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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第29話 大事な友達
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29-4

 ケンイチの姿が消え、握られていた世界樹の接ぎ木が手から落ちていく。もうこれで接ぎ木を手にする人間は誰もいない。もし世界樹の接ぎ木も他の22の秘宝と同じく自動で離れる仕組みであったなら、ここから離れていくはず。そして第五世代の異邦人たちが言っていた通り、この現象は終わるはず――。


「……だめか」


 1分、そして3分待って、アオイは落胆しながら言った。何も起こらない。他の秘宝は持ち主の手から離れたらすぐに飛んで行ったことを考えると、恐らく接ぎ木は他の秘宝とは別判定なのだろう。


「さてどうしようか……」


 アオイは周囲を見渡す。ユウキは未だ気を失っており、コニールは手足が骨折している。シーラも意識不明で、セシリーもジェインも同様に意識がない。インジャとスレドニは魔物を撃退するために離れており、今動けるのは上級生と思われる男子生徒が一人いるだけだった。


「……誰?」


 アオイがその男子生徒に尋ねると、その男子生徒はガックシしながら答えた。


「ブレットだよ! ……って君とはそういえば話す機会が全く無かったな……。それよりこれからどうするんだ? 世界樹の接ぎ木を取り戻したのはいいけど、何にも変わらないけど……」


「……どうしよう」


 完全に手札は尽きた。せめてケンイチから接ぎ木を取り上げるしか他に考えられることは無かったとはいえ、それが空振りに終わった今、もう万事休すであった。アオイは身体を起こそうと、何とか動きを試みてみる。


「せめて……! 次は接ぎ木を外に出してみるとか……! ブレット先輩……肩を貸して……」


 アオイがブレットに手を伸ばし、肩を借りて立ち上がろうとしたその時だった。突然空から光が降り注ぎ、接ぎ木にその光が当たる。当時に衝撃が周囲に広がり、風が舞い起こった。


「な……なに!?」


 アオイは突然広がった光に目を眩みながらも、その光の先を見ようと目を凝らす。すると何か澄んだような声が頭に広がってきた。


『まさか私自身が出向くことになるとは……』


「声……じゃない? なんだ……テレパシー?」


 困惑するアオイであったが、隣にいたブレット、そして離れて見ていたコニールの表情は困惑などでは表せないほどに、驚愕していた。


「「イ……イ……イウーリア様!!!???」」


「は!?」


 二人同時にイウーリアの名を叫び、アオイは聞き覚えのある名前に驚いて改めて光の元を見る。そこには薄い衣を纏った緑髪の美しい女性が接ぎ木を持って佇んでいた。


「あん……あなたが女神イウーリア……様……」


 アオイは言葉遣いに気をつけながらイウーリアに向けて話す。イウーリアは微笑みを浮かべながら、優しい声でアオイたちの脳内に語り掛けた。


『異邦人狩り……ユウキとアオイ。その名は聞いてはいましたが、こうして顔を合わせるのは初めてですね』


 名を言われ、アオイはドキっとしながら話を続ける。


「私を知って……いや、確か異邦人のクエストだとかなんとかで私たちの討伐依頼が出ていたはずだから知っていますか……」


『ええ。あなたたちがこの世界に来てから、何人もの異邦人を“異界返し”したことは私も知っております』


 その言葉を聞いてアオイは胸は締め付けられる感じを覚えた。そこまで知っているうえでここまで来たということは、一つのことが想像できるからだ。


「……私たちを罰しに来たんですか? 異邦人たちを倒しているから」


『罰す? 何を言っているのです?』


 イウーリアは手に持った接ぎ木を撫でながら言う。


『私がここに来た理由は、この接ぎ木を取りに来たため。あなたたちがベイツにエンドウを返してしまった為に、私がこうして回収に来なければ、魔物が大陸中にあふれかえってしまうためです』


「……なんでその接ぎ木を回収しに来たんですか。……それが必要なものだったんですか」


 アオイはできるだけ感情をこめないようにしながらも――どうしても恨み節が含まれている言い方になってしまった。この接ぎ木のために多くの犠牲者が出た。そのことがどうしてもアオイの頭から離れなかったからだ。その感情を知ってか知らずか、イウーリアは態度を一切変えずに答えた。


『ええ。必要でした。50年前に同じく異邦人であるトスキに渡し、魔物を封印させるために置いてありましたが……。新たな目的のために、改めて必要になったのです』


「それは……いったい……」


『……今それを答えている時間はありません。この接ぎ木がここにある以上、封印された魔物たちが常に現れ続けるでしょう。……ですが、私もあなたたちには興味があります。そうですね、近いうちにまたあなたたちの前に現れましょう。そしてその時、あなたたち……いや“あなた”が知りたいことについてお話しましょう』


「はっ……それは楽しみですね……」


 アオイは今度は皮肉の態度を隠さずに答えた。どうも一連の話にうさん臭さを感じずにいられなかったからだ。イウーリアはアオイに微笑みを返すと、空にまた浮いていった。


「ではごきげんよう。……“結城”君」


 イウーリアは空高く飛んでいくと、光がイウーリアを追っていくように伸びていく。そして学校の敷地を覆っていた光もイウーリアについていくように飛んでいき、学校の周りから光が消え去った。日ももう昇り始めており、光が消え去ったことで、ようやく青空がくっきり見えるようになっていた。


