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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第16話 ストローズ魔法学校
63/120

16-3

 ケンイチは目にもとまらぬ速さで不良たちの懐へ潜り込むと、顔を掴んでそのまま地面に叩きつける。反応する間もなく一瞬で仲間がやられた不良たちは身を竦めるものの、仮にも魔法使いの卵である彼らも魔法という武器を持っている。すぐにケンイチに反撃しようと構えるが、ケンイチはそれに反応して、両手で二人分の腕を掴んだ。


「はああああ!!!」


 ケンイチは掴んだ二つの腕を思いっきり振り回し、二人の不良は力負けして、校舎の壁に叩きつけられる。それでもまだ5人の不良は残っており、ケンイチの隙を狙おうとするが、途端に不良の腕が凍り付きはじめ、腕が凍った不良は恐怖から叫び出した。


「う……うわああああああ!?」


「ったく……。見習いとはいえ魔法を学んでいるなら、少しは警戒したらどう」


 ミクがケンイチを狙う不良に対し、氷結魔法を放っていた。


「おーこわ……。後で治せるとはいえ、容赦ないなぁ……」


 ケンイチはミクの魔法に若干ヒキながら言った。ケンイチとミクがこの世界に来て半年になるが、ケンイチはあそこまで上手く魔法を使うことはできない。魔法学校における授業態度の差もあるが、それ以上にミクには魔法の才能があった。


