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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第3話 受け入れる現実
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3-3

 ユウキ達が謎の世界に来てから2日。草原を歩き続けているが未だ人里に出ることができず、体力を消耗していた。――正確にはアオイだけであり、ユウキは何故か疲れを感じることはなかった。それどころかアオイを背負って歩くほどの力を発揮できていた。


「お……私ってそんな力あったっけ?」


 アオイは疲れで朦朧となりながら、ユウキの背に寄りかかり言う。


「俺が帰宅部なのはお前だって知ってるだろ。……よくわからないけど、こっちに来てから妙に身体が軽いんだ」


 食料と水は持ってきていた学校のバッグに入っていたもので凌いでいた。とはいえペットボトル1本分のお茶と、少しのお菓子だけであり、それらを殆どアオイにあげていた。ユウキはどうしても渇きが我慢できなくなった時に水を少しもらっていたくらいであり、いくら身体が軽いといってもそろそろ限界が見えてきていた。


「くそ……気分が悪い……」


 アオイは目の奥がズキズキと痛み、頭を抑える。元々結城葵だった頃から体力があったとはいえなかったが、女の身体になった影響でさらに体力が落ちているようだった。


「一度休むか?」


 ユウキはアオイを降ろそうとするが、アオイは首を横に振ってこたえた。


「いや……休めば休むだけ歩くのが止まっちゃう。もう水も食料も無いんだから、1秒でも早く人里を見つけないと……」


「……わかった」


 ユウキはアオイを背負いなおすと、再び歩き始めた。ユウキがこれほどまでに他人を大事に思ったことはなかった。それが同年代の女の子なら尚更だった――それがもう一人の自分ということを除けば。


 とはいえユウキはアオイをもう一人の自分とあまり考えてはいなかった。もう一人の自分として見るにはあまりに姿が違いすぎるということもあった。だがそれ以上にユウキの中にはもっと違う感情が生まれていた。アオイの身体を抱きとめた際に、心に直感的に思ったことがあった。それは――。


× × ×


 パンギア王城晩餐会会場。王に謁見できるようにコニールが手続きを行っている間、ユウキ達は御馳走に舌鼓を打っていたが、30分経ってもコニールは現れず、ユウキ達は食事も終わり、突っ立って待っていた。


「遅いっすね、コニール」


 シーラはコニールを探すようにあたりを見渡す。ユウキは目を細めながらシーラに言った。


「お前一応コニールさんのが結構な年上なんだからさ、敬語とか使わないのかよ」


「いや~全くそんな気は無いっすね。私がそもそも敬語を使うのは、本当に目上の人か、兄さんと姉さんくらいっすよ」


「俺たちには使うんだな……」


「そりゃそうっすよ~。私は兄さんたちを尊敬してますから」


「尊敬って……なんだかこそばゆいな」


 二人の会話を聞いていたアオイがシーラに尋ねる。


「でもどうして私たちを敬ってくれるの?」


 アオイの質問にシーラは照れながら言う。


「そうやって直接聞かれるとすっげえ答えづらいんですが……。まあ、言ってしまえば……」


「お~い、3人とも。準備できたぞ~」


 自分の発言が緊張感のない言葉で取り消され、シーラは腰を折った。


「コニール~!」


「……どうした?」


 なぜか恨みがましいシーラからの視線の意味がわからずコニールは首をかしげる。ユウキとアオイは二人をなだめるように取り繕い、コニールの方へ向かっていく。


「準備ができたんですね」


 ユウキは身体の各箇所をはたき、服を改めて整える。


「ああ、陛下がこちらで待っているからついてきてくれ」


 コニールは3人を案内しようと振り向いて先を行く。ユウキ達はついていこうとするが、シーラの足取りが重かった。横にいた――というよりシーラにしがみつく必要があったアオイはシーラの異変に気付いて尋ねる。


「どうしたの?」


「いや……」


 シーラは事前に聞いていたコニールの状況と、ここまで待たされたこと、それでいて王の下へ繋げたことについて不審を抱いていた。とはいえそれはコニールに対してではない。まだ会って1日も経ってないが、コニールの行動にほぼ裏はないと確信は持てていた。――というより裏くらい作れとシーラからツッコミを入れたいくらいであったが。


 だがシーラが置かれている立場と、ここまで待たされるほどに扱いが低いことに対し、警戒を抱く必要はあった。自分が逆の立場なら――。


「シーラ、早く前に歩きたいから動いてくれない?……というかお願い、動いて……」


 アオイは足をプルプルさせながらシーラに寄りかかって言った。待っている間ただ立っている分には問題なかったが、やはり歩くのはまだ慣れていないようだった。そんな様子を見て、シーラは苦笑して答える。


