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【書籍化】聖女の力で婚約者を奪われたけど、やり直すからには好きにはさせない  作者: 星見うさぎ
番外編

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役立たずの返上(前)

最初はメイの軽い番外編から始めます。よろしくお願いします!

 

「メイちゃん!それくらいアタシがやるよお!無理しないで」

「こんなの生活魔法でちょちょいだから、心配いらないからね」

「メイちゃんありがとう!でもここはいいからあっちであれを――」


 クルサナ村は本当にいいところだ。メイはそう思っている。

 皆が優しくて、温かで、いつだって声を掛けてくれて、助けてくれる。


(でも、私は皆に何ができるの?)



「生活魔法も使えないなんて本当にあんたは役立たずのごくつぶしね!」



 ただ一人メイに厳しい言葉を浴びせるユウナを、皆が叱り、またメイを助けてくれる。その気持ちが嬉しくて、同時に申し訳なくて、いつもにこにこ笑顔でいるようにしていたけど、気持ちが晴れることはなかった。


(ユウナちゃんの言う通りだ……私だけが、なんにもできない)



 メイは些細な生活魔法すら全く使えない。こんな小さな村で、属性魔法が使えないのはみんな一緒だった。だけど、生活魔法なら……小さな子供でも、歩くのが大変になったお年寄りでも使えるのに。おまけにその体に魔法は一切効かなかった。些細な怪我を治癒することだってかなわない。だから村の皆はいつも心配して、メイを助けてくれた。生活魔法が使えないメイを。生活魔法が効かないメイを。生活魔法が使えなくて1人で困らないように。うっかり怪我してしまわないように。



 皆の優しさが嬉しいのに、優しくされればされる程同時に惨めで不安な気持ちになった。メイは真面目な子供だった。心も優しかった。甘やかされることを当然と思うような傲慢さを持っている方が楽だったかもしれない。だけど、そうではなかった。いつも心のどこかに大きな焦りがあった。


 メイのことを他には誰も責めない。だから実はユウナに責められることが、辛くて苦しくて泣いてしまうのに、すごく安心した。



「役立たずのくせに、いつも皆にしてもらうばっかり!いつだってお姫様気取りでいい気なものね!」


(そんなことないのに……お姫様気取りなんて、そんなこと思ったことないよ)


 それでもメイは何も言えなかった。そんなことはないと思う反面、「その通りだな」と思っていたからだ。ただ目にいっぱいの涙をためて、悔しさと恥ずかしさで心をめちゃくちゃにした。


 そんな時は、いつだってルッツが側に来てくれた。


「ユウナ!いつもメイに酷いことばっかり言うのは止めろって何回言ったら分かるんだ!……メイ、大丈夫か?遅くなってごめんな?」



 そう言ってユウナを追い払い、目を真っ赤にしたメイの顔を困ったように覗き込む。優しく頭を撫でて慰めてくれる。時にはぎゅっと抱きしめてくれた。落ち着くまで背中をさすってくれた時もあった。

 いつだって、こうやってルッツはメイを助けに来てくれた。

 そうして優しい笑顔で励ましてくれるのだ。


「……メイ。本当にお前は俺が居なきゃ何もできないんだから、仕方ない奴だな。生活魔法が使えなくて足手まといなのは絶対にお前のせいじゃないんだから、もう泣くな。俺がずっと一緒にいてやるからな」







(そういえばずっと思っていたなあ。いつもルッツを頼って、感謝して……)


 ずっと思っていた。


「自分は役立たずで、足手まといだから」「私はルッツがいないと何もできない」「生活魔法も使えない私はなんてダメな奴なんだ」「お荷物のごくつぶし」


「誰かのために、私が出来ることなんてなに1つだってないんだ」




 それが変わることになったのは、1人の貴族の男性がある日村に立ち寄ったときのこと。

 いつものようにユウナに責められていた時に、その人は偶然現れた。その時はたまたまルッツが村の外に買い出しに行っていて、駆け付けてきてはくれなかった。



「……君は、どうして役立たずだと言われているんだい?」


 ひとしきりメイをなじり満足したユウナが去った後、その人は突然現れてメイにそう聞いた。単純に不思議に思っているという顔をしていた。恥ずかしくて消えてしまいたくなったけど、明らかに身なりの良い男性に、きっと偉いお貴族様だと思ったメイは答えないわけにはいかなかった。




(ただでさえ役立たずなのに、お貴族様のご機嫌を損ねて皆に迷惑かけちゃったらどうしよう……!)



 そう思ってメイは必死で自分の話をした。


「君、本当に魔法が全く効かないのかい?それは――」


(ああ、なんてダメな奴だって、役立たずだって、言われるのかな……)

 そう思って目をぎゅっと瞑り身構えたメイだったが、続いた言葉は思いもよらないものだった。


「――それは素晴らしいね!私は王都で多くの人に会う仕事をしているが、君のような子に会ったのは初めてだよ!……君、16歳になったら王都の学園に通ってみないかい?良ければ私が推薦して、必要ならば学費も出そう。遠慮はしなくていいよ、君は特別な存在なんだから」



 思わずぼろっと涙が零れた。さっきまで泣いていたから涙腺が緩んでいるんだと、意味もなく自分に言い訳した。

 信じられなかった。


(私が、特別な存在……?)


 男性は上機嫌でメイに色々な話をしてくれた。王都のこと、学園のこと、メイが生活魔法を使えず、受け付けないのは特異体質だろう、それは特別で尊いものだ、探せば君のような子が他にもいるのかもしれないね、そんな人のために生活魔法が使えなくても扱えるような魔道具をつくるなんてどうだい、それはきっと君にしかできないことだよ。




『君にしかできないことだよ』


 その言葉を聞いた瞬間、メイの心は決まった。







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