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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第5話 旅と仲間と
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5-4

 ユウキは数十人の兵士相手に不殺魔法がかかった剣を持って立ちはだかっていた。すでに何人かは倒れており、兵士たちは体勢を立て直すためにユウキを囲みはするが前に行くことができなくなっていた。


「こいつ……なんて強さだ……!」


 兵士の一人がそうぼやく。ユウキは昨日の異邦人との戦いで左肩を脱臼しており、まだ左腕には包帯が巻かれままで、実質右腕一本で戦っていた。その状態で20人以上の大人の兵士を相手にして傷一つついていないのだから、はっきり言って異常そのものだった。だが、ユウキは自分のこの強さに恐怖感を抱いていた。


「くそ……くそ、くそ、くそ……!」


 この恐怖感を他人に言うことはできなかった。それは“嫌味”でしかないし、共感もされないと思っているから。だが昨日シズクと会ったことで、その恐怖感は以前よりも大きくなっていた。


「早く……! アオイたちはまだか……!?」


「ユウキ! こっちは準備できたよ!」


 アオイの声が聞こえ、ユウキは振り向くとすでにシーラ達の姿はなかった。ユウキは最後に一度大きく剣を振り、周りにいた3人に剣を直撃させる。そして一気に跳躍して、アオイの横まで駆け寄ると、そのまま身体を抱きかかえた。


「みんなは!?」


「向こう!」


 アオイは階下を指さすと、コニールたちが城の出口に向かって走って行っていた。周りの兵士の反応を見ると、コニールたちに立ち向かうものはおらず、まだそこまで連絡が伝わっていないことが伺えた。


「よし! しっかり掴まってろよ!」


 ユウキはアオイを抱えたまま、壁に空いた穴から一気に飛び出す。そしてその異常な身体能力を持って、壁を蹴って一気に階下まで降って行った。


 兵士たちは追いかけようとはするが、ユウキと同じような人外じみた動きができるわけもなく、一部の兵士は通常の通路から追いかけていくが、その他の兵士は壁に空いた穴から、ユウキ達を見ていることしかできなかった。


× × ×


 ユウキ達はそのままコニールたちと合流すると、走って城から出ていった。シーラによる暴行事件からまだ数分も経っていないため、城内の兵士たちにも連絡は行きわたっておらず、脱出までは容易に行うことができた。アオイの瞬間移動とユウキの身体能力による機動力は群を抜いており、王の間からの連絡網がユウキ達のスピードに追い付くことはできなかった。


 そしてユウキ達は一度宿屋のシーラの部屋まで戻り、部屋に置いていた荷物を急いでまとめていた。


「で、こっからどうするんだよ!?」


 ユウキはシーラに指定された着替えや道具などをひたすらリュックに詰めながら尋ねる。


「この街を脱出することまでは容易にできると思います。姉さんの能力で壁を越えればいいだけですから。……ただ、しばらくは付近の町には寄れないですねえ……」


「はぁ……しばらく野宿か……」


 コニールも荷物をまとめるのを手伝いながらため息をついた。仕事柄、野営は基本であるためか野宿の過酷さを身に染みて知っている者の反応だった。だがユウキとアオイは若干ワクワクしていた。


「野宿かぁ……ちょっと楽しそうだな……」


 アオイはこちらに来た最初の3日間で死にかけていたことを忘れた様子で言った。自分も少しワクワクしていたものの、アオイも乗り気だったことを見てユウキは呆れながら言う。


