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第4章 2幕 2 日常と殺気

ミッドガルド西部平原にて、人類最強の国防軍

竜狩りの鎧の猛者達が、今まさに、その頂点とデッドヒートをかましていた。


元々、この組織ははぐれものや、上官の意志にそぐわないのけものを中心に集められた組織だ。

閣下曰く


“余り物には福がある”


だそうだ。聞いた瞬間に、自身が必要とされていない存在だと言われているような気がして腑が煮えくり返ったものだが、今になって彼の真意を何となく察する事ができた。


ツンデレだ。


そう、この男の部隊の最大の特徴。

部下が上官にいくらタテ突いても、彼は決して部下を責めたりしない。それどころか、荒くれ者が自分らしくあれるよう、敢えて傲慢に振る舞っているのだ。


もっとも、元々傲慢な性格は持っていたようだが。

部下達も、あぁは言っても実際に彼に歯向かうものは居ない。

それどころか、彼の命令を信じて疑わない。ある種、巨大な家族の頑固親父のような存在だった。


それの証拠がこの娘、ラティナちゃんだ。

この子は閣下に似ても似つかない優しい子だ。彼が本当に傲慢なクソ野郎ならこの子は、こんな活発で天真爛漫な子には育たなかった筈だ。

….まぁ、若干難はあるが。


「おい、デビッド」


「…ッは!!なんでありましょうクソエ….閣下!!」

部下につられてウッカリ自身も”クソエルフ”と喋ってしまいそうになった。

というか、殆ど言ってしまった。


「お前なぁ….まぁいいや。それ、仮に俺と似た顔、そう左右の瞳の色が違うエルフにだけは絶対にいうなよ?特に銀色と黒の奴。」


銀色と黒?閣下から、王の相とはオッドアイではなく、純銀の瞳と教えられてきた。

だが、そんなエルフは報告にない。

第一王女プリメラは銀と水色だったか。他にも教えられたが、亜人への対応で流石に覚えきれなかった。


「さて、無駄話はこの辺までとして。次の指示だ。まずあと1時間もしないうちにここは”アンデッド”の群生地になる。それも、最低でも”死霊船の騎士”や”首なし騎士”だ。」


「….へ?」


まただ、この人は突拍子もなくとんでもないことをおっしゃる。


「ここは、アンデッドの群生地になるから部下を連れてミッドガルド領まで速やかに撤…..」


「お待ちを閣下!!!アンデッド?それに、”死霊船の騎士”!?とんでもない全部が中位〜高位アンデッドじゃないですか!!」


とんでもない戦力だ。今回のゴブリンだが、恐らくあの部隊長が、およそ人間基準でいう中位後半だ。

流石に高位までは行かなくても、現在のミッドガルドからすれば十二分に脅威な戦力だ。

そして、今閣下が言ったこのアンデッド達は全てそのゴブリンと互角、ないし上回る戦力だった。


「閣下!お気は確かですか!せっかく倒したのに、更に脅威となる戦力を作ってしまうなど!アンデッドですよ!」


「お前は、常識はあるようだが柔軟性が足りん。良いか?アンデッドってのは最初から死んでるからどれだけ死んでも我々の損害にならない。しかも、その素材は敵の死体。殺せば殺すだけ、こちらの戦略が増えるお得な戦力なんだぞ?」


「し….しかし、もし敵に回ったら。」


「大丈夫、そこら辺の調整は娘がやってるから問題なし!」


グッとウインクを、しながら此方にドヤ顔でとんでも無いことを言い放ってくる。


「ラ….ラティナちゃん….その、調整って?」

彼の傍にくっついて離れない、可憐な少女に問いかける。


「うん!この土地には、わたしが負のエネルギー撒き散らして、死体さえあれば勝手にアンデッドが湧くようにしてあるの。で、ここからが重要で、人間種は直接攻撃されない限りは絶対に攻撃されないのよ?凄いでしょ?」


