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ジュエル!  作者: asobito
マシュメ王国編
54/67

第46話 曲芸団フレントスト一座

最初のセリフは作者の心の声です。


2013/8/12 指摘のあった脱字を修正しました。

「あ! 宿取るの忘れてた」

「あっ、ホントだ」

「おお、そうでござった」


 フロックスの家を出た所でハジメがそう言うと、クーネ、兵衛もうっかりしてたという顔をする。


「宿ですか?」


 3人の様子を見てオラリアが尋ねる。


「ええ、ギルドに行ったらオススメの宿を聞こうと思ってたんですよ。すっかり忘れてました」

「ああ、そう言う事ですか。それなら私達と同じ劇団の人が宿屋で働いているので、そちらはどうですか? ご飯もおいしいし、値段も安いですよ。ね? フロックス」

「えっ? あ、うん。ちょっと賑やか過ぎる時があるけど……」

「たしかに……。役者仲間の溜まり場みたいになっちゃってるので賑やかですけど、それでもよければ……」

「全然構わないですよ」

「私も」

「某も問題無いでござる」

「よかった。それじゃそちらに行ってからにしましょうか。こちらです」


 オラリアはハジメ達の前へ行く。その後ろにフロックス。ハジメ達と続く。


「さて、サニー殿は起きるでござるかな」

「宿に着く頃には目を覚ますんじゃないかな」

「1人だけ宿に置いて行くのも可哀そうよね」

「某は全然背負って行けるので大丈夫でござるよ」


 それを聞いてハジメとクーネは兵衛の言葉に甘えることにした。





[一枚看板]


 大通りの南にある小さな通りにその宿はあった。それ程大きくは無いが建物は年季が入っており、大きな看板にはデカデカと"一枚看板"と書かれていた。


「皆さん、こちらです」


 オラリアはそう言うと宿の中へ入って行く。フロックス、ハジメ達も続いて入る。受付に居た男がこちらに気付いて声を掛ける。


「いらっしゃ……ってなんだオラリアかよ」

「なんだは無いでしょ ロシキ」

「ん? お! フロックスも一緒か。元気か? フロックス」

「あ、ああ。ひさしぶりだね、ロシキ」


 オドオドした態度を気にする事もなくニカっと笑うロシキ。


「相変わらずだな。まぁ、せっかく来てくれたんだ。何か食っていくか?」

「いえ、今日はお客さんを連れてきたのよ」


 そう言うと後ろに居たハジメ達を紹介する。


「おお! やるじゃねぇかオラリア! お客さん、いらっしゃい。 オレはこの宿の主でロシキだ」

「ロシキは劇団の大道具、小道具などを作ってくれている人です」

「なぁに、宿はほとんど嫁さんにまかせっきりだしな。物作りは趣味みたいなもんさ」


 40歳程に見える体格のいい人間族の男ロシキは浅黒い顔から真っ白な歯を見せてニカっと笑う。ハジメ達も同じく自己紹介を済ませる。


「まぁ、小汚ねぇ宿だが飯には自信あるからよ。期待してくれていいぜ。宿代もオラリア達の紹介だ。格安にするぜ」

「ありがとうございます。それじゃよろしくお願いします」


 ハジメは宿帳に記入を済ませ、料金を払う。


「おう、それじゃこれが部屋の鍵だ」

「ん~……」


 ロシキとのやり取りの途中、サニーが目を覚ます。


「お、サニー殿。起きたようでござるな」

「起きた? よかった」

「サニー、おはよう」

「キュィイイ」


 それぞれが声を掛ける。サニーはまだ寝ぼけているようで、周りをキョロキョロと見渡している。


「……ん~? おはよう。ここどこ?」

「宿屋よ。これから曲芸団を見に行くよ」

「きょくげーだん?」

「凄い技とか見せてくれるの。きっと面白いわよ」

「おいおい、曲芸団ってまさかフレントスト一座かい?」


 会話を聞いていたロシキが驚いた様子でオラリアに聞く。街に居れば入場券の手の入りにくさは良く知っているのでオラリアもロシキの驚く訳がよくわかった。


「ええ、フロックスのお母さんがたまたま手に入れてね。皆で行ってきなさいってくれたの。これから行くところよ」

「マジかよ。羨ましいな。まぁ、オレは券が手に入っても宿があるし、観にいけねぇんだがな。嫁さん置いて1人で行くわけにもいかねぇし」

「そりゃそうですよ。大事にしてあげなきゃ」

「馬鹿野郎、大事にしてるっての」


 などとそれぞれが話していると宿の奥から1人の少年が受付にやって来た。サニーと同じ歳くらいの背格好で茶色の短髪、この辺りではあまり見ない黄色と黒のパーカーの様な服を来て黒の7分丈のズボンを履いていた。パッと見た時ハジメは自分の居た世界の服装に見えドキッとしたが、使っている素材や細部を見るとこちらの世界の服と作りが一緒だった。軽い足取りの少年は受付に来るとロシキに声を掛ける。