「な……なんなんだよこいつらぁ!?」


 8人いた仲間があっという間に3人になり、不良たちは泣きを入れながら逃げ出していく。そして彼らが逃げ出して静かになった後、ケンイチはアオイに向き直った。


「怪我はなかったです?」


「え……ええ。ないわ。助けてくれてありがとう」


 アオイは頭を下げて礼をした。そして頭を上げるとケンイチ達に尋ねる。


「ごめん……二人の名前がまだよくわからないのよね。ケンイチ君はさっき名前を聞いたけど、そちらの女の子は……」


「……私はミク。こいつの幼馴染」


 ミクはつっけんどんな態度でアオイに自己紹介をした。そんなミクの態度を知ってか知らずか、ケンイチはアオイに笑顔で話を続ける。


「今日の授業が終わって、校舎裏で友人たちと集まろうって話だったんだけど、そしたらたまたまアオイさんが囲まれてるのを見かけてさ。間一髪で間に合ってよかったよ」


「そうね。本当にありがとう」


「……そういやアオイさん、これから予定とかあります?」


「ええと……。寮の部屋の片づけとかあるけど、少しくらいなら」


 その返事を聞いてケンイチの顔が明るくなった。


「じゃあ晩飯一緒に食いに行きません!? ちょうどここに集まる友人たちと、町に飯を食いに行くつもりだったんですよ!」


 ケンイチの問いかけにアオイは少し考える。ミクがさっきから険しい顔でこちらを見ているのも気になっていた。そして考えた末に苦笑して答える。


「……ごめん。今日は部屋の片づけを集中してやるために弁当を貰ってるから。ただ、明日のお昼ご飯とかなら一緒に食べたいな。まだこの学校で知り合いもいないから」


「ええ全然構わないですよ!じゃあ明日お昼ご飯は学校の食堂で一緒に食べましょう!お前もいいだろ?ミク」


 ケンイチからの言葉にミクは不満げに答える。


「……いいわよ」


「オッケー! じゃあアオイさん!また明日会いましょうね!」


「う……うん」


 ケンイチの明るさにアオイは気圧されながら答えた。内心これが陽キャ・リア充というやつかと、結城葵の考えが頭を巡るが、アオイとしてケンイチに別れの挨拶をする。


「じゃあ、また明日」


 × × ×


 校舎裏を離れた不良たちは学校から出て、少し離れた廃屋に集まっていた。廃屋には中年の男の医者が待機しており、怪我を負った不良たちが治療を受けていた。


「いってえ……あいつらがこんなに強いなんて……」


 不良の一人がたんこぶができた頭をさすりながら言う。


「8人もいて、ここまでやられるのはお前ら弱すぎなんじゃないのか」


 医者は窘めるように不良たちに言う。廃屋で不良たちが回復魔法を使う医者の治療を受けている様子は、明らかに場違いであった。


「んなこと言ってもよお! あいつらヤケに強すぎなんだって! 兵士でもないのに、やけに動きが速かったし!」


「……それが異邦人だからね。勝てない前提で頼んだとはいえ、ちょっと悪いことしたわね」


「シーラさん……!」


 廃屋の奥からシーラが姿を現す。不良たちはシーラを見るとかしこまるが、シーラは両手を出して楽にするように指し示した。


「怪我してるんだから楽な姿勢でいいわよ。私が先生に怒られちゃうし。……でも悪かったわね。勝てないとわかってる相手に喧嘩売らせちゃって」


 シーラは持っていたバッグから封筒を取り出すと、それを不良たちに渡していく。


「これ、今回の依頼料。流石に悪いから少し色はつけておいた」


「へへ……ありがとうございます」


 不良たちはシーラから報酬を貰うと、怪我の痛みを忘れたかのように笑みを浮かべた。実際それだけの金が封筒の中に入っており、それを見た医者がシーラに尋ねる。


「久しぶりに会ったと思ったら、また何かろくでもないことを企んでるのか……」


「ろくでもないとは何よ。あんただってろくでもない女から、ろくでもない金をもらって、ろくでもない奴らを治療してるヤブじゃないの」


「フッ……そういう態度も相変わらずだな。学校を追い出されてからの数か月で、少しはしおらしくなったと思ったのによ」


「中年のおっさんの若者語りに飽きたら、さっさとこの子たち治してくんない? 私も暇じゃないのよ」


 医者からの小言に鬱陶しく対応するシーラに不良たちはツッコミをいれた。


「この子って……一応大半があんたより年上なんだけど……」


「まあいいわ。それで、あの二人は何か変な魔法とか使った?」


 シーラからの問いに不良達は首を横に振った。


「いや……ただ普通に殴られて、ただ普通に魔法でやられただけっす。単純に力負けしてました……」


「なるほど……あいつらも校舎内でギフト能力を使うほど頭悪くはないか……」


「あと実は校舎裏にもう一人いまして」


「うん?」


 不良からの突然の言葉にシーラは聞き返す。


「校舎裏にいる転校生"2人"を狙えって事だったんですが、先に1人転校生がいて、そっちを間違えて狙っちまったんですよ。……しかもこの女も強くて」


 ある意味先の報告より重要そうな報告にシーラはクラリと目眩を覚え、頭を抱えながら言った。


「ちょっと……その話を詳しくお願い……」


 × × ×


 翌日、朝の1時間目のアオイの授業は攻撃魔法の実践学だった。東大陸では、免許がなければ攻撃魔法を使うことを禁止されている。魔法を使うための試験を受けて、それに合格することでようやく使用することができるのだった。そしてこの試験は飛び級などをしていなければ5学年で修了する流れになっている。


 そのこともあって、6学年からこの実践学を学ぶ生徒が大半であり、この授業でも殆どの生徒がまだ上手く魔法を使うことができずにいた。


 アオイ達は校庭に集まっており、各自安全を確保したうえで、的に向かって魔法を放つ練習を行っていた。授業を受けている生徒は60人ほどいたが、実際に魔法を放つことができているのは20人に満たず、残りの40人はできている生徒から教わっていた。そのできていない生徒の中にはケンイチもいた。


