封印地を探して
王都に帰りつき、次の日は1日休養日として各自ゆっくりと体を休めた。
その次の日からはさっそくメイとサマンサ様と3人で大魔女の封印地を探している。
けれど……状況は芳しくない。
前を歩いていたメイがこちらを振り向く。
「エリアナ様、ここはどうですか?」
今日は地図に印がつけられたポイントの1つ、学園の裏手にある丘の先に来ていた。
手入れをされていない、寂れた石碑のようなものがある場所。その石碑に手を触れる。
「ここも違うわ……何も感じない」
リタフールの古神殿から持ち出した文献を読み解いたところ、少なくとも封印された場所に直接手を触れれば間違いなくその魔力を感じ取れるはずだ。私達3人は聖女である私が必ず分かるはずだし、お兄様、カイゼル、テオドール殿下の場合にはカイゼルがいる。
彼は魔力の質や流れも分かる上に、1度目にデイジーの異質な力の影響を受け続けていた経験がある。手を触れ、大魔女の力が少しでも感じ取れれば分かるはずだった。
毎日どこか印のついたポイントを確かめ、ついでにその場所の近くで可能性がありそうな場所を手当たり次第に確認して回る。
そうしてその日の捜索が終わった後には3人で魔法の練習をしたり、魔力交換などをするのだ。
私はメイに魔力を一定のペースで吸収してもらい、魔力の底上げを図る。
メイは私の魔力を巡らすことで魔力操作が飛躍的にしやすくなるようだった。
そして1番負担が大きいのはサマンサ様で、メイに魔力を枯渇するまで吸収してもらい、その後私が治癒を施し、魔力を少し譲渡する。
「サマンサ様、この方法では体が辛いでしょう?毎日する必要はないですよ?」
毎日別れる時に顔色が悪いのが気になりそう提案する。しかしサマンサ様の意思は固かった。
「私だけ2人に後れを取るわけにはいきません!いざというときに出来る限り助けになれるようにしたいのです。どうかお願いします」
「サマンサ様……本当にきついときには言ってくださいね」
こうして私達は封印地を探すとともに、毎日能力の向上にいそしんでいた。
全ては大魔女の封印が解けてしまう前に封印地を探し当て、その存在を消滅させるため。
そして、最悪の場合も想定し、万が一の時にその力に対抗できるようにするため。
******
「お兄様、どうでしたか?」
「残念ながら、こちらも今日も収穫はなかったよ」
「そうですか……」
1日の終わりに、邸でお兄様とその日の進捗を報告し合うのも日課になっていた。
どの場所を探したか、地図にバツ印を書き込み、明日はお互いどのあたりを探すか予定を立てる。
すでに探した場所にも後から何かがヒントになる場合があるかもしれないと、何もなくともどんな様子だったかなどを話し合いながら。
ちなみに、実はテオドール殿下は全く捜索に参加できていない。
王都をあけていた間の公務がたまっていて、身動きが取れないのだ。
ジェイド殿下が……全く公務を行っていなかったから。
本来そんなジェイド殿下を諫めるはずの立場の人間は、揃ってデイジーとジェイド殿下の味方になっていた。
「エリアナ、大丈夫か?」
「え?」
お兄様がふとそんな風に言いながら、私の頬にそっと手を添える。
「最近顔色が悪い。夜眠れている?」
ふと、最近よく見る夢に思いを馳せる。
「大丈夫よ、ちゃんと眠れているわ。魔力の底上げを急いでいるから少し疲れているのかも」
「そうか。眠れているならいいんだけど、焦るのも分かるがあまり無理をしないで」
「お兄様……ありがとう」
お兄様の言う通り、私は焦っていた。
本能的にタイムリミットのように感じている、私たちの学園2年目のはじまりまであと2週間もない。
もしもその時が来たからとすぐにどうこうなることがなかったとしても、大魔女の封印がいつ解けるかも分からない上に、冬休みが終わり学園が始まってしまえばこうして捜索する時間もなかなか確保できなくなる。
この休みの間に、なんとか見つけなければ。
寝支度を整え、部屋に戻り寝台の中に潜り込む。
そうして焦っているから、こんな夢を見るのだ。
******
私は暗い暗い場所を、ひたすら歩いている。
何も見えない、前も、後ろも、まっすぐ立っているのかも分からないような真っ暗な空間。
足を動かして前に進んでいるつもりだけど、体が本当にその場所から動いているのかどうかももうよく分からない。
飲み込まれそうな闇に底知れぬ不安を感じながら、止まっては戻れなくなると、そんな気がして必死で足を動かす。
その感覚は言い表せない。なぜだか今まで見たどんな夢より怖い。
悪夢だ。
ひたすら歩いていると、少しだけ光の差す場所が見えてくる。
ほっと安堵して急いで走ってその場所へ向かう。
助かった!もう大丈夫だ!
そう思うのに、そこには人影がある。
小さな小さな背中が振り向くと、それは能面のように表情を失くした幼い自分。
そんな自分が、ボソボソと何か呟いている。
なんて言っているのか集中してみても聞き取れなくて、仕方なく私は自分に話しかける。
大丈夫なのだろうか?何か苦しいことがあったのだろうか?
そんな風に、心配して。助けを求めているように見えて。
「なんて言っているの?」
『―――――――――』
「え?もう1度言ってくれる?」
『―――――――――』
「聞こえないの、もう少し大きな声で」
そして、突然声は大音量で届いた。
『裏切者!!!!!!』
え――……?
予想外の言葉に、頭がガツンと痺れた。
一瞬で指先が冷え切り、足が震える。血の気が一気に引いていく。
だけどそれでは終わらない。そこから小さな私は、今の私に延々と呪詛を吐き続けた。
『酷い女!』
『あなたなんか最低よ!』
『デイジーの力なんて、言い訳にならない!』
『愛していると言ったくせに、どうして忘れられるの!』
「――っ!!!」
衝撃に、一気に頭が覚醒する。寝台の上で飛び起きて、肩で息を繰り返した。
寒い夜なのに、汗でびっしょりになっていた。
震える手で、顔を覆い隠し大きく息を吐く。
ジェイド殿下の冷たい顔がよぎった。
「忘れてなんかいないのに……」
そう呟きながら、だけど思い出せないこともたくさんあると言うことが頭を巡る。
夢の私は、忘れている大事な何かのことを言っているの?
その何かはそれほどまでに大事なことで、そんな自分を責めているの?
それとも……。




