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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第18話 急転直下
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18-2

 ロンゾとイグレイス、そして小型の魔物であるコッポの2人と1匹は、元々別の冒険者のギルドに所属しており、傭兵として活動していた。このエルミナ・ルナでは魔物の存在は人々の生活を脅かすものとなっており、魔物退治は日常の生活で必須ではあるが、国の兵士だけでは手が足りない。なので冒険者という対魔物専門家の傭兵という職業が成り立っていた。


 しかしロンゾ達はそのギルドから追い出された過去を持つ。理由は単純に“実力が足りない”から。事実、魔物相手の戦果は非常に低く、自分たちを追い出した者たちにも何も言い返すことができなかった。


 だが5か月前にケンイチと出会い、彼らの運命は変わる。ケンイチの“鑑定”能力により、彼らの隠された素質を見出すことができたからだ。


 だからこそ、ロンゾ達はケンイチ達を心から信頼している。それは自分の身を投げうってでも、彼らを救えればと思うほどに――。


× × ×


 ユウキは大鎌を両手で持ち、大きな動作で振りかぶる。予備動作もバレバレの避けるか防御すればそれで終わりの攻撃。だが相対するロンゾ達に凄まじいプレッシャーを与えていた。


「なに……何をする気……!?」


 ミクが全てを言い終わる前に、ユウキはその大鎌を真横に振りぬいた。それは技とも呼べない、ただ鎌を薙ぎ払うように振っただけのもの。しかしケンイチ達には――。


「避けろおおおお!!!」


 ロンゾは叫ぶが、その音が届くよりも早くユウキの鎌の切っ先はケンイチ達を捕らえていた。ただ閃光が走ったかのようにケンイチ達の目には捉えることができず、何が起こったのかわかったのは、ユウキが鎌を振りぬいてから数瞬後だった。


「ロンゾ!」


 ケンイチはロンゾに向かって叫ぶ。ロンゾは鎌で薙ぎ払われた際に横に飛ばされたのか、壁に叩きつけられていた。壁にぶつかった際に頭をぶつけたのか、額から血を流してぐったりしていた。


「やばっ……!」


 その様子にユウキも想定外であったのか動揺していた。


「不殺魔法をかけていても威力がありすぎるのか……!? 剣とは違う使い方をしないと……!」


 グッタリしているロンゾを見て、ユウキはやりすぎたという念から鎌を降ろして不用意に近づいてしまう。上からその様子を見ていたシーラはユウキに叫んで伝えた。


「兄さん! ちょっと油断しす……!」


 しかし伝えきる前に事態は動き出してしまう。ユウキは突然何かに腕を掴まれ、しばらく自分がなぜ腕を掴まれているか理解ができなかった。そして数秒経って、ようやく自分が何に腕を掴まれているか理解する。


「……え?」


 頭から血を流しながらロンゾが立ち上がり、ユウキの腕を掴んでいた。見た目は明らかに重傷であるのに、足がふらつくこともなく、しっかりと両足で立っていた。


「ミク! 今だ!」


 何故? 目の前の男の体調は大丈夫なのか? これ以上やったら殺してしまうのではないか? そういった雑念が頭に浮かんでいる間に、ミクは攻撃の準備を済ませていた。


「ロンゾ! ……しっかり耐えてよね!」


 ミクは先ほど廊下乗っていたバイクとはまた違う、細身のバイクに乗っており、エンジンを吹かして狙いを定めた。


「異邦人狩りがあああ!!!」


 ミクはユウキに対してエンジン全開で突撃していく。ユウキはその場から離れようとするが、ロンゾがユウキの腕を固く握っており、瞬間の反応が遅れてしまう。


「こんなろ……っ!」


 ロンゾは無骨な顔に笑みを浮かべた。これからのミクの攻撃に自分も巻き込まれるかもしれないが、それで二人が無事で済むなら満足だった。――しかしその笑みはすぐに驚愕の硬直に変わった。


「なに……!?」


「そんな……!?」


 驚いたのはミクも同じだった。ミクは慌ててエンジンを吹かすが、タイヤは虚しく空回りして進むも戻るもできなくなってしまう。――ユウキが片手でミクのバイクの前輪部分を掴み、持ち上げていたからだ。


「“バイクを召喚する能力”。第四世代ってことは、アプリを経由してバイクをこっちの世界に呼び出してるのか……? ちくしょう卑怯だぞ、めちゃくちゃカッコいい能力じゃねえか……!」


「嘘……!? なんて力して……!」


「だけど……なあっ!」


 ユウキはバイク毎ミクを近くの壁に投げつけ、壁とバイクに挟まれる形になったミクは血を吐きながらグッタリと倒れてしまう。


「ミク!」


 ケンイチはミクに駆け寄ろうとするが、ユウキから目を離してしまったことに気づき、ゾッとしてユウキを見る。するとロンゾがユウキに力負けをして、地面に伏せられていた。


「がっ……ぐっ……!」


 ロンゾはユウキの力に抗おうとするが、それすらできずに口から泡を吹き始める。


「お前はインジャと同じ技を使うみたいだけど、インジャに比べてそんな強いわけじゃないみたいだな……! あとさっき頭から血を流してたのに、すぐ治っていたのは、回復魔法を使ったのか? ……格闘家っぽい見た目して、実は魔法使いってオチか?」


