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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第26話 背負わされた信頼
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26-1

 ――ユウキが生徒寮とジェインゼミの間に立ちふさがる前、ユウキたち4人は作戦会議を行っていた。どう二つの勢力のぶつかり合いを止めるか、いかに世界樹の接ぎ木を奪うか。


 作戦内容はユウキとコニールがまず説得に向かう。ただしこれはほぼ間違いなく決裂するであろうという予測を立てており、その後にユウキが不殺魔法がかかっている大鎌で、怪我人を出すことなく全員を戦闘不能にさせる。そしてその騒動の隙に、アオイがシーラを瞬間移動で飛ばし、トリーから接ぎ木を奪う。


 シーラが考えたその作戦に異議はなかった。説得役はコニール以外に考えられず、トリーから接ぎ木を奪う役もアオイが射出役で固定され、コニールが手足を骨折している以上、シーラがやるしかないのだから。


「兄さん兄さん、ちょっとお話が」


「ん? なんだ?」


 シーラはユウキが生徒たちの間に行く前に声をかけた。


「一つだけ伝えておくことがあります。……生徒寮側の奴らですが、ほぼ全員がジェインゼミの生徒……だけでなく、その他の成績が低い生徒をイジメている奴らです」


 シーラの突然の情報に、ユウキは戸惑いながら尋ねた。


「……それが? ……もしかしてシーラもイジメられてたってことか?」


「……ええ」


 シーラは少し間を置いて続けた。


「それもありますがそれだけではないです。……ようは思いっきりぶっ倒してもそこまで罪悪感を感じなくていいよってことです」


「おいおいおい……一応あくまで説得が先なんだからさ。最初っからぶん殴る方向で考えないでくれよ。特にお前が」


 ユウキは苦笑いを浮かべた。思えばこの会話も怪しいものだと気づくべきだった。説得が上手くいった場合のことを考えていない。――むしろ説得が失敗する方に期待をしていると。


× × ×


 エンドウの姿が完全に消え、第五世代の異邦人がこの結界の中から完全にいなくなった。シーラはエンドウの持っていた皇帝の王笏を、エンドウが完全に消える前に拾ったベイツが持っていた月の欠片はベイツが手放した際に消えていったが、シーラの手にある皇帝の王笏は、消えることはなかった。


「なるほど……その所持者が正当なものじゃなくても、持っているなら飛んでいかないわけね。そりゃあ最初は第四世代のケンイチに集めさせようとしていたわけだし、勝手に飛んでいく仕様にはしないか」


 冷静に状況を把握するシーラだが、対してユウキたちは言葉を発することもできずただ立ち尽くしていた。そこに異常事態を察したアオイがやってくる。


「ユウキ!? いったい何が起こっているの!?」


 アオイもシーラを飛ばすために半径20m以内で待機していたため、すぐに合流できた。シーラを飛ばすところまでは上手くいっていたはずなのに、一向に光の壁が消えないことで、アオイも異常が起こったことがわかったのだった。


「シーラ……! あんた……!」


「姉さん……」


 アオイを見て、シーラは複雑な表情を浮かべる。ユウキの知る限り、この二人は特に仲が良さそうに見えていた。シーラがアオイに魔法を教えていたこともあり、二人で行動することが多かったからだ。


「どうして……? いったいなんで……!?」


 アオイの問いにシーラは顔をそらしながら答えた。


「なぜってこれが私の目的だったからですよ。ひいお祖母ちゃんが兄さんと姉さんを私に紹介したのも、これが狙いだったからです。本当はもうちょい誘導して探らせるつもりだったんですが、都合のいいことに接ぎ木を狙っている奴らが他にいたんでね。上手く利用させてもらいましたよ」


