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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第24話 反撃開始
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24-4

 ユウキにやられたベイツは足元から存在が消え始めていた。元の世界で死刑執行の際にこちらの世界に連れてこられており、元の世界に戻ることになってもどうなるかはもうわからない。


 いっそ殺してくれればよかったが、なぜかあの大鎌はベイツの命を奪うことなく、絶妙に動けなくなる程度のダメージしか与えなかった。おかげでベイツは考えたくもない自分の今までの人生について考える時間ができていた。


× × ×


 ユウキは一息ついて身体を起こすと、コニールの身体を抱きかかえる。コニールの左手と左足が骨折しているのがユウキから見てもわかり、なるべく怪我をしている箇所を刺激しないようにそっと運ぶ。


「……無事で本当によかった」


 ユウキのその言葉は、心の底からコニールが無事なことに安堵している声だった。コニールはユウキがアオイ以外にその態度を示す相手がいることに少し驚きつつも、抱えていた疑問を口にする。


「……どうやって君はこの学校内に入ってきたんだい?光の壁があらゆるものを弾いて入れないのは私も身をもって体験済みなんだが」


「ああ、それはですね」


 ユウキは空を指さした。


「学校を光の壁が覆ったときに、インジャの部下の何人かが、学校の敷地内から何か光の玉みたいのが空に飛び出していくのを見ていたんですよ。それをスレドニから聞きましてね。ああ、上からなら侵入できんじゃねーかと」


 コニールはユウキの説明を聞いて少し納得する。自分たちはそれを見れる状況ではなかったが、恐らくそれは回収された22の秘宝だろう。コニールはアオイたちが秘宝の奪取に失敗したことを知っている訳ではないが、別れてから結構な時間が経つのに光の壁が消えていない時点で、アオイたちに不測の事態が起きたことはわかっていた。


「なるほど……それで、その空を飛ぶ手段はどうしたんだい?」


「バノン家の当主であるテツロウさんに頼んで、研究中である魔法を使った飛行船を用意してもらったんです。なんでも西大陸ではすでに航空会社ができているくらいに普及しているとかで。それでインジャとスレドニも連れて学校に来たわけです」


 インジャが来ているということにコニールは目を見開いてユウキに尋ねた。


「インジャも……?なぜ……?」


「なんでも知り合いがいるとかで……。確かにインジャと同じ拳法を使うやつが、怪盗団の一味にいまして、多分その経由かな……って」


「ああ……なんというか、もう複雑すぎて骨折よりも頭が痛くなってきそうだ」


 コニールは折れてない右手で頭を押さえた。ユウキは微笑みながらもコニールに尋ねた。


「今度はこっちの番です。いったい中で何が起こっているんですか?」


× × ×


「なるほど……」


 ユウキはコニールの怪我の手当をしながら話を聞いていた。コニールが頭を抱えるのも当然だとわかった。


「……でもそれだと、俺があの第五世代ってやつを倒してよかったんです?結構ノリでやっちゃったけど……」


 ユウキは消えかかっているベイツを指さして言った。コニールは俯きながらもうなずいて答える。


「ああ。こいつに話が通用しないことは君もわかっていただろう?……これでいい」


「クッ……クックックック……」


 突然の笑い声が聞こえ、ユウキとコニールはその声の主――ベイツを見る。ベイツは消えかかりながらも、その表情はむしろ勝ち誇った顔を浮かべていた。


「ようやく……合点がいったよ」


「あ? 何言ってんだ?」


 ユウキはベイツに敵意を隠さずに尋ねる。


「お前は……自分が何者なのかわかっていない。俺は……わかったぞ……!」


 ベイツは自分が今まで抱いてきた“違和感”の正体をようやく突き止めることができた。この永遠に晴れることのない違和感を慰めるために今まで殺人を繰り返してきた。――その意味がやっとわかったのだ。


「俺は……この世界に……!」


「……すまない。ちょっと肩を借りるよ」


 コニールはユウキの肩を借りて立ち上がる。骨折した左足と左手をかばいながらではあるが、ベイツの下へゆっくり歩いていく。そして歩きながら剣を抜いた。


「……“おまじない”だ」


 コニールはベイツの心臓に剣を突き立てた。まだ話している最中だったベイツは目を見開いて驚愕するが、そのまま動かなくなり、それと同時に光に包まれて消えていく。


「な……なにやってるんですかコニールさん!?」


「……私にはわかる。こいつは間違いなく元の世界で……この世界でも人を何人も殺している。それも戦いではなく、一方的な虐殺で」


「そ……そうかもしれませんが、でもどうして……!」


 コニールは剣についた血をぬぐいながらユウキの質問に答えた。


「そんな奴が消えゆく間際に何かを残すとするなら、恐らく私たちに楔を打つような何かだろう。……こういうやつは口を開かせないのが一番だ」


 コニールの理由を聞いても、ユウキは目をそらし続けていた。コニールもユウキが拒絶反応を示すことがわかっていたためか落胆はせず、すこしため息をついてから話を続ける。


「……私はこれまで6人殺してきた。今後の人生に重大な影響が残るような後遺症を与えた人間も10人以上いる。ただそれは全部軍務によるものだ。……私は騎士だったからな」


