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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第14話 お礼の輪
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14-3

 ハイラントは山奥にある温泉町であり、町から少し歩けばハイキングに最適な登山スポットがいくつも存在する。中にはかなり険しい山道も存在し、兵士が必要以上に怠けすぎないように訓練に使われているものもあった。


 そしてその中でも殊更険しい山道――というより獣道であり、訓練された兵士でも来ないような山道を、ユウキは山の中を巨大な荷物を背負って歩いていた。ただ荷物はすべて水の入った容器であり、単純に重量を増すためだけのものになっていた。


「くそ……なんでこんなことに……!」


 背負っている荷物は合計100kg近くなっていた。オレゴンまでの旅路ではユウキが荷物持ちをしており、その際は50kgほどの荷物を持っていたが、その時はまだ道らしき道を歩いていたから何とかなっていた。しかし今歩いている道は傾斜が20度近くある急斜面であり、ステータスで身体能力が強化されているユウキでさえ、一歩歩くのが命がけであった。


「こ……この世界に来て、こんなに身体が追い詰められたのは初めてかも……!」


 ユウキは息を切らしながら、後ろに倒れないように両手で地面を掴んで安定を取ろうとする。しかしそのユウキのケツを何者かが蹴っ飛ばし、前に進むように促す。


「おらぁ! サボってんじゃねえよ! 異邦人様はそのステなんたらってやつで、御大層な力を貰ってんだろうが!」


 ユウキのケツを蹴っ飛ばしていたのはインジャだった。インジャもユウキと同様の荷物を背負っていたが、ユウキとは違い軽々しく動けていた。


「がっ……なんでお前そんな動けんだよ……! あんとき戦った時は俺が勝ったのに……!」



 なぜユウキがインジャ共に山奥を歩いているのか。それは今朝二人が出会った時まで遡る。


× × ×


 偶然遭遇したユウキとインジャは、互いに臨戦態勢を取ろうとするが、寝起きで互いに浴衣姿であること、そしてミカの目の前であることもあり、すぐに構えを解いた。


「なんでこうもお前らと縁があるかね……」


 シーラはインジャとその部下を見渡して呆れながら言う。全員浴衣を着ており、見たところ武装している者はおらず、完全にオフの状態になっていた。


「それに今のミカさんの話を聞くと、きちんと金払ってんのかよ……。確か野蛮人で有名じゃなかったっけ? そうでしょ? コニール」


 コニールは頷いて答える。


「ああ、そのはずなんだが……。一体なにをしてるんだこんなところで」


「言わせておけば言いたい放題言いやがって……!」


 インジャの部下の一人、スレドニが怒りながら前に出てくる。しかしスレドニも丁寧に浴衣を着ており、朝風呂にでも入ったのか髪の毛は濡れて萎れており、湯気を纏わせながらではあったので、全く威圧感はなかった。


「……なんというかこういう会話するのって、雰囲気が大事だって今初めて実感した」


 シーラは自分達を含めたこの場の滑稽さに気づいてぼやく。それはインジャも同様の感想を抱いていたようであり、鬱陶しそうにしながらスレドニを諫める。


「あ~……とりあえず今はいいから。……で、俺たちが何をしてるかって? そりゃあここで宿泊してるだけだ。人間様なんだから魔物みたいにそこら辺の岩山で寝てたりなんかしねーよ」


「本当か…?」


 コニールは疑いの目を向けるが、横からミカが反論した。


「ああ、本当だよ。インジャさんがよく山籠もりするって言うんで、その修行をする場所に近いウチの宿を使ってもらってるんだ。特にウチで問題起こしたこともないけど……」


ミカの表情には不安が表れていた。ミカはユウキ達とインジャ達のやりとりを聞いて、不安を隠しきれていない様子だった。インジャはそのことを察すると、舌打ちをして食堂から離れる。


「ついてこい異邦人狩り。……あとお前らは朝飯を食ってろ。俺が戻ってこなかったら、予定通りのメニューをこなしてろ。そのあとは適当にぶらつてて構わねえから」


「「「わかりました!兄貴!」」」


 インジャの部下たちは一斉に返事をすると、朝食を取り始めた。ユウキ達はインジャについて行き食堂を出る。


× × ×


 5人はしばらく黙って廊下を歩いており、ユウキ達の部屋に向かう。部屋に戻ると布団は畳まれており、ちゃぶ台が部屋の中央に置かれていた。各々がとりあえず適当な場所に座ると、シーラから切り出す。


「わかったよ。あんたが何でオレゴンで私たちに協力したか。……ミカさんがオレゴンにいたからか」


 インジャはいきなり図星を当てられたこともあり表情を強張らせる。そして少し経ってから観念したように口を開いた。


「ちっ……ああそうだよ。偶々お前らがオレゴンに来たタイミングで、ミカの奴がオレゴンに営業許可申請を出すためにオレゴンに来てたんだ……。しかも少し前に変わった新領主が手あたり次第に女に手を出す変態で……異邦人だと知ったからな。そんでもってドラゴンによるオレゴンの破壊だ……。お前らに手を貸さざる得なかったんだよ」


「変態なのは多分前も新も変わんなかっただろうけど……」


 シーラは皮肉で話を混ぜっかえす。しかしインジャの話に納得がいかなかったのがコニールだった。


「その話は本当なんだろうな」


「コニールさん……!」


 アオイはコニールを宥めようと肩に手を当てながら言う。コニールはアオイの懸念もわかっていたが、今まで聞いていたインジャの風評からどうしてもそれが信じられなかった。


「貴様らがこの大陸で何をしていたか。私は色々聞いていたんだ。それで動こうとしても周囲に止められて今まで見過ごしていたが……。貴様がそんな人を守るような人間だとでも言うのか?」


 コニールの言葉は剥き出しの刃そのものだった。しかしその言葉はシーラもアオイも納得せざる得なかった。自分たちも一歩間違えれば、インジャ達に攫われていたのだから。しかしインジャは全く気にしてないとばかりに手を上げた。


「別にお前らに納得してもらおうなんて思っちゃいねえよ。ただ俺は日課の修行をこなすのに都合のいい宿がここで、その宿が失われたら困るってだけだ。だいたい犯罪者なのはお前らも変わんねえだろうが。指名手配を受けてる元女騎士様よ」


 そう言われるとコニールは顔を赤くして黙ってしまった。ユウキと話していた時は追われる身になったことや、元騎士の立場になってしまったことを悔やんでいない風にしていたが、やはりそれなりに堪えているようであった。


 全員が黙ってしまい話が終わったと見たインジャは立ち上がると、部屋から出ようとする。


「これで互いの立場ってやつがわかったようだし、俺はそろそろ行くぜ。こっちも暇じゃないんでな」


 インジャがドアから出ようとした瞬間、何者かに腕を掴まれた。その手の細さから、女性のもの、それもこの中で一番貧弱な少女のものであるとわかったインジャは、気だるげながらも腕を振り払わないように丁寧に振り返った。


「……んだよシーラか。まだなんか用があんのか?」


 インジャの腕を掴んでいたのはシーラだった。しかしその行動は周りの誰も予想できなかったことであり、ユウキ達も全員驚いていた。


「なぁ……一つ、頼みがある」


 ユウキはまっすぐインジャの目を見ながら言う。


「んだよ。俺はもうミカの奴を助けてもらった借りは返したぞ」


「わかってる。だからこれは私の個人的な頼みだし、報酬が必要なら別で用意する。金ならいくらでもあるしね」


「……言ってみろよ」


「……あんたの“拳法”ってやつを兄さんに教えてやって」

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