「お前……割とタフなんだな……死にかけてたのに」


 そうして荷物をまとめ終わり、それぞれが荷物を持つと、シーラは立ち上がって言った。


「よし!みんな準備はいい!?足りないものは外に出るまでに順次買い足していくから」


「「はーい」」


 アオイとコニールは手を挙げて返事をするが、ユウキだけがプルプル震えながら文句を言った。


「ふざけんな……俺だけ荷物持ちかよ……!」


 ユウキの背中には人が2~3人分はありそうな体積の荷物が積まれていた。対して女性陣はちょっと手提げ袋を持つ程度であった。


「だって兄さんが一番力持ちですし。よくわからんけどステータスやらなんやらの影響で、ようわからん力あるからいいじゃないですか」


「ようわからんなら労わってくれよ……俺左肩がまだ完全に治ってないんだよ……。あと、これどうやって部屋抜けるんだよ」


 ユウキは背中の荷物を指さして言う。部屋の入口の大きさより荷物の方が大きく、どう見ても抜けられない状態になっていた。だがシーラは不敵に微笑んで言った。


「ふっ……大丈夫っす。姉さん!」


「はーい」


 アオイはユウキに左手で触ると、街路側の部屋の窓に指を向ける。何をされるか一瞬で悟ったユウキは冷や汗を流してアオイに言う。


「ちょっ……待て! 心のじゅ……」


 次の瞬間にはユウキの姿は消え、窓の外に移動していた――2階であるこの部屋の外に。


「いや~全く便利だ、姉さんの能力。強い弱いより便利って言葉がよく似合う」


 恐らく受け身に失敗したユウキの悲鳴が聞こえていたが、シーラは全く気にせず背を向けて部屋から出ていく。そして下に降りて、カウンターにいる宿屋の主人であるグレゴリーに手を振って話しかける。


「いろいろ迷惑かけちゃってごめんね、叔父さん。今日でチェックアウトするけど、もしかしたら城からの兵士たちがいろいろ来ちゃうかも」


「“また”なんかやらかしたのかお前は……」


 グレゴリーは諦めたように言う。その反応を見てコニールはシーラの肩をゆすりながら言った。


「またってなんだまたって!お前いつもこんな事してるのか!?」


 コニールの問い詰めにシーラはしらばっくれて答える。


「いや~……なんのことだか」


 グレゴリーは頭をかき、厨房の奥へ引っ込んでいくと、カウンターにいくつかの瓶を出す。胡椒などのスパイスがいくつも用意された瓶だった。


「とりあえず餞別だ。どうせまたサバイバルをするんだろうから、調味料くらい詰めるだけ持ってっておけ」


「……ありがと」


 シーラはそれを大事に受け取った。別にここでもらわなくてもあとで買えばいいのはわかっている。グレゴリーもそれをわかったうえで、何か渡さずにはいられなかったのだと、シーラは理解していた。


「姉さんには黙っといてやるから。お前はお前らしく生きろよ……じゃあな」


「うん、またね。叔父さん」


 宿屋からシーラ、アオイが出ていくが最後にコニールが残りグレゴリーに手紙を渡す。


「ぶしつけで済まないが、これを城で侍女をしているメアリーという女性に渡してもらえないだろうか」


 グレゴリーはコニールから手紙を受け取ると、頭を下げながらコニールに言う。


「わかりました。ですが騎士様、どうかお願いです。あの子を……シーラを守ってやってください」


「……私の助けなんて必要なさそうに見えるが」


 コニールが皮肉を言うがグレゴリーは頭を下げながら言った。


「あの子は……確かに年齢不相応の頭の良さを見せますが……その心の奥底は、自分の人生への悲観であふれてるんです。本当はあの子は弱いんです……ですから……」


「うん……うん!?」


 コニールはつい聞き流してしまった一つの単語が気になった。


「待て、人生への悲観とはどういうことだ? 15歳程度で、そんなこと……」


× × ×


 パンギア城王の間。ユウキ達が逃げて行ったあと、ユウキによって倒された者たちの手当てや、情報の連絡、部隊の再編制などが行われていた。そんな中、城の兵士がある者を連れてきていた。


