第4章 3幕 2 料理
今日も憂鬱で永遠とも思えた時間が終わり、日が暮れ
空が山吹色に輝いていた。
もう少し、もう少し、もう少し、もう少し。
バタン
扉の開く音、そして大好きな鎧の擦れる音がする。
「おう!ただいまラティナ!!」
「お父さんお帰り!!」
私がこの救いようのない世界に見出していた唯一の希望。
強くかっこいい 大好きな父が 帰ってきた。
ーーーーーーーーーー
コトコトと鍋の沸騰する音が聞こえる。
私の大好きな音だ。
「待ってろよ、今日はシチューだぜ!」
父の意外な特技。それは、料理だった。
それも、生半可なクオリティではなかった。
そこらの高級料理店に並んでいても不思議ではない程の完成度の高さ。贔屓目に見ていなかったかと言うとウソになる。でも、父の作る料理はこの世界でどんな物よりも美味しかった。
「ねぇ、お父さん。」
「ん?」
昔から気になっていた質問を投げかけてみる。
「お父さんって、昔王族だったんでしょ?」
「あぁ、そうだよ?」
父は、エルフ王アルファリアの3人目の子供だったらしい。
あまりにもさらっと言うもんだから、昔は軽い冗談だと思っていたものだ。
「王族って召使いさんが、いるんでしょ?お父さんが料理なんて作る必要なかったんじゃない?」
「あぁ、それね。まーその、俺は少し特殊だったんだよ。」
父はいつもそうだった。王族である事はサラッと言う癖に、王族として過ごしていた時期の事をロクに話そうとしない。時々凄く辛そうで、そして
怖い
「まぁ、コレくらいなら言ってもいいか。俺はな、俺の母さん。つまり、ラティナのおばあちゃんの部下の人達にこうして料理使って持って行ってたんだ。」
「おばあちゃん?」
私には、祖母がいた。父と同じ純血のエルフ。
何でも現役時代は、かなりやんちゃしていたらしい。
母や祖父が健在の頃は、この一軒家で家族5人で楽しく過ごしたものだ。
凄く綺麗で、父に似て前向きで活発な人だった。
でも、祖父が死に、その後母が死んだのを皮切りに祖母はかつて父と過ごしたとされる貧民街へと強制的に戻された。
父は一緒に行こうと言った。私も、そうしたかった。
でも、祖母は拒絶した。
せっかく自分の力で手に入れた幸せなんだ。
簡単に捨てちゃ損だ。
と。
今思えば、わたしの生活はかなり裕福なものだった。
金銭感覚も、近所の少年少女とはかなりズレがあった。
とりわけ、父や祖父が甘かったから望めば大抵何でも手に入った。
そんな、祖母にも部下がいた時代があったらしい。
王妃…という性格ではないから恐らく騎士か何かだろう。
「そう、おばあちゃん。俺を産んでから任務で忙しくてな。俺が4つになるまでマトモに会話したことが無かったんだ。」
祖母の事情は知らない。だが、父が言うならそうなのだろう。だが、その顔は寂しさとは別の感情に写って見えた。
「俺は、寂しくてさ。まぁやる事がねぇからこうして料理使ってた。で、あるとき作り過ぎて、母さんの部下が偶々いたからソイツらに振る舞ってたのさ。」
父らしい、何とも”慈悲深い”行動だった。
「そっか、お父さんは昔から優しいんだね….」
「ちがうちがう、もっと低俗な理由でやってた。」
「…え?」
父から低俗なんて言葉が出るとは思わなかった。父は基本的に自分を卑下する言葉を滅多に言わない。だから、こそとても衝撃だった。
「俺は、あのクソッたれから”出来損ないの失敗作”って呼ばれててな、毎日劣等感と母さんへの申し訳なさを抱えて生きてたんだ。」
父が、出来損ない?
エルフ王は気が狂っているのだろうかと思った。
「あぁ、強さ的な事じゃないぞ。もっとこう、別のところにあった。」
気になったけど、聞かないことにした。何故だか分からないけど、今聞いては絶対にいけない。そんな気がした。
「で、エルフの女の子達に料理振る舞ってればモテるし自尊心は満たされるしいい事ずくめだ!フハハ!」
父はそう言って、豪快に笑う。
でも、私は知っている。父が不自然に笑う時。
それは、大抵本心とは別のことを言っている時なんだ。




