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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第11話 守るべき一線
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11-2

 オレゴンの町ではグングリスドラゴン――ラルダインによる破壊がまき散らされていた。前領主であるトスキの友人であり、40年以上前から町の中にも親しんでいる人がいた。しかしラルダインはそんな彼らの事を忘れたかのように、町中を破壊しながら回っていた。


「……こんなことわざがあるだろ? “覆水盆帰らず”。一度こぼれた水は元には戻らないと」


 イサクは足元から光があふれ、姿が消えかかりながら勝ち誇った声でユウキたちに言う。


「……“炒り卵は生卵に戻らない”。あんたが言いたいことはこういう事でしょ?」


 シーラはイサクの襟首を掴んで身体を持ち上げた。


「このクソ野郎……! やられる前に、やるだけやりやがったな……!」


「どういう事だよ!?」


 ユウキがシーラに説明すると、シーラはイサクを引っ張り上げて歩きながら話す。


「こいつはやられる直前に、あのドラゴンの頭に何か細工をしたんです。……具体的なことはこれからこいつが得意げに話すでしょうが」


 シーラの悔しそうな声を聞いて、イサクは息を切らしながらも笑う。


「ヒッヒッヒッ……ええ、そうですとも。確かに私の能力は好意を操るだけで人の頭を壊すようなものじゃない。……ですが、プラスの感情と、マイナスの感情を短時間で行ったり来たりさせると、人……というより今回はドラゴンですが、生き物の頭ってのはそんな耐久性があるようなものじゃないんですよ……!」


「……は! そういうこと……!?」


 アオイは先ほどまでイサクの能力をくらっていた身として、イサクの言っていることが理解できた。あまりにも激しすぎる感情操作によって、ドラゴンの脳に致命的なダメージが残ったのだ。そして今は自我を失い、暴走するだけの哀れな存在へと成り果ててしまった。


「ラルダインはもう、言葉も何も通じない。ただドラゴンの本能で目の前を破壊するだけの魔物でしかない。そして誰もあれを止めることはできない……! みんな死ぬんだよ……異邦人狩り、お前のせいでな!」


 イサクはユウキにむかって吠えるが、シーラは一切イサクを気にせずに襟首を振り回してぶん投げる。身体が消えかかっていることもあり、非力なシーラでも乱雑に扱うことができた。


「あんときのスズキセンパイってアバズレの時を思い出すと、あと30秒もないかな? ……なんにせよ最後の思い出語りってやつ、楽しんでったら」


 イサクが顔を上げると、そこには怪我のために息を切らしているトスキがいた。トスキは消えかかっているイサクを見ると、悲しげな表情を浮かべて言う。


「互いに……もう時間はなさそうだな」


「……ええ、まさか最後に話すのがあんたになるなんてね……」


 トスキは身体を起こすと、ゆっくりとイサクの方へ近づいていく。そして右手を上げ、イサクの頬を叩いた。


「……これくらいはさせろ。お前は私の女たちを奪ったのだから」


「ふっ……最後に残された時間を使ってこれですか」


「そして最後にもう一つ。お前はランを使って何か仕掛けたようだが……それは無駄に終わる」


「……何が言いたい?」


 イサクの質問に、トスキはイサクの顔を見ずにユウキを見ながら言った。


「彼がお前の浅はかな企みを止めるからだ。彼は私たちとは違う」


「はっ……はははっ! 私たちと違う? ええ、そうでしょうね。違うでしょうよ」


 イサクもユウキを見るが、その目は侮蔑のものだった。


「でもね……僕は思うんですよ。こんな状況で、自分の思うようにしないなんて、そっちの方が頭おかしいんじゃないですか?あんたも、他の異邦人だって、皆そうしてきたんだ。……あいつは理性に則ってるんじゃない。ただ人間性も何も無いだけだ」


「な……!? てめ……!」


 話を聞いていたユウキは頭に血が上りイサクに反論しようとするが、言葉を発しようとした瞬間、その姿が消えてしまった。


「少年……!」


 トスキはユウキを励ます言葉を言おうとするが、それを言い出すことはできなかった。ユウキは振り上げた拳の振り下ろし先がわからず、天に拳を突き立てながら、声を出さないで叫んだ。