 ユウキの推理は正しかった。格闘家として芽が出ず腐っていたロンゾの才能を見出したのがケンイチだった。ロンゾが冒険者ギルドを追放された際、ケンイチが自身の鑑定のギフト能力を使い、ロンゾに眠っていた魔法の才能を引き出したのだった。


「がっ……くそ……!」


 ロンゾは呼吸もできず目の前が真っ赤に染まっていくが、その視界の端に自分を助けようとするケンイチの姿を見た。その姿を見て、ロンゾは最後の力を振り絞り、ユウキの腕をわずかにどけ、ひと呼吸分だけの時間を確保する。


「く……るな……! ミクを……つれ……逃げろ!!!」


 ロンゾの必死な表情を見て、ケンイチの足が止まる。そして少し迷った末、血を吐いてグッタリしているミクの方を見て言った。


「……ごめん!」


 ケンイチはミクに駆け寄ると、身体の上に乗っていたバイクをどけ、ミクの身体を背負う。そして屋内に戻るために、近くの縁から降りると、窓から屋内に侵入した。


「そうだ……それで……」


 そして同時にロンゾは力尽き、ユウキはロンゾの首を腕で締め上げる。ユウキはインジャとの訓練の中で、人を殺さないギリギリの力加減で制圧する術を学んでいた。ロンゾの顔が真っ青になり、動かなくなったことを確認すると、シーラに指示を仰ごうと上を見る。しかしシーラはすでに姿を消していた。同時にケンイチ達もすでに姿は見えなくなっていた。


「はぁ……。しかし今回もまた、色々面倒なことになりそうだな……」


 ユウキは目下にいる男を見ながら言った。この男はインジャと同じ技を使い、インジャのことを知っていた。そしてあのインジャの事だからどうせロクな因縁はないだろうと。


「それに下にいるあのチャラ男もそうだ。……どうしてこう、すんなり解決とはいかないんだか……いっつもグチャグチャになってる気がする」


× × ×


 ユウキたちの時間を稼ぐために陽動作戦に徹していたイグレイスとコッポは、30人ほどの見張りを倒したところで一息ついていた。屋敷のホールには多数の見張りが地に伏せており、その殆どに大きな爪痕がついていた。


「ふぅ……ようやく見張りが逃げ出していったか……。ケンイチ達はそろそろ盗み終わっただろうか……」


 イグレイスは水筒を取り出すと一口飲んだ。そしてコッポにも水筒を渡してやり、コッポは自分の背丈ほどの水筒から、器用に水を飲む。


「もう周りの見張りは片づけたし、俺たちも上に行こうぜ。……あの年増女も待たせてんだろ?」


「ああ……」


 イグレイスは気の抜けた返事をした。今回の盗みの計画にあたり、イグレイスが貢献した比重は大きい。その一つがこの屋敷の主人である、テツロウ・バノンの愛妻ルイーズ・バノンの篭絡があった。


 イグレイスは非常に整った顔立ちに、その女性を引き付けるしぐさから女に困ったことだけはずっと無かった。冒険者ギルドにいたときから腕の立つ女性に分け前をもらって生活しており、女性を手玉に取る能力は筋金入りだった。


 しかしやりすぎてしまい、自分の乱れ切った女性関係がギルド中にバレたことと、腕のある女性冒険者が一斉にギルドをやめたこと、そしてイグレイス自身に実力が全く無かったことで追放されてしまう。


 だがイグレイスは元々ジゴロとして生きてきたかったわけではない。できるなら自分の力で冒険者として名を上げたかったのだ。そして路頭に迷ったときにケンイチと出会い、イグレイスが持っていた“ある力”を引き出してもらったのだった。


 だからこそ、今回の計画でまた女の力を使うことになってしまったことに、イグレイスは若干の罪悪感と嫌悪感を感じていた。提案したのは自分だったが、どうしてもそう思うことは止められなかった。


「まずはあのバアさんを連れて最上階の金庫へ向かおう。ケンイチ達がバアさんに指輪をもらってるだろうが、まだあの女の使い道はあるだろうからな」


× × ×


 ケンイチはミクを背負って息を切らしながら屋敷の中を駆け、最上階にある金庫のある部屋にたどり着いていた。そしてそこにはバノン家当主であるテツロウがおり、横にはシーラと警備隊長がそれぞれ立っており、全員がケンイチの登場にも関わらず落ち着いた表情を浮かべていた。


「……どうやらシーラ嬢の言う通り、異邦人狩りがやってくれたようだな」


 テツロウがその弛んだ身体を震わせながら笑った。先ほどまで怪盗団ディメンションが来るということで挙動不審になっていたにも関わらず、その怪盗が満身創痍の姿でここに来たことにいたく満足しているようだった。


「ええ……驚きです。……これが異邦人ですか……」


 警備隊長もあの誰も止めることができなかった怪盗団がここまでボロボロになっている姿を見て、シーラ達の実力を受け入れざる得ないと感じているようだった。その二人の感嘆としている様子を見て、シーラは得意げに答えた。


「そりゃあ、こっちはああいう奴らの専門ですから。今まで何人も倒してきてるから、あの人だって異邦人狩りとよばれてる。……そして」


 後ろから足音が聞こえ、ケンイチは恐怖で身体を震わせながら後ろを見る。月明かりに照らされながら、黒い装束を着た“何か”がこちらに迫ってきていたからだ。


「死……神……!」


「さて……そろそろゲームオーバーだ。……おふたりさん」

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