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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第11話 守るべき一線
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11-4

 町についたコニール達はそこで住民がパニック寸前になりながらも、ギリギリで理性を保って避難している様子を確認した。しかしドラゴンによる破壊の爪痕は各地に残っており、兵士だけでなく、動ける者もそちらの救護活動にあたっていた。


「そこ! 瓦礫が崩れて道がふさがってる!」


 女性兵士が先導し、住民たちは迂回路を通って避難していく。女性の立場が強い風土もあり、所々で女性が指揮している様子が見られた。そして指揮を執っていた女性兵士の一人がコニールに気づき、目を輝かせてこちらへ向かってくる。


「もしかして……コニール様ですか!?」


 コニールの名を聞いて周囲がざわついてコニールを見る。女性兵士が多いこともあってか、コニールの人気はすさまじく、あっという間に人だかりができた。


「本物!? 本物のコニール様!?」


「こんな時に……奇跡だとでも言うの!?」


 コニールが集まってきた女性兵士たちに慕われる姿を、シーラはひくつきながら見ていた。


「人気があるのは知ってたけど……。こ……ここまでとは……」


「すっごいね……逆にシーラはコニールさんのファンとかじゃなかったの?」


 一緒に驚いていたアオイはシーラに向けて尋ねるが、シーラは複雑な表情を浮かべる。


「あたしゃあコニールとは畑違いでしたから……。でも同級生にコニールの熱狂的なファンの子は多かったですけどね。あいつのファンクラブは狂信的で有名で……」


「まぁ……確かに女の子にモテそうなタイプだよねコニールさん……」


 離れてただ眺めているだけの二人に、コニールは縋るように言う。


「のんびり話してないで助けてくれないか!?」


 何とか落ち着きを取り戻した群衆をまとめ、コニールはここまでの状況を簡潔に兵士たちに説明した。イサクの事、ドラゴンの事などなど。ただし異邦人という単語を意図して省き、コニールが城から追われていることも伝えなかった。イサクの能力はあくまで魔法によるものだとした。


「くそっ……あのブタ野郎……!」


「私初めてだったのに……なんであんな奴に……!」


 この数週間のイサクに領主が変わってからの無意識の洗脳を自覚した女兵士たちは、イサクにされた数々の所業をようやく認識し、悲嘆していた。しかし今はその時間すら惜しい。コニールは彼女らに喝を入れるように叫ぶ。


「いいか諸君! イサクは私たちが倒したが、まだ彼奴が残した災厄が残っている! あのドラゴンを止めない限り、私たちに勝ちはない! だが、私の信じる戦士が一人、あのドラゴンに戦いを挑んでいる! 私たちがすべきことは、彼が一切の憂いなく全力で戦えるよう、町の人々の避難を迅速に済ませることだ!」


 コニールの迫真の発破に兵士たちは鼓舞され沸き立つ。その様子を見て、アオイとシーラは少したじろいでいた。


「さっすが元騎士団長候補様……。その若さに似合わぬ勇将ぶりで」


「……絶対シーラが何か言えるもんじゃない気がする」


「まぁこれでイサクがいなくなった混乱や、兄さんがドラゴンと戦う際に、余計な邪魔が入る懸念は排除できましたがね」


 コニールが行っている演説はシーラの仕込みであった。コニール自身も自分の知名度を使って、領主無き今のオレゴンの無秩序状態に滑り込むことで避難指示を円滑にしようとしていたが、シーラがそこに一案加えた形を取った。


 コニールは兵士たちが沸き立つなか、妙に落ち着いた一団がいることに気づいた。よく見るとこの集団の中で珍しく男が集まっており、そして様子が変であった。空気に馴染めていないというより、コニールと顔を合わせるのを躊躇っているような雰囲気だったからだ。――そして注視したおかげで、コニールはすぐに気づくことができた。


「あーっ!? お前ら……!」


 コニールは続きを口に出しそうになるが、耐えてギリギリで口を抑え込む。代わりに次いで、周囲にいる兵士たちに指示を出した。


「君たちは散開して住民の避難指導に当たってくれ! 彼はドラゴンを城の近くに誘導し、そこで戦うつもりだ! 特に城付近の病院に尽力し、傷病者や子供たちを最優先で救い出すように!」


「「「はい!」」」


 兵士たちがそれぞれの持ち場に離れていく中、コニールは気まずそうに待機していた集団に近づいていく。


「やぁ……なんでお前たちがここにいんのかな……? “インジャの手下”たちが」


 そこにいたのはインジャの手下たちであった。彼らは数日前にコニール一人に叩きのめされていたこともあり、コニールと顔を合わせられないでいた。その中で一人、この集団のまとめ役と思われる男が声を上げる。


