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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第25話 仕組まれた真意
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25-1

 コニールはシーラの作戦を理解してユウキたちにこう説明した。“世界樹の接ぎ木を持っている子供たちごと倒してしまえ”と。それを聞いてエンドウは目を見開いて反論した。


「な……なんてことを言っているんだ! それは流石にやりすぎ……!」


 しかしエンドウが驚いたのはその後のユウキたちの反応だった。ユウキもアオイも、シーラの作戦にあまり拒否感を示さず、当然のように聞いていたためだった。


「まぁ……確かにありか、それ」


「私は不殺魔法を武器に付与するしかできないから、ユウキに頑張ってもらう形になるかな」


 エンドウは先ほどシーラに反論しようとしていたコニールを見る。しかしコニールもエンドウが求めていたほどに否定の態度を示していなかった。


「ユウキ君の力ではやりすぎてしまうことがあるからそこは気を付けないとな。それにまずは説得をするだけしなければ……」


「お……おいあんたら……!」


 動揺するエンドウをよそにユウキたちは作戦にむけての準備を進めていた。その様子を見てエンドウは怒鳴るように言う。


「ふざけんなよ! 相手は子供だぞ!? それをそんな……!」


 怒るエンドウをユウキは呆れた目で見る。


「今更倫理問う立場かよお前は……誰のせいでそもそもこんなんなってると思ってんだ」


 ユウキからの正論を受け、エンドウは押し黙ってしまう。しかしそれでもなお反論を続けた。


「俺は……ここまでやる気はなかったんだ! でもだからって超えちゃいけないラインはあるだろ!?」


「じゃあほかにどんな考えがあるんだよ! お前が協力して周囲の魔物を操って、安全をアピールするか!? そんなことしたら間違いなく今回の件の主犯なことがバレて、余計に袋叩きに合うと思うけどな!」


 ユウキのさらなる反論に、エンドウは言い返すことができなかった。なぜならユウキの出した対案すらエンドウは思いついてすらいなかったからだ。しかし、エンドウは胸にムカついた思いを感じ、その感情のままに足を前に踏み出す。


「だったら……あとはお前らだけでやれ……!」


「あ……おい!」


 ユウキはエンドウを止めようと手を伸ばすが、エンドウはその場から飛んでいくように離れて行ってしまった。エンドウも第五世代の異邦人であり、そのステータスが他の異邦人とは比べ物にならないほどに高いものとなっており、ユウキでも追いつくことができずに姿を消してしまった。


「行っちゃった……大丈夫か……?」


 心配するユウキにシーラが声をかけた。


「大丈夫でしょうよ。どうせ奴もここから外に出られない。奴の能力なら魔物にやられることはないでしょうから」


「そうか……」


 ただユウキも薄々気が付いていた。エンドウのがよっぽど正論を言っていることに。暴力沙汰に慣れてしまってきている自分が一番間違っていることに。


 しかしシーラが提案している以上、それが一番被害を出さないための方法であるという確信も得ていた。シーラが考えなしに無為の犠牲を出すような人物ではないことは、ユウキは一番よくわかっているからだ。


× × ×


 生徒寮避難所。一度避難所に戻ったケンイチ達は治療を受けていた。ハージュは元々そこまでの怪我を負っておらず、魔力も使っていないために体力の消耗はそこまででもないが、セシリーの消耗具合が深刻だった。


「大丈夫ですかセシリー先生……」


 ハージュがセシリーの看病を続けるが、セシリーは息を切らしたまま返事をすることもできなかった。生徒寮と研究棟に魔物除けの結界を張り、魔力を消耗しきったところに薬で無理やり体力を回復させ、そのうえで2回目の魔力切れを起こせばこうなってしまうのは自明の理だった。


 しかしセシリーには倒れている暇はなかった。ハージュの呼びかけに答えられるほどの体力すらないのに、立ち上がろうとする。しかし足に力が入らずに体勢を崩し、ハージュに支えられた。


「ちょっとセシリー先生! まだ無茶ですって!」


「……まだ寝てられない……! あの子が……まだいるんだから……!」


 セシリーはハージュの忠告が聞こえてるか否か判別がつかないまま、ハージュの肩から手を離し、フラフラと歩いていく。


「セシリー先生! 待ってください……ああもう!」


 ハージュはセシリーの肩を支えると、共に外へと出ていく。そのよそで、避難所の中ではあるグループが集まって集会を行っていた。


「ジェインシンパの奴らがこっちに向かってきているだって!?」


「しかもこの学校に伝わる22の秘宝をもって……!?」


 彼らは生徒寮を守っている有志であり――若年ながら魔物と戦えるほどの魔法力を持つ、いわゆるエリートたちだった。生徒寮には結界が張られているが、それでも侵入してくる魔物はおり、彼らが魔物と戦うことで現状は守られていた。


