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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第21話 信じられるもの
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21-3

 異邦人には第一世代から第四世代まで4つの世代が存在し、そのそれぞれで特徴も異なる。第一世代は何も能力を与えられず、ただこの世界で埋没していっただけの存在。その反省からステータスと呼ばれる“力”を与えられたのが第二世代。ステータスだけでは足りなかったため“ギフト能力”を与えられた第三世代。そして第三世代をブラッシュアップし“アプリ”で能力を管理するようになったのが第四世代。


 ケンイチ自身は第四世代の異邦人であり、そしてこの第四世代が最新のはずだった。しかし目の前の男二人は自分たちを“第五世代”の異邦人と称していた。そしてある一言も。


「俺が……用済み……?」


 ケンイチは自分を用済みを言ったスーツの男に尋ねる。しかしスーツの男ではなく、横にいるジーパンの男がケンイチに煽るように答えた。


「ああそうだよ。おめえはもう邪魔だってことだ。22の秘宝は俺たち第五世代の異邦人のためにあるんだからよ」


「エンドウ!」


 スーツの男はジーパンの男をしかりつけるように言う。エンドウと呼ばれた男はヘラヘラと笑いながら答えた。


「はいはいベイツ。余計なことは言うな、だろ」


 ――ベイツとエンドウ。ケンイチはスーツの男とジーパンの男の名前をそう記憶した。思ったのは軽薄そうなジーパンの男が恐らく日本の名前そのままで、真面目そうなスーツの男が偽名を使っている事だった。


 ケンイチもこちらの世界に来た際に名前をどうするか尋ねられたが、ミクが名前を変えること嫌がって、結局ケンイチも元の名前を使用させられていた。異邦人はこちらの世界で名前を変えるケースが多く、むしろ変えないケンイチ達のがレアケースであった。


「……この外の光もあんたたちが起こしたのか?」


 ケンイチはベイツ達に尋ねる。ケンイチの質問にベイツは余裕の表情を崩さずに答えた。


「厳密に言えば我々ではないがな。22の秘宝がこの学校に集まれば、このような現象が起きることはイウーリア様に聞いていた。お前は聞いてなかったらしいが」


 ベイツの回答にケンイチは胸に不快感を感じた。こちらの質問への回答の態度から、ベイツは嘘を言っていないだろう。そしてそれが嘘ではないということは、本当に自分は用済みであるという証拠だった。


「俺を倒したら……!」


「“俺を倒したら学校に隠してある秘宝の在処がわからなくなる”か?」


 ケンイチは言おうとしたことをエンドウに先回りされ冷や汗が背中を伝う。


「残念ながらそれは通用しねえよ。俺たちがどうやってあの酒場にあった秘宝を見つけたと思うよ」


 ケンイチはベイツがアツシの酒場に隠してあったはずの月の欠片を持っていたこと思い出す。てっきり異邦人狩りに自分たちの情報を売った時と同じことだと思ったが、実際には違ったのか? ケンイチは思いを張り巡らせるが、エンドウがその様子を見て、ニタニタと笑いながら言う。


「これが第四世代と第五世代の差ってやつだよ。……まぁもうお前とは交渉も何もないわけだ。……さっさと消えな」


 エンドウは懐から笏を取り出す。それを見てケンイチはまた呻いた。


「それは……22の秘宝のひとつ……!」


「“皇帝の王笏”だ」


 エンドウがその笏を振りかざすと、周囲から魔物が現れる。鳥獣型にオーク、ゴブリン型など多数の魔物が出現し、全員がケンイチに向いていた。


「行け」


 エンドウがそう指示をすると、魔物たちは一斉にケンイチに襲い掛かる。ケンイチは少しでも囲まれないように魔物が出現していない研究棟方面に退避し、襲い掛かってくる魔物たちに立ち向かった。


「くそおおおおお!!!」


 ケンイチはまず一番最初に襲い掛かってきた鳥獣型の魔物をパンチ一撃で沈める。そして次に来たゴブリン型は蹴りを入れ吹っ飛ばすが、数十体いるうちの2体を倒しただけでは焼け石に水だった。


 ――なんでこうなった? ケンイチは涙を流しながら魔物を相手にするが、次第に追い詰められていく。この世界に連れてこられて、自分はただ連れてこられたなりに生きてきただけだ。こうされる謂れはない。ミクもあんな形でやられていいはずなかった。


 異邦人狩りが悪いのか? 第五世代の異邦人というのが悪いのか? それとも自分たちを連れてきた女神様が悪いのか? もうケンイチの頭はマトモに考えられる限界を超えていた。


 そしてケンイチが押されはじめ、魔物たちの攻撃が連続してケンイチに当たっていく。膝をつき、ケンイチがもう諦めたその時――頭上に閃光が走り、ケンイチを囲っていた魔物たちは全員倒れていった。


