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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第4話 存在理由
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4-2

 ユウキ達がエルミナ・ルナに来てから3日目。まだ彼らは草原を彷徨っていた。水も食料も尽き、1日以上もう飲まず食わずの状態だった。ユウキは何故かまだ元気があったが、アオイの方は着実に体力を消耗しており、もう身動きが取れないほどになっていた。


「大丈夫か?」


 ユウキはバッグを枕替わりにして、アオイを寝かせながら言う。現在は昼で温度は20度近くであったが、夜になると一気に冷え込んで10度くらいまで下がってしまう。防寒着の類もなく、しかもアオイは最初裸であったため、ユウキ一人分の制服しかなかったこともあり、手持ちの上着やタオルなどを全てアオイに渡しても保温効果は期待できるものではなかった。


「なんとか……だけど、そろそろオシッコでも飲まないといけなくなるかもね……」


 アオイは気丈に振舞い冗談を言うが、ユウキは回答に困り目を反らした。男同士なら笑って済ませられるが、男女となるとユウキも色々と反応に困るものがあった。


「それだけは勘弁願うよ……。ただ、本当に何もないのかこの周辺は……」


 アオイを背負いながらとはいえ、ユウキももう3日近く歩いている。具体的な歩数を数えていたわけではないが、時速2kmで休憩込みで1日12時間近くは歩いていると考えれば60km近くは歩いているはず。――車なら1時間ちょっとで行けるだと逆に尺度の判別がついてしまい、ユウキは落胆する。


「あともう少しで見つかるはずだから……それまで耐えてくれよ……“アオイ”」


 ユウキはアオイの名を呼ぶときに少し躊躇が入った。本来は自分の名前でもあるが、今は自分は“葵”ではない。結城――“ユウキ”なのだと。


「うん……そ……そうだ……」


 アオイは返事をしようとするが、容体が急変して悶えだす。


「アオイ!? 大丈夫かアオイ!?」


「お腹が……お腹が痛い……!」


「しっかりしろ……! くそ、もうアオイの体力がヤバい……!」


 ユウキはアオイを背負うと、走って前に向かっていった。先ほども休憩なしで2時間近く通して歩いており、ここまで何十時間も少しの休憩だけで歩いてきていたため、ユウキ自身も体力を相当に消耗していた。だからこそ足が止まるのを承知で一度長い休憩を取ろうとしたが、もはやその時間すら残されていなかった。


「頼むよ……! 人がいる場所……! どっかにあってくれ……!」


 ユウキは涙目になりながら走ってあたりを見渡す。――そしてその願いが通じたのかもしれない。目算で数キロ先にある森の近くに煙が立っているのが見えたのだった。


「あれは……煙? あそこに……人がいるのか!?」


「人……?」


 ユウキの言葉に、背負われていたアオイが意識を取り戻して尋ねる。


「ああ! あともう少しだ! 頑張ってくれ!」


「うん……頼むよ……ユウキ……」


 ――数キロ先の煙がなぜ見えたのか。ユウキはそこまで細かいことに意識が回っていなかった。今はただ、アオイを助ける。そのことしか頭になかったのだから。


× × ×


 ユウキは歩きだし、ヒューゴと対峙しようとする。肩の激痛から頭痛まで起きていたが、今自分のすべきことを必死に頭の中で繰り返していた。シズクの能力は未だに不明であるが、ユウキでは勝てないことが明白ならアオイ達に任せるしかない。自分はまず目の前のマントの男を倒すのだと。


「おい……そのマント、お前カッコいいと思ってきてんのか? あっちの世界じゃそんな恰好したら笑われるから、こっちでカッコつけてんのか?」


 ユウキはヒューゴの赤いマントを指さしながら言う。ヒューゴは少しキレながらユウキに言う。


「うるせえな! だいたいお前だって黒いマントを全身に羽織ってたじゃねえかよ! しかもドヤ顔でよお!」


「俺はいいんだよ俺は! マント着なきゃいけない理由があんだから! だいたい今はきちんとドレスコード守ってタキシード着てるだろうが!」


「そのタキシードも似合ってねえんだよ! 中学生の子供ですら、もうちょいちゃんと正装するぞ!」


「仕方ねえだろうが! こんなの今日初めて着るんだから! 普段制服ぐらいしか着ねえんだよ!」


 低レベルな争いを繰り広げるユウキ達を見て、シーラは目を細めながら言った。


「何やってんですかあそこのオバカさん二人は……」


 アオイは頭を抱えながらシーラに言った。


「こうやって別れて遠くから見ると、私相当恥ずかしいヤツなのね……」


 コニールはアオイを慰めるように肩を叩いて言う。


「いかなる形であれ、己を振り返るのは大事だから……。今度私がアオイ君の服や化粧とかも見てやるから……」


「コニールも化粧とかちゃんとするんだ……」


 驚くシーラにコニールは呆れながら言った。


「お前は私をなんだと思ってるんだ……」


 茶番が繰り広げられている間、ヨウはスマートフォンを操作する。ヨウの能力は左で触った物質をアプリに取り込み、アプリを操作することによって特定の物質に変換するクラフト能力。それによって城に侵入する際、周囲の地面をえぐり取り、晩餐会の会場につながるまでの橋を作り上げていた。