見るものを全て癒す、まさに天使のような無垢な笑みを浮かべ、この娘はとんでもない事を語った。

あぁ、もういい。この親子に常識は通用しない。


「そして、強さはこの部隊一人一人の強さより若干抑えてあるの!最もこれ以上強くすると、指示がアバウトになって暴走するからここら辺が限界なんだけどね?」


「すなわち!」


隣の父親、トレスが続ける


「仮に暴走しても、俺と娘。そしてお前なら1人だけでも充分に対処可能な訳だ。うんうん、実に天才的。」


「お父さん、キッレモノー!」


別に大したことは言ってないと思うが、娘が機嫌が良さそうに父の腰を叩く。身長差が、ありすぎて背伸びをして、少し小刻みに震えているのが実に可愛らしい。


「前々から言ってるが、死霊の使い(ネクロマンサー)は何も俺と違ってエルフ専用の職業って訳じゃないんだ。人間ももっと使うべきだぜ?」


「”人道じゃ、人権は守れても人類は守れない”でしたね。」

この男がかつて、作戦に戦慄する自分に言い放った言葉だった。実際その通りだ。評議会の連中は常に安全な場所から命令をするだけ。しかも、大抵が平和ボケしていて詰めが甘い事ばかり。ハッキリ言って無能だ。


「そそ!よく聞いてるじゃないか。偉いぞ。」


ニッと無邪気に笑うその顔は、この美少女の父らしくとても無垢で-男だが-とても可愛らしいモノだった。声を聞いていなければ女と間違うものもいるだろう。


「それに、戦力として使うだけがネクロマンサーじゃないんだよ?敵を知るにはまず、自分達が”かそーてき”の手の内を使ってみるのが1番の対策のちかみちなの!」


「お前….やっぱり天才か…..」

「お父さんの娘だもーん!」


また、この親子の漫才が始まった。ホントに仲良いよなコイツら。

でも、マトモな精神してたらうん100年も守り手なんてやれる訳ねぇか。


「てなわけで、あの耄碌じじい共にはよろしく言っといてくれや!」

「よろしくー!」


それが本題かー!!!!

いつもそうだ、この2人はやりたい放題したあと、その始末を全部俺に丸投げするんだ!

胃が痛い….。


「その、ダメ元で聞くんですが。人間種ではなく、”人間”に範囲を絞って支配力を強めるとかは出来ないんですか?」





空気が変わった。文字通り、巨竜に睨みつけられるが如き殺気が俺を襲った。覚悟の上だ。


「俺たちに、テメェらの為に作った壁に殺されろ….と?」


唾をゴクリと呑み込み意を決して言葉を紡ぐ。


「いえ、ですが評議会が今回ばかりはどう言う行動に出るか。その、大変失礼かと存じますが、貴方は兎も角ラテ….娘さんは大丈夫なのですか?」


「大丈夫よ」


間髪入れずに、その娘ラティナが返答してきた。


「わたし、昔より遥かに強いし、それに私には世界最強の守護神がついてるもの。ね、お父さん!」


「そういうこった。」


(そうか、そうだったな。この2人、超常的な戦闘能力で忘れてたけど、守護神である以前にエルフである以前に、何処にでも居る親子なんだもんな。)


「さてと、ほんじゃ俺たちはちょっくら娘の野外授業の為に抜けるから、後はコイツらのことたのんだぜ!」


竜王の(ディセプションウイング)


「は!?そ…そんな、せめて領地に戻るまで!」


「エルフなんかに連れて行かれるよりお前に先導された方が多分コイツら喜ぶぜー!」


「アンタが、コイツらなだめんの面倒くさがってるだけでしょー!!」


ほんっとうに現金なクソエルフだ。でも、なんだろうラティナちゃんが、ここまで慕うのも理解できる。そんな快活な男だった。


そして、娘を抱えてそのエルフは遥か彼方へと飛んで行った。


しかし、妙な違和感がある。先ほどの殺気。閣下からのモノだと思ったが、俺には閣下の娘、ラティナから発せられている様に感じたからだ。

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