「はいはい。それじゃあ行きますよ、姉さん」


 シーラはアオイの手を掴んで、アオイが歩きやすいようにその歩調に合わせるように前に進んでいった。ユウキは後ろで苦戦しているアオイ達を見て、少し邪な感情が心に浮かんでいた。


(……ちょっといいもん見れたと思うのは俺だけかな)


× × ×


 ユウキ達がコニールに案内されて会場の上座の方へ向かうと、そこではパンギア王が他の大臣たちと会話をしながら食事を取っていた。


「陛下、お連れいたしました」


 コニールが膝から屈み、パンギア王に報告する。コニールの報告を受け、王は食事を辞めて周りから人を捌けさせる。


「うむ、楽にしろ騎士コニール」


「は」


 コニールは立ち上がると三歩下がり待機姿勢を取る。そしてパンギア王はユウキ達の方へ歩いていき、友好的な笑みを顔面に張り付かせて近づいてきた。


「そなた達が“異邦人狩り”か」


「は……はい!」


 ユウキは思わず返事をして頭を下げてしまう。こういう世界に来て、こういう状況になったらもっと傍若無人に振舞えるかと思っていた――というか最初はそうしようともしていたのだが、どうしても性根に染み付いた育ちの良さというものは拭えなかった。そんなユウキの様子を見てパンギア王も意外に思ったのか、微笑みながら言った。


「フフ……どうやら事前に聞いていた印象とは違うようだな。異邦人というものはもっと不遜で、不躾であるという話を聞いていたのでな」


「……多分それは間違いではないと思います。お……僕とアオイ以外の異邦人は皆、この世界のルールを守ろうとはしておりませんでしたから」


「ぼ……僕……」


 横で話を聞いていたシーラは、借りてきた猫のようになっていたユウキに驚愕していた。それは同じく話を聞いていたコニールも同様だった。


「……そなた達はなぜ異邦人を打ち倒して回っているのだ?」


 パンギア王もユウキの人となりを把握しかねていた。異邦人が国中を荒らして回っているという情報は王の耳にも入っており、閑職送りにしたはずのコニールがたった1日で異邦人に敵対する人物を連れてきた。しかもそれが同じ異邦人であると。


 最初は異邦人であるというこの異邦人狩りを捕えて強引に話を聞きだすつもりだったが、その機先が奪われてしまった。それはこの状況を俯瞰してみていたシーラも同様の推理に至っていた。


(兄さんがお上りさん丸出しなせいで、逆に対応に困ってるな……)


 いざという時には場を荒らす決意をしていたシーラはとりあえず今の状況に胸をなでおろす。対してパンギア王から尋ねられたユウキは回答に窮して脂汗をダラダラ流していた。


「えと……その……あいつらが襲ってくるのが原因で……。自分たちで異邦人狩りを名乗った訳ではなく……」


 要領を得ないユウキの回答に周りにいる全員が呆れていた。異邦人狩りどころか単なるガキとしか言いようがなく、逆に本当に異邦人を倒したのか?と疑いの目すら向けられていた。


「そうか、では少しそなた達を試させてもらってもいいか?」


 パンギア王が手招きをすると、鎧を着た巨漢の兵士が前に出てくる。


「私の護衛に立たせていた兵士だが……。騎士コニールの報告によれば君たちは、尋常ならざる力を持っているようだな。……一つ、模擬試合といった形でここで力を見せてくれないだろうか」


 シーラは目を細めて兵士を見た。おそらく、パンギア王が最初に取ろうとしていたプランが、兵士を使ってユウキ達を捕えるというものだったのだろう。ただユウキの芋臭さに毒気を抜かれ、こうして利用したのだと。――となるとこっからは自分の出番だとも。


「陛下、少しよろしいでしょうか」


 シーラは前に出て発言しようとした。ユウキ達が万が一にも立ち回りに失敗して取返しのつかない事態になる前に、保険を打っておこうとしたのだった。だが、その必要はすぐになくなった。


 ガラスの割れた音が鳴り響き、会場にいた者たち全員がその音がした窓の方向を見る。そしてガラスが割れた原因はすぐにわかった。この場に似つかわしくない、ドレスコードを全く守っていない人物が3人いたからだった。――いや、ドレスコードを守っていないだけではない。服装がそもそも、“この世界”に似つかわしいものではなかった。一人は胴着のようなスポーツウェアを着た女性、一人はジャケットを着た男、そしてもう一人は赤いマントを羽織った男だった。


「異邦人……!」


 ユウキはその人物たちを見て直感した。というよりもこんなところに強襲をかける、クソ度胸を通り越した危機感の欠落した無謀な行動をとるのは異邦人しか存在しないと。3人のうちの、唯一の女性がユウキを指さし、不遜な態度で言い放った。


「お前が異邦人狩り、結城葵だな?悪いがここからもう逃がすつもりはない。大人しくする必要もない。……お前たちがどう抵抗しようとも、半殺しにして連れていくつもりだからな」

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