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18話 表彰式

 ダンジョンを管理する機関、ダンジョン協会。その本部の建物の中に私は居た。

 ダンジョン踏破の証である星形のバッジの授与式まで少し時間があるという事で客室へと通されて鈴木さんと待っているところである。


「このお菓子めちゃくちゃ美味しいですよ! 茉奈さんも食べます?」


「はい」


 客室に置かれているお菓子を鈴木さんから受け取る。鈴木詩織すずきしおりさん。事務所『シャーロック』における私のマネージャーさんだ。

 少しお茶目なところがありそれでいて仕事は完璧にこなすという何とも魅力的な方だ。


 あまり人とのコミュニケーションが得意じゃない私ですらすぐに打ち解けることができたその人懐っこさが好きだった。

 私の方が年下だから人懐っこさって言うとちょっと上から目線みたいに聞こえるかもだけど、でもその表現が一番正しいんじゃないかな?


「そういえば今日、テレビが入るらしいですよ。どうやら全国中継するみたいで」


「聞きました聞きました。テレビに映されるの初めてなんで少し怖いですけど」


 テレビが来るからと配信の時の衣装で来てほしいと言われてこうしてドレス風鎧で来たのだ。

 私としては正装で来いって言われるよりそっちの方がありがたいけどね。


「茉奈さんはこれからもっとメディア露出が増えると思いますのでこれを機に慣らしていきましょ」


「はい」


 メディア露出が増える。それが事務所の意向なのだろう。現に梓や他のタレントたちもテレビの歌番組への出演はたまにしている。

 でもバラエティでは見たことがないからそこもまた事務所の方針なのかな?


 そうして談笑しながら表彰式が始まるのを待っているとコンコンッと部屋をノックする音が聞こえてくる。


「そろそろ表彰式が始まりますのでご案内いたします」


「お願いします」



 ♢



 案内の人に連れられて向かった先は私の想像していた感じのお堅い部屋ではなく、パーティでもするんじゃないかってくらい豪華に装飾づけられた大きめの部屋だった。


 その中にはテレビのカメラマンさん達が数人、端の方で立ち並んでいる。あれがテレビなんだろな。意識すればするほどに体が強張ってくる。


 ちらりと横を見ると鈴木さんが遠くの方で微笑みながら手を振ってくれる。ここからは一人だ。


 あ~、緊張する~。


 部屋の中央には立派な礼服を着た男性が一人立っている。


「あちらの方のところまでお進みください」


 ボソボソと案内をしてくれた方の指示に従ってその礼服を着た男の人の前へと歩み出る。なんかこの光景、AZUSAの時に見たことあるかも。


 私が礼服を着た男の人の前に立つと、スッと横に別のスーツを着た女の人が四角形の黒いお盆みたいなものを持って控える。


 そして礼服を着た男の人がそのお盆の上から一枚の紙を受け取る。あれが表彰状かな?


「マナ殿。貴女はダンジョンを踏破することにより、ダンジョン研究促進に多大なる貢献をしました。その功績を讃えここに記念品を贈呈します」


 男性が表彰状を最後まで読むと、こちらへと渡される。それを私は一応調べておいた作法に倣って受け取る。


 私が表彰状を受け取った後、横のお盆から小さな黒い四角い箱が取り出される。あれが噂の星型バッジなんだろうな。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってその小さな箱を受け取る。受け取ってみると黒い箱の柔らかな手触りが伝わってくる。その見た目はどこか気品がある。


「それではこれにて表彰式を終了いたします」


 礼服を着た男の人がそう言った瞬間に、ささっと私の下へ案内人の方が来てくれてそのまま退室を促される。こうして私のダンジョン踏破表彰式は終わりを告げるのであった。



 ♢



「あ~、緊張した」


 休憩室兼客室へと移動した私は即座にソファへと倒れこむとそう口にする。

 四方八方から集まる視線、そして何よりテレビカメラの圧が凄かった。

 転んだらどうしようとか受け取るの失敗したらどうしようとか色んな不安が押し寄せていたのだ。


「お疲れ様です。マナさん」


「私ちゃんとできていましたか?」


「これ以上ないくらいだと思いますよ」


「良かったです」


 仮面で顔が半分隠れている分、少しマシだったのはあるかもしれない。もしこれが素顔だったらと思うと一応メイクさんが付いてくれるとはいえ怖すぎる。


「準備が出来ましたら事務所へ戻りましょうか。そろそろ迎えの車も来ると思いますので」


「分かりました」


 そうして鈴木さんの言葉通り十分後くらいに来てくれた迎えの車に乗り込むとそのまま事務所へと帰るのであった。

ご覧いただきありがとうございます!


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