 そんな中、ある生徒の魔法が注目を集めていた。


「おい!あれ見ろよ!あの転校生の魔法!」


 生徒の一人が指を指した先にはアオイがおり、水魔法の実践を行っていた。


「……ウェイル!」


 アオイの水魔法は周囲に被害を及ぼさないよう、かなり範囲を収束して放たれており、かつ的だけを的確に破壊するという絶妙なコントロールを示していた。


「驚いた……!」


 実践学の男教師はアオイの魔法の鋭さに驚愕していた。事前に聞いていた話では基礎は学んではいたものの我流であり、ちゃんとした教育を受けるのはこの学校が初めてだと聞いていたからだ。だがアオイが実際に見せた魔法は、もはや教えを受ける生徒の域を逸脱していた。


「たしかロマンディ家の養子らしいが……! ここまでのものを持っているなら、あの一族が君を養子にもらうのも納得できるな……!」


「……ありがとうございます」


 アオイは呆然とする教師に礼をした。シーラから魔法の使い方を学んでから、アオイは1日も休まずその訓練を行っていた。おかげでロマンディの魔法における基本属性である地・水・火・風の4種類のエレメンタルを使役した魔法を覚え、初級程度のこれらのエレメンタルを組み合わせた魔法も使うことができるようになっていた。シーラ曰く、これだけでもずば抜けた才能の持ち主であるとの事であったが。


「すっげえーーー!!」


 アオイの魔法を見て、周囲から生徒たちが集まってくる。昨日転校したばかりの、可愛い女の子の転校生が、これだけの力をを示せば目立つのは当然であった。


「どうやってその魔法覚えたの!?」


「どうやるんだよそれ! ちょっとコツ教えてくれよ!」


 アオイは多くの生徒に――特に男子生徒に囲まれ、かなり戸惑いながら質問に答えていく。


「これはロマンディの……ディアナさんて人に教えてもらって……。コツとしては精霊に語り掛けるようにって……!」


 “学校でシーラの名前を出すな”というのは事前に厳命されていたアオイは、ディアナの名前を出して答えた。――しかしそれは更なる周囲の興奮を招いてしまった。


「ディアナって……! あのディアナ・ロマンディの事!? 歴史の教科書に載ってるような人だぞ!?」


「しまっ……」


 周囲の興奮している状況を見て、アオイは失敗したと思った。ディアナの名前を出すのもシーラからの指示で、事前にディアナからの許可も貰っていたが、当人たちがそのディアナの名前の重さに割と無頓着であったということを失念していた。


「これは……疲れるなぁ……」


 ここまで派手に目立つことは“予定通り”ではあった。しかし、今までこのような立場になったことの無いアオイは、いざ自分がこの立場に立つと全く向いていないことがわかった。――静かな方が気が楽だ、と。


 × × ×


 校庭でアオイが囲まれている様子を、学校の屋上から二つの影が双眼鏡で眺めていた。どちらもフードを被っており、姿を隠そうという意図がその姿から見えた。


「随分モテモテだなあいつ……。今まであんなに人気者になったことないからさぞ気持ちいいだろうよ」


「いや……あの表情、結構困ってるようだが……。君も元“同一人物”なら、ああなったらどうなるか、想像できないか?」


「……多分、めちゃめちゃ困りそうっすね……」


 風が吹いてフードがめくれ、その顔が露になる――ユウキは双眼鏡を校庭のいたるところに向け、目的の人物を探していた。


「さて……シーラの作戦通りでは……いたな」


 ユウキは目的の人物――この状況で一歩引いた場所で見ている2人を見つけだす。


「あれが“ケンイチ”と“ミク”……。第四世代の異邦人か。わかります? コニールさん」


 横にいたもう一つの影――コニールは頷いて答えた。


「ああ。日本人の骨格と似ている者は東大陸には少ないからな。そしてシーラの予測通り、アオイ君の周りに人が集まる中、離れてみている人物がそれならほぼ間違いないだろう」


「異邦人ならロマンディの名にあまり反応しない、そして目立つアオイに対しまず一歩引いて観察するってね。ばっちり正解で気持ち悪くなりますねホント」


「ああ。だけど彼女のおかげでようやく情報の裏付けが取れた訳だ。……あとは彼らが“動きだす”のを待つだけだ」

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