「……シズク、この戦い出し惜しみはできないぞ……!」


 ヨウは操作を完了させると、自分用の剣、そしてヒューゴ用の槍を目の前に出現させる。そしてそれを地面を滑らせてヒューゴに渡した。その槍を見てヒューゴを驚いてヨウに言う。


「お前これ……!?」


「とっておきのダイヤモンド素材で作った武器だ。異邦人狩りを倒して貰える報酬を充てても赤字だけど、そんなこと言ってられないだろう……!?」


 ヨウは冷や汗を流し、ユウキ達を見た。


「こいつら、本当にヤバい……! 受けるクエストを間違えた……!」


 ヨウの言葉に、シズク達の間にも緊張した空気が流れる。ヒューゴも泳いでいた目線をしっかりとユウキに向けると、覚悟を決めた顔でスマートフォンを操作する。


「そうだな……。出し惜しみはできねえな……!」


 ヒューゴがスマートフォンの操作を終えると、電撃がヒューゴの傍で走り、閃光と共に剣を構えた天使が姿を現す。


「俺の持っている魔物たちの中で、最強の魔物を選んだ……! アークエンジェル、こいつが出たからにはもう、やるしかねえぞ……!」


 ヒューゴはスマホをしまうと、ヨウから貰った槍を構える。だがユウキは特段慌てることなく、地面に落ちている石を拾い、握り心地を確かめていた。


「う~ん……違うな」


 2個3個拾い、それぞれの握り心地を確かめる。明らかに隙だらけの行為だが、ヒューゴは息を飲んで攻めることができなかった。先ほどの3体の魔物が瞬殺された光景が、ヒューゴの脳裏に刻み込まれていた。あの3体もヒューゴにとっては1軍の魔物を選んだはずだった。他の異邦人を相手取っても戦えるほどに。だが、ユウキは避難する人たちをかばいながら、瞬殺するという桁外れの戦闘能力を見せていた。それがヒューゴの動きを止めてしまっていた。


「……よし、これだ」


 ユウキはようやく感じの良い石を見つけ、それを二度三度弄んで握り心地を確かめる。


「俺は小学生の頃は野球をやってたんだ。……お下がりのグローブがあったし、ユニフォームも先輩のお下がりのを好意でタダで貰えたからな。中学になってから、そんな経済的な余裕が無くなって、断念したけどさ」


「何を言っている……?」


 ヒューゴはユウキの言葉の意味がわからずに尋ねたが、次の瞬間に理解した。召喚した自分の手持ちの最強の魔物であるアークエンジェルの頭が、一瞬の衝撃と共に吹き飛ばされていたからだ。


「な……!?」


 力なく崩れていくアークエンジェルを、ヒューゴは口を開けて見ているしかできなかった。ユウキは左肩が折れた状態で石を投げたため、投げた反動で左肩をさらに痛め悶絶していた。そして痛みが治まってくると、溢れた涙を右腕で拭いてヒューゴに言った。


「……とはいえ補欠だったけどな。それでも、この距離で外さないくらいにはコントロールはあるだろ?」


「バケモンかてめえは……!」


 ユウキはもう一つ石を掴むと、投球モーションを取る。今度は自分に先ほどの投擲が来ると思い、ヒューゴは恐慌状態になって槍を構えてユウキへと突撃していく。ヒューゴが突撃してくるのを見てユウキは石を投げると、ヒューゴは恐怖から目を瞑って動きを止めてしまう。――そしてそれが命取りになった。


 石は全くの別方向に飛んでいき、ヒューゴにはカスリもしなかった。だが足を止め、目を瞑っていたヒューゴの後ろを取ることは、余りにも容易だった。


「おらあ!!!」


 ユウキはアオイに不殺魔法をかけてもらった剣をヒューゴの後頭部に振り下ろす。防御することも覚悟することも敵わず、ヒューゴの意識はユウキの一閃で吹き飛ばされていった。


「痛ってええええええええ!!!!」


 自身の攻撃の反動に耐え切れず、ユウキは左肩を抑えて蹲る。そして数秒経って痛みが落ち着くと、顔を上げてシズク達の方を見た。


「さて……こっちは何とか抑えたぞ……向こうはどうなってる……!」

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