相手では気休めでしかないが。
そして、コレを使用した瞬間に自身の武器にもその、竜狩りの雷の力が付与され殺傷能力が格段に増す。
ドラゴン以外にも高い効果を示すが、当然対ドラゴンにおいてこの魔法以上の対策魔法は竜騎士以外には存在しない。
-竜狩りの雷針-
これは、トラップの類だ。消費魔力は高いものの、相手の行動を抑制するにあたり大きな意味を持つ。
(さぁ….どこからくる。)
男は神殿の床に佇み時を待つ。
床には霧が立ち込め、男の下半身を覆い上半身のみが浮遊しているかのようだった。
バチィィィィン!!!!
(トラップが発動した!出てきたか!今度こ….なに!?)
そこに居たのは、魔竜ではなく
赤褐色に身を包む、見たことも無いドラゴンだった。




