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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
57/67

第48話 優しい家族の話し合い

2013/12/21 指摘のあった誤字を修正しました。

「―――と、そんなわけでクチナは私達の一座と一緒に旅をしてたわけだね」

「最初はビックリしたけど、一緒に旅してるうちにクチナがすごくいい娘ってわかったんです」

「何考えてるかわかんないところあるけど、悪い娘じゃないですよ」


 マフィーとコラットは街中での印象を払拭しようと色々と弁明する。

 フロックスの家へ到着し、迎えてくれたフロックスの父ネモと母フィラは戻ってきた息子がクチナ、マフィー、コラットというフレントスト一座の美女3人を新たに連れて戻ってきた事に驚き、そして喜んだ。フロックスが理解してる範囲で両親に説明をし、居間でクチナ達の説明を受け終わったところだった。


「というわけだけど?」


 オラリアがフロックスの顔を見る。


「と言われてもどうしたらいいか……。彼女の持ち主?って人が本当にウチの……えっと曾曾……ご先祖様に縁がある人なのか」

「確かに証拠が要りますよねぇ」

「持ち主と同じ魔力をあなた達から感じるので間違いありません」

「と、言われても……」

「だよね~」


 自信満々に言うクチナ。フロックス達が困った様子を見せるとマフィーも同感だとクチナを見る。当の本人は「何か問題が?」という様子で首を傾げていた。


「父さんと母さんは何か知らない?」


 そう言い両親を見るとネモの方は首を横に振るだけだった。フィラの方は何か思い出そうと目を瞑っている。


「母さん?」

「えっと、その像ってのはコレくらいの大きさだったかい? 女の人の像だったかしら?」


 フィラが手で大きさを表す。


「そのとおりです。大きさもほぼ合っています」


 「実際はこれくらいですが」とクチナは手で表現する。誤差は数cmで、「細かいことはいいから」とマフィーにつっこまれていた。それを聞いたフィラがポンと手を叩く。


「はいはい、なんとなく思い出してきたよ。私のお婆さんがそんな像を持ってたよ。小さい頃に亡くなっちゃってたからあまり覚えてないけどねぇ」

「では、アナタがあの時の少女ですか」

「あら、覚えてるのかい?」

「はい、私の持ち主を見取った中にいました。私も彼女に抱きかかえられていたので皆さんの顔は見ています」

「そうそう! お婆ちゃん最後に大事そうにあの像を抱えてた。そうかい、あれがクチナちゃんかい」


 フィラは昔を思い出したのか目に涙を浮かべている。いつの間にかクチナをちゃん付けで呼んでいたが誰も気にしなかった。


「えっと……。つまりクチナさんの言ってることは正しいって事ですかね?」


 ハジメが周りに伺うと、ウンウンと頷くクチナ以外全員が「そういう事なのかな」という顔をした。


「よかったなクチナ」

「よかったわねクチナ」

「はい、ありがとうございます。マフィーさん、コラットさん」


 無事家族が見つかったことをマフィーとコラットも喜ぶ。


「えっと、ちょっといいですか?」


 クーネが手を上げて皆に声をかける。全員がクーネに注目した。


「それで、クチナさんは何をしたかったんですか?」

「あ、そうだ。素性はわかったけどなんで付回すようなことを?」


 全員がクチナを見る。


「付回してはいません。最近街が危険だと聞いたので見守っていただけです」

「あ~、あれだよ。この街にいる闘斧団ってのが一座に顔出すようになっちゃってさ。そいつらが危ない連中だってクチナに教えたんだけど」

「でもあれってクチナが目を付けられたって団長から聞いたよ?」


 マフィーの説明にコラットが疑問を口にする。


「そう、その説明がこちらのクチナの耳には届かなかったようで」


 マフィーはクチナの耳を指しながら肩を竦める。


「つまりフロックスさんを担いでいた私達を闘斧団と間違えたって事ね」

「そういうことか」

「クチナが勘違いしたみたいでごめんなさいね。ほら、クチナも謝りな」

「申し訳ありませんでした」


 クチナが丁寧に頭を下げるのでハジメ達も許すことにした。


(兵衛さんは……後で伝えておこう。兵衛さんだけ実害出ちゃったしな)


