カイゼルの興味
本日2話目の更新です。
メイの故郷は、タダナ地方のクルサナ村という場所らしい。
話を聞いてみると、目的地である例の古神殿にも行ったことがあるのだと言う。
「クルサナから1番近い神殿がそこになるので、私達は月に1度お祈りに行くのが習慣でした」
件の神殿はタダナの中心部から少し離れたリタフールという街にあり、クルサナ村からは馬車で数十分しか離れていないのだとか。メイはリタフールの神官様のこともよく知っていた。その神官様こそミシェル夫人に神殿の秘匿を教えた人物だ。
色々話した結果、私やサマンサ様はメイの里帰りに友人として同行し、テオドール殿下とお兄様、カイゼルはリタフールの隣のタダナ辺境伯領地に公務として視察に行くという名目で冬休みに向かうことに決定した。
そして、その後合流し全員でリタフールの神殿に行く。
それまでは引き続き、テオドール殿下やお兄様は王家の至宝についてと大魔女の封印地について調べ、カイゼルはデイジー達の側につき、私達はもしもの時のために戦う力を磨いておくことが最優先になる。
「それじゃあ、今日はこれで失礼するよ」
そう言ってテオドール殿下はお兄様を伴い我が家を後にした。
残ったのは私とサマンサ様、それにメイと、てっきり殿下達と帰るのかと思っていたカイゼル。
「カイゼル?私達せっかくだからこれからお茶にするんだけど、あなたも一緒にどう?」
事情を知る前のサマンサ様とメイは、カイゼルもデイジーに傾倒している1人だと思っていたわけで。それが違うと分かった今、これから力を合わせていく者同士、親睦を深めておくのもいいかと思ってそう提案してみたのだけど。
「あのさ……もしよければ、君の魔法を見てみたいんだけどダメかな?」
カイゼルが熱い視線を送る先には。
「わ、わたしですかっ?」
目を泳がせて戸惑うメイの姿。
どうも、魔法の天才カイゼルは、希少魔法であるメイの反魔法が気になって仕方ないらしい。
「ちょっと、カイゼル」
「こんなに近くに反魔法適性者がいるんだから、見せてもらいたいと思うのは当然だろう?」
子供のように目を輝かせるカイゼルに思わずサマンサ様が笑いを漏らす。
メイも、嫌なわけではないよう。やはり自分の力に興味を持ってもらえるのは嬉しいものだ。
確かに、お互いの力を見せ合っておくのもいいかもしれない。
私達はひとまず予定通り私の部屋にお茶を準備してもらい、その上でカイゼルの希望を聞くことにした。
「とりあえず……反魔法を披露するって何をお見せしたらいいですか……?」
お茶の準備をしてくれたリッカが退室して4人になったところでメイがそんな風に首を捻って悩み始める。
「ちなみに君は反魔法でどんなことができるの?」
「えっと……魔力反射と魔力吸収、魔力拒絶が常時強制発動であとは魔法無効化ができます」
「えー!す、すごい!エリアナにちょっとは聞いてたけど、改めて聞くと本当にすごい!魔法騎士ならいざ知らず、純粋な魔法使い相手なら君は無敵だね!僕は腕力にはあまり自信がないから、君には絶対に勝てないや!」
「えっ!?えへへ……でも攻撃魔法は使えないですし……」
「いや、魔力吸収だけで魔法使いには十分な攻撃だろう?僕はきっと手も足も出ない」
「ふへ、ふへへ……いや、でもぉ、うーん、そ、そうですかあ~?」
ニマニマと顔を緩ませながら落ち着きがなくなっていくメイ。
カイゼルは魔法での戦闘ではなかなか敵う者がいないと言われる程の才能を持っている。これまで交流がなかったとはいえその評判はメイも知るところなので、そんな彼に賞賛の言葉を浴びせられて喜びを抑えきれないようだった。
私とサマンサ様は用意された紅茶をゆっくり飲みながら、そんな彼女をまるで姉のような気分で微笑ましく見守っていた。
そう、私たちの友人はすごいのだ。おまけにメイは努力家で、その特性から魔力を使ってのコントロールが難しいとされている反魔法を着実に自分の物にしている。
「ちょっと僕の魔力吸収してみてくれない?」
「も、もう!危ないからちょっとだけですよ!……はい」
「うわ!うわ!すごい!なんかもう言葉にならない!こんなの初めてだ!」
「ふ、ふう~!もうっ、もうっ!おおげさですって~!」
カイゼルはひとしきり反魔法を受け、堪能し、メイは褒め殺しのような時間にうきうきで力を使い……私にはよく分かった。驚くことにこの時間だけでメイの魔力量が少しだけ増えている。
実は、サマンサ様の右腕を治癒して以来、カイゼルのように魔力の質や、なんとなくの量などが感じ取れるようになっていた。
ミハエルが言っていた、『感情が揺さぶられるたびに一足跳びに能力が向上する』というのはこういうことなのかと思う。何も、覚醒したときと全く同じ感情じゃなくていいわけだ。
サマンサ様を治すと決意し、聖女としての自覚と戦う覚悟を持った瞬間、自分の中の青い炎が揺らめいたのを感じたことを思い出す。
きっと、そういうことなのだと思う。
恐らくメイも、魔法を使うときの感情で成長のスピードが変わるのではないだろうか?そんなことが普通にあることなのかは分からないので、2人が落ち着いたらカイゼルに聞いてみよう。
それから、サマンサ様の魔力の質も少し変わった。
これについては彼女本人の心の在りようが大きく変わったタイミングで、私の魔力が文字通り血肉になったことで影響があったのではと思っている。
「じゃあ、メイ、また君の反魔法を受けさせてね!」
「はい、カイゼル様!次回はもっとびっくりさせられるように新技習得して見せます!」
帰る頃にはすっかり仲良くなった2人に思わず笑ってしまう。
結局、カイゼルとメイは夕方までそうして互いの魔法を交わしてははしゃぎ、私とサマンサ様はそれを見ながらお茶を楽しんでその日は終わったのだった。
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夜1人になった自室で私は1通の手紙を読んでいた。
差出人はスヴァン王国ダッドリー辺境伯夫人のミシェル様。
あれから私は彼女を『ミシェル様』と呼ばせていただき、文通をする仲になっていた。
今では彼女も、私を支えてくれる温かい人の1人だ。
前回私がミシェル様への手紙を書いたのはサマンサ様の治癒をした頃。
遅ればせながら聖女としての覚悟と自覚を持った私は、常々感じていた、遅々として事態が進まない焦りを零していた。
『今のエリアナ様に贈りたい昔の神殿の教えがあります。
本当に必要な人には本当に必要な時に本当に必要なことが起こります。
為したいことが為すべきことならば、あなたはただ機会を待てばいい。
機会が訪れないならば、それを為すべき為に足りないものを集めている最中です。
エリアナ様、今の時間はきっと無駄ではありません。』
その言葉を目にした時、追い詰められるように心の奥底で感じていた焦燥がふっと軽くなるのを感じた。ミシェル様はすごい。
機会が訪れたとき、足りないものがないように、日々の小さなものを拾いそびれないように頑張ろう。
そう思った。




