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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第5話 旅と仲間と
18/120

5-2

「…………と、ここまでが昨日の一連の出来事をまとめた形となります」


 コニールは王の前で跪きながら報告を行う。部屋の中央に王が玉座に座り、その前でコニールたちが報告する形となっていたが、コニール以外の3人には椅子が与えられていた。昨日の異邦人の襲来でユウキが重傷を負っていたため、椅子に座ることを許可されていたのだった。


「了解した。下がってよい、騎士コニール」


「はっ」


 パンギア王は手を振りコニールを下がらせる。そして横にいた大臣であるゼイビアを呼び、ユウキ達に聞こえないように小声で話す。


「……どうする。コニールの報告について」


「はっ……昨日の事があります。……おおよそ真実であると判断してよろしいかと」


 パンギア王は顎を擦りながら現在の状況を確認していた。異邦人の調査をコニールに命じたのは、異邦人の脅威もあったがコニールが城の権力争いの火種になっており、手っ取り早く城から追い出すためでもあった。しかし昨日における城下町での複数回の異邦人の騒動、そして晩餐会への襲撃。そのどれもが異邦人狩りとコニールが解決して“しまった”という事が何より問題であった。


「全く……いらん問題ばかり起こしよって……」


 王がそう漏らすのも無理はなかった。ここで異邦人の調査のためにコニールたちをオレゴンに向かわせるのは簡単だが、彼らに相応の恩賞を与えなければ面子に関わる。しかしそれがよりによってコニールなのが問題だった。


「でしたら私めから一つご提案がございます」


 パンギア王の悩みを察したゼイビアが唇を吊り上げながら言う。


「申してみよ」


「それは…………」


 大臣と王が何やら話し始めたのを見て、シーラは小声で漏らした。


「あ、やばい」


「どうした?」


 シーラが漏らした言葉に、ユウキは不安になって尋ねる。シーラは口元を手で抑えながら、怪訝な表情をしてユウキに言った。


「……下手すると、昨晩の晩餐会での襲撃の件、私たちのせいにされかねない……」


「は? いや、この城の人たちが何もできなかったの、何とかしたの俺たちだろ?」


「さっきのコニールの報告で、例のスズキセンパイって女が兄さんたちの顔見知りってところで、明らかに顔が変わってました。そんでもって、コニール自身の問題がここで非常に重くのしかかってる……」


「コニールさんの問題? ああ、確か元孤児で平民出身とかだっけか」


 ユウキは昨日の自己紹介の際に、コニールの素性を触りだけ聞いていた。――とはいっても全然ピンと来ておらず、大変なんだな程度で軽く流していた。


「そもそもコニールが騎士で中隊長で、本人の申告通りならトップクラスの天才剣士……多分これは真実っぽいですが……なのに、異邦人の調査なんてあからさまな閑職送りにされてる時点でもうヤバみしか感じませんし。絶対何か相当なトラブル抱えてたでしょうアレ」


 ユウキはシーラが思った以上にコニールの事を評価していたことに驚いていた。普段の態度から相当舐めていると思っていたが、その実力は正しく見ていたようであった。


「……で、何がどうなるんだ?」


 ユウキは周囲の兵士たちを見る。流石に王の前であることと、昨日のことがあったため、警備はかなり厳重にされており、ざっと数えただけで20人近くはいた。外で待機している兵士も含めればさらに増えそうであった。


「……私がなんとかします。こういう時の頭脳派係ってやつでしょう?」


「頭脳派ってお前な……!」


 シーラは立ち上がってVサインを見せながら言った。


「まぁ見ててくださいって」


 コニールは頭を下げながらも、自分の置かれた状況のまずさに気づいていた。目の前にいるゼイビアとは確執があった。コニールがそもそも閑職送りにされた原因の一つが、この目の前のゼイビアからの“誘い”を断ったことだった。


 貴族階級が存在するこの国で、騎士として出世するには――というよりそもそも騎士になるには貴族になるか、相応の後ろ盾は必須だった。だが、コニールはその類稀な剣の才能で、それらの障害を乗り越えて“しまった”。


 そして彼女の最大の不幸はその驚異的な出世に対し、上手く立ち回る狡猾さをまるで持っていないことだった。ほどなくして彼女の存在はパンギア王国の中で異物と化していき、その弱みに付け込むようにゼイビアに目を付けられたのだった。


 パンギア王とゼイビアの話が終わり、パンギア王は改めてコニールを見下ろす。


「オホン。……待たせたな。たった今、騎士コニールおよび、そなたら異邦人狩りの処遇について決めさせてもらった。まずは……」


「失礼いたします、陛下。私の話を聞いていただけますでしょうか」


 王の言葉に割り込むようにシーラが立ち上がって発言する。国王の言葉を遮るというあまりに不敬な行為に、兵士たちは構えを取り、ゼイビアは激昂してシーラを指さす。


「き……貴様ぁ! 何を考えている!」


 針の筵のような状況に置かれ、シーラは渋い顔をしながら横で頭を下げているコニールを見た。立場ゆえに頭を上げることはできないが、コニールも同様にシーラの暴挙に怒りたいことが身体の震えから見て取れた。しかしシーラはあのまま黙って座っているわけにもいかなかった。