「~~~~~~!!!」


 本当は声を上げたかったが、それは下にいるアオイやコニール達を心配させてしまうことをわかっていた。シーラもトスキと同様に今のユウキに声をかけるべきではないと判断し、トスキに肩貸して起こしてやる。


「ほら立ちなさいよ。あのドラゴンはエロ爺の友人なんでしょ? だったら止めるにはあんたの力を借りるしかない……!」


「……ありがとうな」


「あぁん!? 何!? エロ爺って言葉がご褒美だとか思ったわけ!?」


 トスキに急に礼を言われ、シーラは困惑して反応する。その困惑の仕方にトスキは苦笑するものの、話をつづけた。


「私とイサクの関係を知って、最後に話す時間を設けてくれたのだろう? ……君は口が悪いし、どうも気性に難があるし、何考えているかわからないところがあるが……」


「このクソ爺そんなに言うか……」


「……優しいんだな。私だけでなく、少年にも、な」


「……うるさいな」


 シーラ達が下へ降りると、コニール達はすでに外に出ていた。シーラ達はそれを追うと、なぜコニール達が外に出たのかを理解できた。すでに町は燃え始めており、火の手が上がっているために夜であるにも関わらず、明るくなっていたからだった。


「こんな……!」


 アオイが口を手で押さえながら絶句するが、コニールはアオイの肩を叩いて言った。


「大丈夫だ。不幸中の幸いだが、町には今、ユウキ君の妨害をするために出払っていた兵士たちがいるはず。その証拠にここまで被害が出ているのに暴徒が発生していない。……兵士たちが避難誘導をしているんだ」


「なるほど……イサクさ……じゃなくてイサクの奴はそこまで考えて……」


「……は無いでしょうね。そこまでの脳みそはしてなかったですよあのブタ野郎は」


 納得しかけるアオイにシーラは呆れながら言う。アオイはシーラの声が聞こえて振り向くと、シーラと怪我で蹲っているトスキ、そして暗い表情で俯くユウキがいた。


「なんにしても町の避難を手伝わないと……」


 シーラはそう発言すると共に、ドラゴンの攻撃で町の建物が崩れて轟音が鳴り響く。その様子をシーラたち全員が歯噛みして見ていた。確かに引き金を引いたのはイサクであり、この状況になったことにシーラ達の責任があるかどうかは微妙な点ではあったが、それでも深く考えるくらいの良心がこの面々にはあった。


「私が城から追われていることを、もしかしたら知っている兵士は少ないかもしれない。私が行けば指揮系統が上手く取れるかも……」


「じゃあ私はコニールについていこう。……今回ばかりは鉄火場に慣れてるコニールに頼るしかないかもね」


 コニールとシーラは前に出てそれぞれのやることを決める。二人に続いてアオイも前に出る。


「私も……瞬間移動の能力で瓦礫を撤去したり、やれることはあるはず。コニールさん私も連れてって」


「ああ、頼むよアオイ君」


 女性3人が前に出てユウキとトスキが残される。ユウキは悩んでいた。自分が今すべきことと、最後にイサクに言われた言葉に。自分たちのすべきことを決めたコニール達はこれからの計画を立てるためにユウキに注意を払えなかった。彼女らもユウキが自分たちについてきて、避難の手伝いをすると思い込んでいたという事もあった。


 自分たちではあのドラゴンに敵わない。まずは避難をしてそこから考える。特に騎士上がりのコニールはこういった強大な魔物との戦闘経験があったため、その対策も熟知していた。この世界での魔物の対策はとにかく人を集め準備をして“直接戦わない”ことだった。中型の魔物ならともかく、ドラゴンのような大型の魔物は対処不可能だからだ。


「コニールさん、俺……」


「ああ、ユウキ君。君は……」


 だからコニールもユウキが言葉を発したとき、自分についていくと言うと思っていた。だがユウキの表情は決意に溢れていた――悲壮なほど。


「俺は……あのドラゴンを倒しに行く。何としてでも……ここでアイツを止める……!」


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