第4章 3幕 3 怒り
此度の任務が此方になります。
魔竜マディラと眷属たる影炎の魔公5匹
「……無理なのですか?」
ハッキリと嘲笑の意を込めた問い方で男に尋ねる。
「俺を誰だと思ってる」
力のない、だが呆れとも、傲慢な自信とも取れる返事が帰ってきた。
そう、此度の案件。
我がミッドガルドの最上級兵士6人で2週間かけて行う任務だ。
しかも、今回の相手は並の竜では無い。
下手な上位者であれば敗北は必定とされた、源初の竜王の一体だった。
特徴は、純粋に骨格が違う。
基本的な竜は二脚の巨大な足に、大きな翼のワイバーン。
四脚の足に翼の生えた、天馬の如きドラゴン。
そして、トカゲの体に翼をもつ源初だった。
今回出現したのは、冥界ヘルヘイムから剥がれ落ちた。
もしくは、侵略に来たとされる個体だった。
もっとも、情報は全て評議会の管轄なので私が知るのはここまでだが。
「ですが、正直呆れ返るほどの強さですよね。最上級兵士6人でも1週間前後はかかる任務を平気で1日でこなすんですから。上位者ってのは本当に化け物なんですね。」
これは皮肉などでなく、本心だった。確かに、文献や過去の記録から先人達の強さは把握していた。
だが、実際に目の当たりに-直接見たわけでは無いが-するのと聞くのでは訳が違う。この男の強さは異常だった。
王族たるエルフを人類が、特級の戦力として最終討伐目標の一つに挙げているのも納得だ。
「まぁな、だが正直今回は流石に骨が折れそうだ。源初だぞ?遥か太古であれば、人類滅亡レベルの戦力だ。たった1人のエルフに任せる事実が、お前達人類の弱さを物語ってるんじゃないか?」
「ッッ!!!!」
(このクソガキ!!劣等種の癖に人間様にどの口聞いたんだ!てめぇはあたし達の慈悲で生かされてんだぞ!)
あまりの怒りで眩暈がした。人間に使って貰い、あまつさえ居場所を与えられ、報酬も約束される、劣等種の蛮族には余りに寛大すぎる配慮だった。
だが、私は至高の種族人間。そんな、愚かな感情は胸の内に仕舞い込む。
「あら?では、娘さんを連れて行ったらどうです?貴方の娘なんだからきっと化け物のように強いんでしょ?それに、ハーフだから見逃されてるだけで、あの子の血は半分がエルフ。しかも、大逆人の一族の血なんですか―――」
ガシッッッ!!!
「ーーーッッ!!!」
男がとんでもない形相で、その巨大な手で私の顔、鼻から口にかけて全てを覆うように掴んできた。
凄まじい力なんて生優しいものではなかった。
足をばたつかせるも、宙を空振るだけでなにもなさない。
腕を掴み、奴の目を目がけて手を出すもその手が届くことはなかった。
「娘は関係ない。もし、あの子に何かしたら―――」
一瞬で全身を恐怖が支配する。目からは涙が滲み、股間からは熱いものが込み上げてきた。
ニヤケ顔とも、怒りに歪んだ顔とも形容し難い。
何より、女性のように美しいトロンとした顔立ちから発せられる怒りの形相はあまりにも恐ろしく、気味が悪いものだった。
“犯すぞ クソアマ”
その一言を言い放ち、男は私を部屋の隅に放り投げた。
気づいた時には奴は既にいなかった。
任務に向かったのだろう。
「ゲホッゲホッ!!はぁ、はぁ。あの…..あのクソエルフよくも….!よくもあたしに手を挙げたな!!!許さない!絶対に!!絶対に!!!!」
復讐を誓った女は、ある少女の家庭教師へと取り次いだのだった。