 教師たちは学内の寮や研究棟ではなく、町の自分の家で寝泊まりする者の方が圧倒的に多いため、実際に戦うことのできる職員はほとんどおらず、彼らがまさに守りの要になって“しまっていた”。


「あいつら……もしかして手にした力でこっちに攻めてくるつもりなんじゃ……!」


「だとすると、この現象もあいつらが起こしたものなんじゃ……!?」


「そうだ! だからシーラのやつもあそこにいたんだ!」


 22の秘宝についてはこの町に住んでいる者なら誰でも知っている。そして彼らの中には身分が高い家出身の者も多くおり、各家に伝わる秘宝の詳細について知っている者が多くいた。そのため世界樹の接ぎ木が何をもたらすかもわかっていた。


 それだけならまだ冷静な判断ができたかもしれない。しかし現在は午前4時を回っており、避難している者たちも疲れ始めていた。そして何より“自分たちが守っている”という優越感が彼らを思考回路を数段階吹っ飛ばしてしまっていた。


「ならこちらから打って出れば……!」


「やつらの世界樹の接ぎ木を奪えば、この現象も終わるかもしれない……!」


「やってやろうぜ! この学校の平和は俺たちが守るんだ!」


 生徒寮を守っている生徒たちは一致団結して、研究棟から避難するために向かってきている生徒たちへの攻撃の決意を固める。その様子をブレットは離れた場所から見ていた。本来はブレットもあの集団の中にいてもおかしくはなかった。


 しかし彼はシーラのことが心に引っ掛かっていた。“元ジェインゼミの生徒”であったシーラがいたことで、彼らは暴走していたがブレットの心は逆に落ち着いてしまっていた。妹であるヘレンをを殺した――として学校を追放されたシーラ。その過去の詳細を知っているからこそ、なぜシーラがここに今いるのか、ブレットはわからなくなっていた。


「なんで……あいつはまたここに来れたんだ……!」


× × ×


 研究棟から避難してきた職員と生徒たちは、生徒寮の前までやってきていた。道中魔物に何度か襲われはしたものの、世界樹の接ぎ木の力を与えられた生徒たちの力で無傷で守られていた。


 ジェインシンパの彼らは魔力が無く、落第生としての扱いを受けていたものの、ゼミで受けていたジェインからの補習のおかげで知識は相応のものを身に着けていた。そして今、それを振るうことができる力が与えられている。感動して涙を流す生徒までいた。


 しかし現在、彼らがその力をもって暴走することはなかった。なぜなら彼らが信望するジェインがそれを強く戒めており、なおかつトリーとともに最前面に立って避難の指揮を行っていたからだ。


「世界樹の接ぎ木……予想以上の代物ね」


 ジェインは自分の隣にいるトリーを見ながら言った。


「……ええ。まさかこんな形で手に入るなんて……全く想像していませんでした」


 トリーは手に持った接ぎ木をじっと見た。この接ぎ木を手に入れたのはジェインの意思は一切絡んでいない。トリーが自分の意思でもって手に入れたものだった。


 この学校では5年目に一種の線引きがされている。5年生の課程修了時に試験を行い、この試験に合格できなければ落第となる決まりとなっていた。


 現時点でトリーはこの試験に合格するための魔力が全く足りておらず、現時点で4年生のトリーは、5年生への進級すら危ぶまれていた。彼女にとって幸運――いや“不幸”だったのは家族の理解が足りて“いた”ことだった。彼女の家族はトリーの魔法使いになりたいという夢をかなえるために、トリーが何としても魔力を手にするための方法を必死になって探し続けた。


 そして見つけたのが世界樹の接ぎ木を手にするという非現実的な方法だった。それも娘のためにならと秘宝を持つ各家に出向いていき、娘のために頭を下げ続けた。トリーはそんな家族に感謝するとともに、背負いきれない重荷が彼女の肩にのしかかり続けていた。


 そして今、トリーの手には世界樹の接ぎ木がある。そしてそれは望み通りにトリーに圧倒的な魔力を授けてくれた。


 しかしジェインはそんなトリーが心配で仕方なかった。ジェインがトリーから離れようとしなかったのは、彼女の暴走を懸念してのことだった。ジェインの過去の経験上、このような棚ぼたで力を手にした者はろくな結末を辿ることはない。


 そして今はまだ生徒たちもジェインに大人しく従っているが、生徒寮に着いたらどうなるか――しかし、研究棟は侵入者からの襲撃を受けたことを後から来た者から報告を受けている。もう戻ることもできない。


× × ×


 強引に世界樹の接ぎ木を奪おうとするユウキたち、過剰防衛に走ろうとする生徒寮の生徒たち、世界樹の接ぎ木による貰い物の力に溺れる研究棟の生徒たち。彼らはまだ気づいていなかった。この状況を仕組んでいる者がいることに。


 その真意を誰も掴めぬまま、歯車が音を立てて回っていく。


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