 ユウキとアオイは、こちらの世界に来てすぐ世話になったディアナのことを思い出した。


「ディアナさんが私たちを……?」


 たしかにユウキたちがシーラと出会ったのは、ディアナの口添えがあったからだ。ユウキたちが元の世界に戻るのに、必ず力になってくれると。しかしディアナが悪意を持ってユウキたちを利用していたかというと、二人はそうは思えなかった。なぜなら二人を世話していた時のディアナは、何よりも親切であり、それに“シーラには言っていないある出来事”もその判断を助長させていた。


「……ディアナさんは、本当にひ孫に私たちを利用させるために送り込んだの?」


 アオイはそう口にするが、ユウキは首を振って否定した。


「いや……違う。ただシーラにはそういう目的で俺たちを寄越したと伝えていたかもしれない。……だけど、今その意味がわかった気がする」


 ユウキの言葉にアオイも同意した。


「ええ、そうね。私も同意見だと思う。ディアナさんは……」


「これは……!?」


 突然聞こえた声にユウキたちは振り向いた。そこにはセシリーとハージュがおり、疲労困憊で力の無いセシリーをハージュが支えていた。ハージュは周囲に倒れている生徒たちと、世界樹の接ぎ木を持っているシーラを見て、目を見開いた。


「まさか……シーラ・ロマンディ……貴様……!」


 セシリーも魔力切れの身体を起こし、シーラを見て悲しみの表情を浮かべた。


「シーラ……! あなたはまさか……!」


 ハージュは次にユウキとアオイの事を見ながら言った。


「お前たちがインジャと関係を持っていたのは聞いている。そして俺……いや、“私”の弟弟子であるロンゾを、お前たちが倒したということも」


 ハージュは地面に伏しているケンイチを見た。ケンイチも先ほどユウキに消えない程度に痛めつけられ、息も絶え絶えの状態で動けなくなっていた。


「……世界樹の接ぎ木を手に入れるために、全ての人間を犠牲にしてきたというわけか。なるほど、インジャの仲間らしい下劣さの持ち主ということだな」


「……え? ちょっと待っ……」


 ユウキはハージュが何か致命的な誤解をしていることにようやく気付く。確かにユウキ自身、インジャの弟子ということに異論は無い。そしてロンゾという怪盗団の一味を倒し、官憲に引き渡しもした。一触即発状態だった生徒たちを問答無用で全員なぎ倒し、結果としてシーラの世界樹の接ぎ木を手にいれる計画に加担してしまっていた。


「って誤解もクソもないなこれ……」


 ユウキは冷静に考え直して自分はいかにメチャクチャなことをやってきたか、改めて自覚することになった。そして同時にハージュへの説得が困難だということも。ハージュはセシリーを離すと、深く呼吸をする。


「コォォォォォ…………カッ!!!」


 そして力を込めた瞬間、ハージュの上半身の服が弾け飛び、筋肉が隆起する。その光景を見てユウキとアオイは驚きのあまり口をあんぐりと開けていた。


「な……なあっ!?」


「い……いったい何よ!?」


 ハージュのあまりの変わりようについ今まで支えられていたセシリーも動揺しながら尋ねた。


「ハ……ハージュ先生……? いったい……?」


「……私が明神崩玉拳を学んでいたことは伝えておりましたが、肝心なことまでは伝えておりませんでした。……私はこの明神崩玉拳の師範であり……破戒者であるインジャを抹殺するためにこの東大陸にやってきました」


 ハージュは拳をバキバキと鳴らし、ユウキたちの方へ歩みを進める。


「そして目の前の彼らはインジャと関係があり……無関係である生徒たちを傷つけ、己が目的を果たそうとしている……。明神崩玉拳を受け継ぐ者として、決して許せることではない……!」