「俺たちはインジャの兄貴に言われて、町の避難活動を手伝いに来たんだよ! 男手が必要だろこんな時は!」


「名前は?」


 コニールは冷たい口調で言い放つ。このあたりの騎士という人の命を扱う職業に就くものとしての風格に、シーラは背中に少し汗をかいた。それは対面にいるインジャの部下の男も同じ気持ちであった。男はコニールの凄みに押されながら、虚勢を張って言う。


「スレドニだ! インジャの兄貴の副官をしている! いまインジャの兄貴は別行動を取ってるから、俺がこいつらをまとめてんだ!」


「ふ~ん……」


 コニールはインジャの部下たちを見渡す。各々武器は持っているものの、現時点で略奪品なども持っている気配はない。ドラゴンが来る前からイサクに洗脳された女兵士の混乱が起こっていたことを考えると、この時点で戦利品を持っていないということは信じていいと判断していい材料であった。――それに人手はいくらあっても足りない。


「……わかった。ただし監視の意味合いを込めて、あんたらは私の配下で動かす。勝手な行動をしたらその時点で斬る。それでいいか!」


「「「おう!」」」


 コニールの呼びかけに、インジャの部下たちは声を張り上げて答えた。さらにコニールは避難している住民に対しても声をかける。


「男手はいくらあっても足りない!彼らのようにも力を貸していただける人がおれば、彼らと合わせてこちらの手伝いをお願いしたい!もうイサクはいない!彼奴に身内の女性を人質に取られていた方も、もう何も心配することはない!お願いだ!今は町の人々を守るために力を貸してほしい!」


 最初は逃げ惑う人々ばかりであったが、コニールの声を聞くうちに、一人、また一人と足を止める。


「そうだ……ここでやらなきゃどうする……!」


「お父さんはここで行かなきゃいけない……! お前は先にお母さんと一緒に避難していてくれ……!」


「コニール様! 俺らにも手伝わせてくだせえ!」


 そして十人、二十人とその数を増やしていき、インジャの部下と合わせると総勢50名ほどの有志がコニールの手元に集まった。


「みんな! ありがとう! 私たちはドラゴンの下に近づく必要はない! ただ避難経路に沿って、逃げ遅れてる人や。崩れている瓦礫を撤去するだけでいい! みんな……よろしく頼む!」


「「「うおおおおお!!!」」」


 掛け声を上げる男性陣にアオイとシーラは圧倒されていた。


「すげ……こういうのはやっぱ強いなコニールは……!」


「でもこれでユウキの後ろは守れる……!」


 未だ町の上空を飛んでいるドラゴンを見て、シーラは不安を隠せずにアオイに言った。


「ええ……ですが結局のところあとは兄さんにすべてがかかってる……! いくらコニールがまとめても、兄さんの時間稼ぎがポシャったら、その反動は全部返ってくるわけですから……!」


× × ×


 ユウキはドラゴンに向かうまでの間、トスキを指定の地点に置いていき、単身でドラゴンに突撃を仕掛けていた。数日前に戦った時はユウキが一方的にやられていたが、あれはドラゴン側の不意打ちがあってこそだった。今度は逆にユウキが不意打ちを決め、その攻撃は確かにドラゴンの身体をのけぞらせるほどの威力があった。


「ここまでは想定内……!」


 ユウキは倒れているドラゴンを見て呟く。コニールやトスキには止められたが、今の自分がドラゴンに対し攻撃を行えば、こうなるだろうという予測はあった。――しかし。


「……ちくしょう。これは“想定外”だ……!」


 ドラゴンは立ち上がるが、傷一つついていなかった。さすがに少しでもダメージは与えられるだろうという希望的観測をしていたこともあり、ユウキは少なくないショックを受けていた。やはりトスキ達の言う通り“人間”が倒せる存在ではない。


「待って待って待って……! あのドラゴン何か怒り狂ってない……!?」


 一連の様子を横で見ていたミカは、立ち上がったドラゴンの様子を見て不安げに声を上げた。ドラゴンは鼻から火を噴き始め、その顔は明らかにユウキに敵意を向けていた。


 イサクにより頭をいじられたラルダインはもうまともに思考する力を失っている。今暴れているのは魔物本来の本能で、人里を襲っているにすぎない。しかしその状態でも、ラルダインのこれまでの生涯の中で、人間に単身殴られて倒れたという“ありえないこと”を判断することができた。――そしてそれはラルダインの壊れかけの頭の中で、ある感情に変換されていた。


「グオオオオオッッッ!!!」


 ラルダインは天に向かって咆哮を上げる。その咆哮が示す感情は“怒り”。人間風情が、自らのようなドラゴンを倒していいわけがないという本能からの怒りだった。そしてその怒りをどのようにすべきか、これも本能が教えてくれていた。


 ――目の前の虫を潰してやれと。



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