「……なにが……?」


 ケンイチはボロボロになって倒れこもうとするが、暖かい何かがケンイチを抱きとめる。


「……ミク?」


 ケンイチはこの世でただ一人、何があっても信頼できる人の名前を呼んだ。しかし返ってきた声は想定外のもので――そしてその声を聞いて涙があふれてきた。


「ごめんね。少し遅れちゃって」


「……アオイ……!」


 アオイはケンイチの頭を抱きながら、安心させるように声をかけた。


「あのス……じゃなくて、なんかキッチリした服を着てる方、重力か何かを操ってるのかな。あの宝石を向けられたとき……研究棟に引っ張られたというより、研究棟に“落ちていく”感覚だった。そしてもう一人のほうはあの棒で周りの魔物を操っている。……似たようなのう……魔法を使ってる奴は見たことあるけど、操れる魔物の数が違うのか……」


 アオイは冷静にベイツとエンドウの能力を分析していた。むしろその様子に驚いていたのはベイツたちだった。本来ケンイチを倒して終わりだったはずなのに、予想外の手練れが横にいるのだから。


「何者だ……? お前は……」


 ベイツは尋ねるが、アオイは自嘲気味に返答をした。


「何者……ね。こういう時、私“達”は決まってこう返すのよね。……”そんなのこっちが知りたい”ってね!!!」


 アオイは両手に魔力を貯め、そして全方位に向けてそれを放った。


「ドルナルム!!!」


 アオイは雷魔法の“上級魔法”を両手で放ち、周囲に電撃が放たれる。アオイたちを囲っていた魔物たちは電撃にやられ、オークなどの大型の魔物も含め全員が倒れて消えていった。


「バカな……!?」


 ベイツはアオイが放った魔法を見て驚愕していた。それはエンドウも――ケンイチも同様だった。中級魔法ですら学校の生徒で唱えられるものは一種の天才でしか為しえないのに、上級魔法を使えるのはもはや才能なんてものではなかった。それは異邦人であるケンイチたちでもわかるくらいであった。


「ははは……ぶっつけ本番だけど上手くいった……!」


 それをわかっていないのはアオイだけだった。――そしてその負担がどれだけなのかもアオイはわかっていなかった。


「……るえ?」


 アオイは鼻に生暖かいものを感じると、急に目の前が霞んでいき、そして平衡感覚を保っていられずに倒れる。過去に同様の現象はアオイは経験していた。


「まさか……魔力切れ……!?」


 アオイは立ち上がろうとするが、腕にも足にも力が入らずに身動きが取れなくなってしまう。その様子を見てベイツたちはホッとするように息を落ち着かせた。


「なんだ……! 驚かせやがって……!」


 エンドウは胸を撫でおろしながら言った。今のアオイの魔法で自分の能力圏内に魔物が姿を消してしまい、能力の使用ができなくなっていたからだ。当然ステータスでも戦うことができるが、上級魔法を使えるほどの手練れが相手では、エンドウも不安に感じていた面もあった。


「どんなものかと思ったら、単に力の加減ができない素人とはな」


 ベイツもエンドウと同様の思いであった。アオイは好き放題言ってくる相手二人に、冷静に計算をしたうえで魔物を全滅させるために上級魔法をぶっつけ本番で使ったと言ってやりたかったが、もはや声を上げることも難しいくらいに体力も急に減ってきていた。


「今度は、ただ遠くに落とすだけというわけにはいかないな。……排除させてもらう」


 ベイツは月の欠片をアオイたちに向ける。先ほどはアオイを殺すつもりもなかったので、ベイツは手加減をした能力の使い方をしていた。しかし殺す気があれば――。アオイは魔力切れで揺れる頭で、その能力を本気で使ったらどうなるか考えた。そして似たようなことを過去に自分がインジャに使ったことを思い出す。


「上に……“落とす”気か……!」


 アオイは呻くように言うが、それと同時にベイツの月の欠片がきらめく。


「終わりだ……!」


 ――しかしアオイたちは“落ちる”ことはなかった。ベイツが能力を使おうとした時と全く同じタイミングで、エンドウがベイツの背後から飛んできた石をつかんでいたからだ。


「ちっ……! 何者だ!」


 エンドウは忌々し気に石を捨て、背後から現れた乱入者に声を上げる。背後――生徒寮から来た二つの影はエンドウたちに名乗りを上げた。


「何者って……この学校の教師だ。体育教師ハージュ・カティラだ」


「同じく教師のセシリー・ロマンディよ。……勝手に敷地内に入っているそっちの方が何者かしらね」


 アオイたちと追いかけてきていたハージュとセシリーの二人が、二人の異邦人に対し立ち向かっていた。

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