2度目の卒業パーティー
テオドール様にエスコートされ、会場に入る。
私達が姿を見せると、会場中から小さな歓声やほうっと言ったため息が漏れた。
「今日も目立っているね、2人揃うとやっぱり圧巻だ」
「カイゼル」
そっと近づいてきたカイゼルが笑いながらそんなことを言う。
隣には彼にエスコートされながら同じように笑うサマンサ様。
あれから、エドウィン様はこれまでのように目立つ存在ではなくなったものの学園に残ったが、リューファス様は婚約解消後、学園へは来なくなった。
そのためパーティーでは相手のいない者同士、余計な感情のない者同士、この2人が利害の一致とばかりにパートナーを務めている。
「エリアナ様、お互い卒業おめでとうございます。今日も完璧に美しいですわ!そして今日のドレスも素晴らしいですわね……テオドール殿下、相変わらず愛が重くて素敵です」
「卒業おめでとうサマンサ嬢。そういう君もまたドレスに紫色を入れたのか……ちなみに愛が重いは誉め言葉だよ、ありがとう」
にっこり笑ってテオドール様を揶揄うサマンサ様に、笑顔で飄々と返すテオドール様。
この2年、パーティーの度に私を片時も離さず独占したがるテオドール様と、同じように私の側にいたがるサマンサ様はなぜかこうして静かにバチバチやり合うようになった。
もちろん本当に仲が悪いわけではない。むしろ笑ってしまうほど仲良くなっている。
たまにこっそり私の話で盛り上がっているのを知っている。恥ずかしいので止めてほしい。
「この2人も相変わらず仲が良くて何よりだよ……とはいえ、本当に今日のドレスも良く似合ってて綺麗だよ。ランスロット様がまた悔しがったんじゃない?」
「ふふふ、自分がエスコートしたいって最後まで駄々をこねて大変だったわ」
1度目の今日はお兄様にエスコートしてもらった。そう思うとちょっとかわいそうにも思うけど、残念ながらお兄様は今日はお留守番。私も一緒に参加してもらえたら嬉しかったけれど、王族か卒業生のパートナーでなければ参加はできないから仕方ない。
「もう!全員目立つんですって!すごーく見られてますよ!」
「あら、メイ遅かったわね」
「サマンサ様がこの人数の中エリアナ様の所へ辿り着くのが早すぎるんですよ……」
呆れたように返すメイとどこ吹く風のサマンサ様の掛け合いもいつもの光景だ。
相変わらずメイのエスコート役をしているジミーが側で笑っている。パーティーではいつもそう。こんな風に笑っている間にいつのまにか皆が集まってくるところまでがお決まりだ。キースとナターシャもこちらに近づき輪に加わる。
「学生としてこうしてお話しできるのも最後だと思うと少し寂しいですねえ」
ナターシャがそっと微笑む。
「さすがに今迄みたいにはいかなくなるけど、それでもずっと友人だと思ってますから」
キースがみんなを見回して明るく言った。
「もちろんよ!皆のこと、今までもこれからも変わらず大好きよ」
「エリアナ様……!」
メイが目に涙を浮かべて感激したように私の腕に飛びついた。相変わらずこの子は涙もろくて可愛いのだ。
マリンや他の皆、2年の間に新しく友人になった生徒達も私たちの周りに集まって笑っている。ドミニクは相変わらずテオドール殿下に捕まりこそこそと何事か話している。そんな光景すら微笑ましい。
そうして話しているうちに、あっという間に楽団の演奏が始まった。
テオドール殿下がにこりと笑って私に手を差し出す。
私達のファーストダンスに皆が注目している。
「エリアナ、君は本当に人気者だね。君が大好きな人達に囲まれている姿を見るのが私の幸せの1つだ」
踊りながら、テオドール様はそんなことをおっしゃった。
色々あった。本当に色々。だけどこうしてたくさんの大好きな人達に笑顔を向けられていると、起こったことの全てが今日の幸せにつながっていたと思える。ジェイド殿下のことがなければ?私が聖女じゃなければ?やり直しなんてできなかったとしたら?色んな未来が可能性としてあったと思う。悲しいことももちろんあった。
それでもきっと、今の現実が1番幸せだと胸を張って言える。
「……でも、1番の幸せはやっぱり、こうして私の腕の中にエリアナがいることだ」
テオドール様は私の腰に回した腕にぎゅっと力を入れて体をさらに引き寄せる。
まるで抱きしめ合うような距離で、でもリードにぶれがないのはさすがの一言だ。
「私も……どんな幸せな瞬間も心の真ん中にはいつだってテオ様がいます」
私の言葉にテオドール様は幸せで仕方ないというように甘く微笑んだ。
周りから悲鳴に似たため息が聞こえる。
――1度目は、ここでジェイド殿下に謂れなき罪で責め立てられ断罪された。私の味方は1人もいなくて、誰もが冷たい視線と憎しみをこちらに向けた。
同じ場所で今、こんなにも笑顔に溢れていて、頼もしく愛すべき味方ばかりで……。
そして、心から愛する人に、溢れんばかりの愛を貰って幸せに溺れている。
皆の熱い視線を感じながら、それでもまるで2人きりの世界のように、私たちは幸せをかみしめながら踊り続けた。
「テオドール殿下!今日くらいはエリアナ様を独占するのはおやめくださいませ!」
踊り終わった私達にすぐ近寄ってきて、サマンサ様がテオドール様に詰め寄る。あまりの勢いについ吹き出してしまった。ちらりと隣に立つテオドール様を見上げると、ものすごく渋い顔をしていた。
「エリアナは私のだ!……と言いたいところだけど……そうだな、今日くらいは仕方ないか。目を輝かせている君の愛する仲間たちにも少しは譲らないとね。……愛するエリー、楽しんでおいで」
テオドール様はそう言って見せつけるように私の額にキスを落とした。
期待に目を輝かせていた皆が、一斉に私を取り囲む。
カイゼルとドミニクだけは「他のご令嬢の誘いを受けないように」とテオドール様に連れていかれる。この時ばかりはドミニクがちょっと抵抗していた。「僕もエリアナ様とお話を……」「ドミニク、君だけ逃げるなんて許さないよ!」……今度カイゼルとドミニクには何か労わりの品を贈ろうと思う。
そうして、幸せに包まれた2度目の卒業パーティーの夜は、温かい笑顔に囲まれてあっというまに更けていった。
この後エピローグの投稿をします。