 ハジメはこの場に居ない兵衛を気にしたが、今は話に戻ることにした。


「いえ、大事にならなくてよかった」

「あ、あの、ちょっといいですか?」


 フロックスが申し訳なさそうに手を上げた。


「昼間の事はわかりましたが、夜に庭にいたのは……?」

「え!? アンタそんな事までしてたの?」

「クチナちゃん……」


 マフィーとコラットが呆れた様子でクチナを見る。


「敵は夜襲ってくるかもしれません。それと庭の手入れが出来ていなかったので掃除などをしていました」

「いや、敵なんて居な―――」

「まぁ、お庭の掃除クチナちゃんがしてくれてたの!?」


 フロックスのツッコミをフィラが遮った。


「最近綺麗になってるからこの子がコッソリやってるのかと思っていたわ。やっぱりいい子だわ。ねぇお父さん」

「うむ、庭を大切にする人間に悪い奴はいないな」


 ネモとフィラはウンウンと頷く。表情の変化が乏しいクチナも若干嬉しそうだった。


「フロックスったら全然家の手伝いしてくれなくてねぇ。小さい頃は一緒にお皿洗ったり―――」


 フィラはフロックスの子供の頃の話を展開しだして、皆苦笑いを浮かべている。ただネモは懐かしそうに頷き、クチナは真剣に話を聞いていた。


「フロックス、たまには家の手伝いしてあげなきゃね」

「う、うん。そうするよ」


 オラリアに肩を叩かれたフロックスが苦笑いを浮かべている。


「え~~~っと、フロックスの子供の頃の話はすごく興味あるんですが、またそのうち伺うとして……。クチナさんの話に戻っていいですか? お義母さん」

「あら、そうだったわね。ついつい話しちゃったわね。ごめんなさいオラリアちゃん」


 オラリアがやんわりとフィラの話を中断させ、話を本筋へと戻す。


「それでクチナさんは今後どうするんですか?」


 全員の視線がクチナに集まる。


「私はこの家族を守らなければいけないので、この街で部屋を探して暮らす事にします」


 迷いなく答えるクチナ。


「仕事はどうするんですか?」


 クーネが聞くとマフィーも頷く。


「ウチの一座が街に居る間はいいとしてさ。街に残るっていうなら仕事探さないといけないよ?」

「仕事とはどうやって探すのでしょう?」

「……うん、そこからだよね」


 マフィーは予想通りの答えが返ってきて頭を抱える。


「あら、仕事はともかく、部屋は探さなくてもいいわよ」


 フィラがニコニコしながら言い出した。


「この家に住めばいいじゃない」

「えっ?」

「ちょ、ちょっと!?」


 フィラの発言にオラリアとフロックスが驚く。


「空いてる部屋はあるし、私達を心配してくれてるわけでしょう? こんないい子が来てくれるなら大歓迎だわ。ねぇお父さん?」

「娘が出来たようなものだな」


 ネモも感慨深く頷いている。


「いや、お義父さんお義母さん。そんな簡単に決めちゃって―――」

「オラリアちゃんももうすぐウチの家族になるわけだから、かわいい娘が2人も出来ちゃって私達幸せね! お父さん」

「ウチにはもったいないくらいだな」

「お義父さん、お義母さん……」


 ネモとフィラの言葉にオラリアもジーンと感動して言葉を失っている。心温まる雰囲気に一人取り残されたフロックスはただ見ているしかなかった。


「どうかしらクチナちゃん。どうせなら家族として一緒に暮らさない?」

「私も家族……」


 思いもしなかった提案に完全に固まるクチナ。少し間をおいて口を開いた。


「いいのでしょうか?」

「もちろんよ。ね? 皆?」