 ユウキはただじっと俯いていた。何も言葉を発することができなかった。そんなユウキを見て、コニールは微笑みながらユウキの頭を胸に抱く。


「君はそれでいい。思うに君が他の異邦人と大きく違う点はそこだ。他人を傷つけることを酷く恐れ、ストレスを感じる当たり前の“人間”なんだ」


 コニールが“人間”と言ったと同時にユウキは顔を上げる。コニールはようやく伝えたいことが伝わったことを理解し、ニッコリと笑った。


「あいつが言おうとしたこと、気にしなくていい。君の正体が何であろうと、君は君だ。アオイ君を守ろうとするユウキ君。それが君なんだからさ」


 コニールはもう一度ユウキを強く抱きしめた。年齢が7つ下の、つい2か月前までは単なる学生であった子供。だが自分が戦闘不能になった今、もう彼が一番の頼みの綱なのだ。彼にそのような責務を負わせてしまった自分に、コニールはひどく腹が立っていた。


「……必ず生き残ろう」


「……はい」


 ユウキはコニールの甘い匂いを鼻いっぱいに嗅いで、完全に緊張しながら答えた。ここで少しの勇気があればコニールの背に腕を回せたかもしれないが、ユウキはそれもできずに両腕を硬直させてしまっていた。


「あー! ユウキ!? あんた何やってんの!?」


 遠くから聞き覚えのある少女の声が聞こえ、ユウキは慌ててコニールの胸から顔を離した。そしてコニールの胸に顔を当てていた時よりも赤面して、その少女に対して応える。


「ち……違うってアオイ! 誤解だ!」


 慌てて手を振って否定するユウキに、アオイは呆れながら言った。


「誤解って何が誤解よ……。別に何も言うつもりはないけど……」


 アオイはシーラとエンドウを後ろに連れていた。そして必死に何か弁明しようとするユウキを無視して、コニールに報告する。


「すみません……コニールさんが考えた22の秘宝を外に出す作戦ですが……失敗しました。もう学校内にそもそも秘宝が残っているか……」


「ああ。ユウキ君から聞いている。どうやらもうこの学校に秘宝はあと“2つ”しかないようだ」


「2つ?」


 アオイはコニールに尋ねるが、コニールは骨折した左手足をアオイに見せながら言う。


「ベイツって異邦人はユウキ君が倒した」


「何……!?」


 アオイの後ろにいたエンドウはコニールの発言に耳を疑ったが、状況を照らし合わせてそれが真実だと思わざる得なかった。そもそもアオイたちがここに来た理由が、何か光が地面から空に向かっていくのが見えたからだ。そしてそこにベイツがおらず、コニールの仲間と思わしき見たことない少年が一人いるこの状況を考えると、ベイツが倒されたと想像ができた。コニールは肩を落としながらアオイとの話を続ける。


「そして奴が持っていた秘宝も空に飛んで行ってしまった。……そもそも22の秘宝を外に出しても状況は解決しないんだろ?」


「……ええ。ですがシーラが作戦があると」


「シーラが?」


 コニールはシーラを目を向けると、シーラはピースサインをコニールに向けた。


「ええ。このエンドウからも聞いたんだけどさ、こいつらは世界樹の接ぎ木を回収したら空から撤退する予定だったと。だったら話は早くて、世界樹の接ぎ木を手に入れて、エンドウに持たせたら。それでこの状況は終わるんじゃないの」


 コニールはシーラの説明を聞いて少し考えた。確かにユウキがここに来た方法や、事前に聞いていたエンドウの話を合わせると、その方法はかなり的を得ていた。――しかし、その方法の問題点もすぐに思いついた。


「……確かに。だけどどうするんだ?その世界樹の接ぎ木を手に入れる方法は」


 世界樹の接ぎ木は今は学校の生徒であるトリーが持ってしまっている。しかも彼女はその力を活用し、子供たちに魔力を分け与え、生徒寮への避難への歩みを進めていた。


「ベイツは倒したけど、もう研究棟から避難していった人たちは生徒寮に着いたころだろう? ……あのトリーって子が素直に接ぎ木を渡すかどうかも考えづらいし」


「ああ、それなら方法は今思いついた」


 シーラはユウキに目を向けた。


「まさか兄さんとここで合流できるなんて思わなかったけど、兄さんがいるならすごい話は単純になった」


「……なんで俺が?」


 ユウキは自分を指さしてシーラに名指しされた理由がわからずに首をかしげるが、コニールはすぐにシーラの意図に気づいた。


「シーラ……! 君は……!」


 コニールはシーラの肩を掴むが、怪我の影響もあってそこまで力を入れることができない。シーラはコニールの手を払うと、唇をゆがめながら答えた。


「別に殺そうとかしようとしてるわけじゃない。でもこれが一番手っ取り速いし、話がこじれないで済む方法……!」


「それは……そうだけど!」


「な……何を言っているんです!?」


 不安になったユウキはコニールに問いただす。コニールは顔をしかめ、汗を浮かべながらもゆっくりとユウキの質問に答えた。


「……世界樹の接ぎ木は今は子供たちが占拠している。これを取り返すにはどうしたらいいか?答えは簡単だ。…………子供たちごと、薙ぎ払うのさ。君の力……ステータスで」


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