「終わった……?」


 アオイは学校の周りから光が消えたのを見て、感無量とばかりにつぶやいた。そしてそれに続き、遠くからアオイたちを呼ぶ声が聞こえてくる。


「おーい!」


「あれは……インジャ……」


 インジャとスレドニがアオイたちの下へ走ってきていた。アオイは彼らも事態が終わったことを察し、こちらに駆け寄ってきていたのだと思った。――しかし実態は大きく異なっていた。二人とも険しい顔をしてこちらに向かってきていたからだ。


「おい! 終わったのかよ!?」


 インジャがアオイに文句を言うように叫んで言う。続いてスレドニが必死の形相で指を指していた。


「光が消えたのに魔物が消えてねーぞ! あと数十匹は残ってるぞ!!!」


「え!!!???」


 予想外の言葉にアオイは跳ね起きて周囲の様子を見る。確かに光は消えたが、魔物の気配は消えておらず、周囲からは破壊音が未だに聞こえてきていた。


「それってヤバイじゃん!? 光が消えたら魔物は……!」


 魔物は学校の敷地を越え、街に出てしまう。それは今まで学校内に抑えられていた時に比べて脅威度が遥かに跳ね上がってしまっていた。ようやく事態を察したアオイに、インジャは怒鳴るように言った。


「さすがに街の外まで出ていく奴らは相手にできねーぞ!?」


「ど……どうしよう……」


 アオイは脂汗が全身から出始めていた。これが最後の難問なのはわかるが、先ほどと同じく回答を出すことがもう不可能だった。しかしこの難問を解かなければ待っているのは未曾有の大被害。アオイは頭を抱えて必死に考え込んだ。


「ど……どうするどうすんのよ!」


 ――しかしその答えは以外なところから出た。


「……心配すんな」


 下から声が聞こえ、アオイたちは声の主を探して辺りを見渡す。そしてその声を主はすぐにわかった。


「……ユウキ?」


 声の主はユウキだった。意識を取り戻しはしたが、まだ動けないのか、地面に這いながらアオイたちに言った。


「インジャ達には言ってなかったけど、実はちゃんとこういう場合に備えてある……光が消えたなら、その条件は満たしたってことだ」


 光が消えたことで魔物たちは結界の張ってある校舎から、障害が消え、人が校舎よりもはるかに多い街の方へと移動していく。しかし今までずっと光に慣れてしまっていた内側の者たちは、外にいる“それ”に気づかなかった。


「今だ! 行けーっ!!!」


 魔物が学校の外に足を踏み出した瞬間、鎧を着た兵士たちが魔物に向かっていく。学校中を取り囲んでおり、数多くの兵士に魔法使いたちが、魔物を迎撃していた。


「これは……!?」


 コニールが突然の兵士たちに驚いて声をあげるが、ユウキは得意げにコニールに答えた。


「俺がこっちに来る直前に、バノン家の人に頼んでいたんです。俺が何とかして学校の光の壁を消すから、そちらは外にいる有力者たちの力を総動員させて、学校から溢れるであろう魔物を外に出さないでくれって」


 そのユウキの言葉に、インジャは驚きながら尋ねた。


「な……てめえ! その話聞いてねえぞ!?」


「そりゃあ……言ってないもん。だって言ったら、お前ら下手すると兵士が何とかしてくれるからって、魔物との戦いに手を抜きかねないだろ? こっちがお前の依頼であのハージュって先生に命張らされたんだ。お前らに手抜きなんかされてたまるかよ」


「ぐ……!」


 ユウキの言う通りだった。確かにその情報を聞いていれば、スレドニはともかくインジャはまずサボったに違いない。騙された怒りよりも、一本食わされた感心の方が勝っていたが。


 武装した兵士たちが学校に残った魔物を退治していく。接ぎ木が無くなったことにより、新しい魔物が増えることもなく、学校内に蔓延る魔物の数は徐々に減ってきていた。そしてそれと同時に救出隊が学校内に入っていき、校舎に集まっている避難民たちを誘導していった。


 ユウキたちも救出隊に運ばれ、学校の外へと担架で運ばれていく。時計は7時を回っており、もう朝焼けの残り香も無い。深夜0時から7時間。一切の休憩も無くひたすら動き続けたユウキたちは、あっさり思考を手放して眠りについた。考えなければならないことが多くあることはわかってはいたが、もうそれを考える体力も無かったから――。


× × ×


 結論から言えば、22の秘宝を奪われたことで、街が特に変わることは無かった。元々滅多に秘宝を持ち出すことが無かったため、秘宝なしでも各21の有力家たちは、権威を維持できるような体制を作り上げていたのだった。


 それの象徴が学校から魔物を出さないための兵士の派遣であり、この時点で22の秘宝は全て街から無くなっていたのに、結局今まで通り各家は権力を振るって、兵士を用意したのだった。


 これはむしろ最初期の22の秘宝の結界を作り上げたトスキの影響が大きいとユウキは考えていた。オレゴンの時もそうだったが、トスキはこういった事後策を考えることが非常に上手いと思っていた。特に秘宝が無くても今まで通りの生活が維持されるようになっているのが、トスキ亡き後のオレゴンにそっくりだったからだ。


 ユウキたちは傷が癒えるまでバノン家に匿われることになった。特にユウキは被害を防ぐためとはいえ、多数の生徒に武器を向けており、安易に姿を見せれば面倒なことになりかねないという面もあった。


 ――そして5日が経った。


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