 強烈な殺意を向けてくるハージュにユウキは咄嗟にアオイをかばった。


「かなりヤバい……! 俺はアイツを食い止める! その間にアオイはシーラから接ぎ木を奪ってくれ!」


「奪うって……!? それってシーラと……! それに奪ったところでもうエンドウは……!」


「そっから先は俺に考えがある! 今はシーラを何としても止めるんだ!」


「……わかった!」


「待って!」


 急に呼び止める声が聞こえ、アオイはびくっとしてその声の主を見る。そこにはジェインが立っており、息を切らせながらアオイの肩を掴んでいた。


「う……うわっ!? ジェイン先生!? どうしたんで……」


「私にも手伝わせて……!」


「え!?」


 ジェインの突然の申し出にアオイは困惑していた。先ほどまでトリーが持っているのを黙認するばかりか、その横にずっといたというのに、今更何を言い出すのだろうと。しかしジェインはそのアオイの考えを察してか、理由を話し始める。


「私だってあんなものは誰も持つべきでないとわかっているわ。だけどトリーの時はすでに手にされていて、私一人の力では取り返しようがなかった……! だからせめて暴走はしないようにと、生徒たちの傍にいた。……だけどシーラは違う。あの子は持っていたら確実に暴走する。止められるのは今しかない……!」


「酷い言いようじゃない、ジェイン“先生”」


 シーラが煽るように言うが、ジェインはシーラに同情するように言う。


「わかってる。あなたがなぜその接ぎ木に、魔力を得ることにこだわるか……。それはロマンディ家のためでも、セシリーのためでもなければ、自分のためでもない……。“ヘレン”のためにでしょう?」


 “ヘレン”。その名前を出された途端、シーラの顔が怒りに染まり、周囲に風が吹き荒れる。


「黙れ……黙れえぇぇぇ!!!」


 荒れ狂う魔力により空間がゆがめられ、シーラを中心に風が吹き荒れていた。その強大な魔力を見て、アオイとジェインは身を怯ませる。


「こんな力が……! トリーの時より遥かに強くなっている……!」


 ジェインはトリーが発揮していた力と比べ、シーラの力が圧倒的に上回っていた。ジェインはその想定外の力がなぜシーラから発揮されているのかを予想する。


「トリーと違って魔力を割り振っていないから? それともシーラの才能がトリーよりも上だから?」


「……時間経過とともに接ぎ木の力が解放されてきているから、っていうのもあると思います」


 ジェインの予測に付け足すように、アオイが自分の予測を口にした。そして周りを指さす。その先には魔物が出現し、校内を彷徨っていた。


「魔物がいくら倒しても次から次へと現れていく……。先ほどユウキから聞いたんですが、接ぎ木は本来魔物を封印を目的としていたらしいです。それが解き放たれてるたびに、あの接ぎ木に力が戻ってきているのでは……?」


 ジェインはアオイの予測に息を飲んだ。時間をかければかけるほど魔物が増えてしまうだけでなく、シーラが徐々に強化されていってしまう。つまりもう“時間”が無い。そこまで考えが至ったアオイはから笑いを浮かべた。


「ははは……本当に時間、時間、時間って言い続けた夜だったなぁ……。どこまで行っても時間が足りない、余裕がない、問題を解決しても次の問題が山のように積まれていく。……疲れた……けど」


「絶対に諦めてなんかやらない。……俺……いや、“俺私おれたち”ってこんな強かったっけ?」


 ユウキはアオイの言葉に続けるように言った。アオイは自嘲気味に笑って返答する。


「いや、絶対にそれはないでしょ。こんなクサイことも大真面目に言うタイプじゃ絶対無かった。……だけどさ」


 アオイは背後にいるユウキに振り向かず、前にいるシーラから目をそらさずに言った。


「やっぱ仲間のために戦うって、違うよねって。……結城葵じゃあ、そんなこと考えもしなかった」


 ユウキもアオイには振り向かずに、向かってくるハージュを睨みつけた。


「ああ、そうだな。……そっちは頼むぜ? 相棒」


「ええ、任された。相棒」


 ユウキとアオイは同時に前へ一歩踏み出していく。ユウキはハージュを、アオイはシーラを止めるために。そして二人は気合をいれるかのように同時に叫んだ。


「「やってやるよ!!!」」

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