 フィラがネモ、オラリア、フロックスを見る。ネモは快諾、オラリアも賛成側になっていた。そして賛成派の3人にじっと見つめられたフロックスはお手上げの仕草をする。


「わ、わかったよ。一緒に住めばいいんじゃないかな」

「ほら、フロックスもホントはいい子なのよ。最近家の手伝いしてくれない―――」

「それはわかったから……」


 フロックスはゲンナリとしている。フィラはクチナの前にスタスタと行き、クチナの手を取って微笑む。


「それじゃクチナちゃん、これからよろしくね」

「よ、よろしくおねがいします」


 緊張している様子のクチナを見て「へぇ~」と驚くマフィーとコラット。


「クチナでも緊張するんだねぇ」

「はじめて見たかも」

「ハジメ、どうやら依頼は達成したみたいね」

「そうだね。思いがけない解決だったけど。こんなのもいいんじゃないかな」

「クチナお姉さんよかったね!」

「キュィィ!」


 クチナ達の微笑ましい様子を見ているハジメ達。


「兵衛さん、大丈夫かな」


 クーネがポツリと呟くのを聞いてハジメは「外で待っている」と言って入ってこなかった兵衛の事を気にした。





 兵衛は玄関先で折れた刀を見ていた。目の前は通りになっていて露天商などもあり人通りも多いが通りを背にしていた為、刃物に驚く通行人は居なかった。賑やかな通りの音の中、兵衛は先程の出来事を振り返り、ただただ自問自答をしていた。


「刀を折ってしまったのは一瞬の躊躇いがあったから。某の修行が至らなかった為。不覚でござる……」


 刀を持つ手に力が入る。


「<女子(おなご)>とはいえ核人、故に斬る事を躊躇うべきではなかったのか。いや、斬らずに済ませる方法があったはず。我が信念を通す為にはまだまだ力不足という事」


 深呼吸をして手の力を緩め、体の力も抜く。


「力むのはいかんな。自然に任せ動くべくして動き、斬るべくして斬る。でござるな師匠」


 そう言い、師匠の顔を思い出す。


「じゃが、この刀を見たら師匠にこっぴどく怒られるであろうな。いや散々に馬鹿にされるか。その両方か……」


 その姿を想像し、苦笑いを浮かべる。

 ふと通りの賑やかな音が変わっている事に気付く。ざわつきと緊張感、そして複数の視線を感じ、振り返ると大柄の男と複数の男達が通りの真ん中に立ち止まりこちらを見ている。その周辺はガラリと空いており、遠巻きに様子を伺う人だかりになっていた。


「なんじゃこやつ等は……」

「あ、おめぇあの時の!」


 男の一人が兵衛の顔を見て指を差す。兵衛もその男の顔に見覚えがあった。


「む、お主ギルドにおった奴か。ということはお主達闘斧団でござるか」

「団長! コイツです! ギルドでオレ達に―――」

「うるせぇ!」

「ひぃっ!」


 男が中央の大男バータルに興奮気味に伝えようとすると一喝して遮った。バータルは兵衛をひと睨みするが視線は扉の方へ戻す。


「そんな事よりオレのクチナはここに居るんだな」

「へい、ここがフロックスって野郎の家で間違いないですぜ」


 すかさず別の男がバータルに応える。


「そうか……」


 バータルの顔は紅潮し、額には血管が浮き出ている。それを見た周りの団員は一歩退いてしまう。バータルは大きく息を吸うと大声で叫んだ。


「出て来いっ! クチナァァァァッ!!」


 辺りにバータルの怒声が響き渡った。

フロックスの両親はあまり警戒心のないいい人達。特にフィラはかなりフランク。そして文句を言いつつも息子大好き。


次回で闘斧団ともケリがつくかと思います。

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