「大変失礼いたしました……。昨晩この二人、異邦人を狩る異邦人……ユウキ殿とアオイ殿の紹介はさせていただいたと思うのですが、私の紹介がまだでしたので……」


「それが今なんの関係がある!」


 ゼイビアは怒りながらシーラに言う。だがシーラは動じずに続けた。


「……私の名前はシーラ・ロマンディと申します」


 “ロマンディ”。その名前を聞いた途端に、周囲にざわめきが広まる。


「ロマンディ……? まさかあの魔法使いの……!?」


「ロマンディと言えば、超名門の魔法使いの一族……!」


「嘘だろ……!? あんなガキが……?」


 周囲のざわめきを見て、ユウキとアオイは顔を合わせた。昨日の自己紹介の時にシーラが名前を言った際、コニールも同様の反応を示していた。“ロマンディ家”がどれほどの権威を持つかユウキ達はピンとこなかったため反応のしようが無かったが、周囲の同様がその名前の効果を絶大に示していた。


「おい……コニールのやつそんな凄かったのか……」


 ユウキは小声でアオイに言う。アオイもユウキに同意するように言った。


「まさかこんなに反応するなんて……。という事は、“おばさん”ももしかしてとんでもなく偉い人だったってこと……?」


× × ×


 ――ユウキ達がエルミナ・ルナに来て3日目。アオイの体調が悪くなり、意識が曖昧になっていく中、ユウキはようやく民家を見つけ、そのドアを叩いていた。


「すみません! 誰かいませんか!」


 が、3発目で力が入りすぎてしまいドアを叩き壊してしまう。アオイを背負っていたことと、自身の体力も限界に来ていたユウキはその勢いで倒れてしまう。


「誰か……誰か……」


 ユウキの目が霞んでいく中、居間の奥の扉が開かれそこから白髪の老婆が現れる。そして見るからに瀕死のユウキ達、そして壊された扉を見て駆けつけてきた。


「大丈夫……ってあんた何扉ぶっ壊してんだい!? どんだけ強く叩いて……って倒れるほど弱ってるのによくぶっ壊せたね!?」


「すみません……アオイを……アオイを助けてやってください……」


 ユウキは自身も限界にも関わらず、アオイの事しか頭に思い浮かばなかった。あまりに必死に懇願するユウキを見て、老婆はまずアオイを抱き上げ――でいるのではなく、アオイを“浮かせて”奥の部屋へ運んでいく。


「とりあえずまずはこの女の子からだ。非常に衰弱してる……何日も飲まず食わずだったのかい? 確かにこの付近に町は無いけどさ。あんたたちいったいどっから来たんだい?」


「福岡県の田舎町です……」


「フクオカケン?」


 “福岡”という聞きなれない単語に老婆は首を傾げるが、まずはアオイの看病を優先しなければならないため、手を止めずにお湯や食べ物の準備をし始めた。


「あんたは自分で動けるかい?そこにタオルと水を用意してあるから、まずは身体を拭いて、テーブルの上にあるパンと水も食べていいから。そしたら少し休みな」


「あ……ありがとうございます……」


 ユウキは壁に手をつきながら立ち上がり、ヨロヨロと歩いていく。ぼやけた目で奥の部屋を見ると、アオイが服を脱がされ、老婆に身体を拭いてもらいながら暖かいお茶を飲ませてもらっているようだった。


「すみません……僕の名前は結城葵って言います……彼女の名前は……アオイです」


 朦朧とする意識の中、ユウキは老婆に自己紹介をする。ただ自分言っていることの荒唐無稽さに頭が回らない程に消耗してしまっていた。


「あんたがアオイで……この子もアオイ? 見たところ兄妹のようだけど、あんたたちの親はどんだけ適当に名前を付けたんだい?」


 自分の言ったことに気づき、ユウキは頭を抱えた。そして訂正するためにもう一度老婆に言った。


「すみません……俺のことはユウキって呼んでください。おばあさんの名前は……?」


 “おばあさん”と言われ、老婆は露骨に機嫌を悪くして、ユウキに言う。


「わたしゃあまだ“おばあさん”と言われるほど老いちゃいないよ! 私の名前はディアナ・ロマンディっていうんだ。呼ぶならディアナ姉さんって呼びな!」


 深く考えることができないユウキは思ったことをそのまま口にしてしまった。


「お姉さんのが無理ありすぎるだろ……せいぜいお母さんくらいに留めとけよ……」


 結局、テーブルの上の食事にまで手が届かないまま、ユウキも倒れて気絶してしまった。

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