「すみません遅くなりました! この者があのシーラ・ロマンディを知っているようで!」


 兵士は王の前にまだ若い魔法使い見習いを連れてくる。年齢も16といったくらいの少女だった。


「あ……あの……“あの”シーラがこの街にいたんですか?」


 少女は怯えながら周囲を見渡す。学校が休暇になって地元であるこの街に戻り、バイトで城で魔法使いの仕事を手伝っていただけなのに、なぜか殺気立った数十人の兵士、そして王と大臣に囲まれるハメになったのだから。流石に少女の怯えを察したパンギア王が優しく声をかける。


「そう怯えなくてよい。今は、お主がシーラ・ロマンディと知り合い……というよりも学校で同期であったと聞いて、その情報が聞きたくて呼んだのだ。まずこれは本当か?」


 少女は王に直接話しかけられ緊張で汗をどっと流しがらも頷いて答えた。


「は……はい。私はあのシーラと同期でしたが……話したことは一度もありません」


「む……? 話したことがない?」


 王の質問に少女は怯えながら言う。


「あの……その……! 私たちの同期でシーラの名前を知らない者はいません。成績は常に学年トップなのに……学校には全く出席しませんでしたから。いわゆる不良で、授業をサボって常に学園街で問題を起こしてたんです」


「不良……」


 ゼイビアは頬をさすりながら“不良”という言葉を繰り返す。少女の割にやけに腰の入ったパンチであったが、その理由が少しわかった気がした。


「成績はトップでも、シーラにある問題がありました。……魔法学校に入ってるのに、魔法が一切使えなかったんです。全く才能がなくて、同期のみんなにはバカにされてイジメられてました」


「ロマンディ家の血を引いているのに魔法が使えない?」


 ゼイビアは思い返すと、シーラが全く魔法を使っている様子がないことを思い出した。昨日の異邦人の襲撃の際も、何もしなかったという報告を受けていた。そして今の騒動でも、異邦人狩りが動いていただけで、当のシーラは何もしていなかった。


「でも、2か月前にとうとう放校処分になりました。……クラスメイトへの暴行事件がきっかけでしたが……その……」


 話すのに慣れてきた少女だったが、その肝心なことを言うことにどうも躊躇いがあるようだった。王と大臣はその言葉を待ち、少女は意を決して言った。


「……クラスメイトへの“殺人容疑”が決め手になったようです。あくまで容疑であり、実際に捕まることはありませんでしたが、みんなシーラがあの子を殺したと疑っていました」


「殺人……!?」


「だと……!?」


 王とセイビアは互いに顔を合わした。最初は単にコニールを排除するだけだった作戦が、異邦人狩りが絡み、そしてロマンディ家の札付きの不良少女まで絡みはじめていた。


「どうする……ゼイビアよ」


 パンギア王はゼイビアに尋ねる。想定をはるかに超えた厄介ごとになっており、手の出し方次第ではかえってこちらに火の粉が飛んでくる事態になっていた。


「……“あの男”を使います」


「あの男……? もしや!?」


 パンギア王はゼイビアが出した提案に驚愕しながら聞き返した。だがゼイビアは目を見開きながら言った。


「毒をもって毒を制すです……! 我々もあの男の処遇に困っておりましたが、それならあの異邦人狩り共に当てるのがちょうどいい……!」


 パンギア王は少し考えるものの、やがて納得して頷いて言った。


「わかった。確かにそれが最善のようだ。報告の中ではオレゴンに向かうと言っていた。その方向に網を張れば引っ掛かるだろう」


「承知いたしました……!」


 ただ見ればゼイビアのコニールへの“要求”から始まった事件であり、それをひた隠そうとするみっともない光景でしかない。しかしパンギア王はそのことを知ったうえで、コニールがこの国にとって劇薬でしかないことも知っていた。下手すると10年後には平民出身で女の騎士団長が誕生していたかもしれないことを考えると、このくらいの騒動で済むなら安いものだった。


 ユウキもアオイも、シーラもコニールも、ある一つの共通項でまとまっていた。それはこの世界で“異質”であるということ。異邦人を狩る彼らこそが、この世界の異物となってきていた――。


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