「おじさん、おじさん」

「お? どうした?」

「あのさ、フレントスト一座ってどこでやるかわかる? せっかくだから観てみたいんだよねぇ」


 それを聞いてロシキは困ったという顔をする。


「あのよ、入場券持ってるか? 入場券が無いと観れないぜ?」

「えっ、そうなの? 持ってないよ。どこで手に入るの?」

「今すぐは無理だぞ。予約でビッチリ埋まってるからな」

「え~~~~。せっかく寄り道して来たのに。……どうしようかなぁ」


 少年はあからさまにガッカリした顔をする。


「あの……」


 話を聞いていたクーネがロシキに声を掛ける。


「その子、フレントスト一座に行きたいんですか?」

「ん? そうなんだが、券を持ってないってよ」

「それなら私達と行きませんか?」

「!!」


 それを聞いた少年は驚いた顔をしてクーネを見る。


「いいの?」

「オラリアさん、いいですよね?」

「え? ええ、まだ見に行ける人数に余裕はあるので大丈夫ですよ」

「本当か? よかったな坊主!」


 ロシキもホッと一安心したのかニカッと笑う。


「私はクーネ。よろしくね」


 クーネに続いてそれぞれ自己紹介をする。


「オレはハジメ・アメジスト。よろしくな」

「!」


 挨拶をしたハジメを見て一瞬驚いた様子を見せる少年。だが、すぐに笑顔に変わり、自己紹介をする。


「ボクはカマル。よろしくね」


 子供らしい笑顔で丁寧にお辞儀をする。先程まで寝ぼけていたサニーも同年代の子供を見つけ目が冴えたのか、兵衛から降りてカマルに近づく。


「サニーだよっ、よろしくね! カマル!」

「う、うん。よろしく」


 満面の笑顔のサニーに若干押され気味な様子を見せるカマル。その様子を見てハジメ達も顔が緩む。


「それでご両親はどこ?」

「え? ボクは1人だよ」

「「「え?」」」


 驚く一同に苦笑いのロシキが答える。


「いや、それが本当でよ。ここに泊まってるのは坊主1人だぜ。行商人の両親と旅してて、今街からちょっと離れた所で手が離せないらしくてよ。坊主1人で宿に泊まりに来たんだ。な? 坊主」

「え? あ、うん。迎えに来るまで街で待ってなさいって言われたんだ」

「子供1人街に置いてくなんて……」

「行商してる家族なんてのはそんなもんだろ。たしかに子供1人で泊まりに来た時は驚いたがよ。追い返して事件に巻き込まれても困るからウチに泊めてんだ」

「それじゃ尚更一人なんてかわいそうだわ! 皆で行きましょう!」


 クーネが俄然張り切り出す。ハジメ達も「クーネならこうなる」と分かっているので笑顔で同意する。ハジメ達は部屋に荷物を置いて再び玄関に集まる。


「それじゃ、行ってきますロシキさん」

「またねロシキ」

「行ってくるね、おじさん」

「おう! 気を付けてな! 坊主、晩飯までには帰って来いよ!」

「は~い」


 カマルを連れてフレントスト一座の会場へ向かうハジメ達。道中はサニーとカマルの子供らしい会話中心の和やかな雰囲気で、目的地まで迷う事も無くすんなりと到着した。街の北東側、商業区に隣接する河沿いにフレントスト一座の大きな天幕があった。周囲は木の板で覆われており中が覗けないようになっている。既に開場されていて、入場する人達でごった返していた。


「うわ、凄い人だな。皆はぐれない様にな」

「サニー、カマル君。ほら、手を繋いで」

「うん!」

「あ……う、うん」


 カマルはちょっと照れくさそうにクーネと手を繋ぐ。


「フロックスも手を繋いでおく?」

「ぼ、僕は大丈夫だよ!」


 オラリアに冗談交じりに言われて、慌てて拒否するフロックス。思わずハジメ達も笑う。

 結構な長さの行列ではあったが、それほど時間もかかる事無く場内に入れた。場内は丸い舞台を囲む様に長椅子がズラリと配置されていた。ハジメ達が入場券に書かれた番号の席へ行くと、前から3列目程で、舞台にかなり近い席だという事に気付く。


「こんなに近いのか」

「結構いい席じゃない?」

「貰ってよかったんでしょうかね。こんないい席の券」

「母さんもいいって言ってたし、いいんじゃないかな……」


 フロックスはあたりの人達が気になるのかキョロキョロしながらも会話には参加をする。ハジメは「意外と器用な人だな」と少し感心した。


「ハジメお兄さん」

「ん?」


 左隣に座るカマルが話しかけてきた。


「ハジメお兄さんって変わった目をしてるよね?」

「ああ、これか? まぁちょっと人と違うかな」

「うん、珍しいと思うよ」

「ハジメはね。魔人族って種族なのよ」


 右隣のクーネがカマルに教える。


「へぇ、魔人族っていうんだぁ。ボク初めて聞いたよ」

「人間族ほとんど変わらないけどな」

「あら、そう? だいぶ変わってると思うけど」

「そうか?」

「そうよ」


 カマルを置いてハジメとクーネは話を始める。カマルは特に気にする事無く場内を見渡した。


「オラ! どけどけっ!」

「邪魔だ!」


 ハジメ達の右手の方から怒声が聞こえる。その声の主と思われる男達はズカズカと周りの人を押しのけて最前列へと向かっていた。


「何アレ」

「不作法でござるな」

「あれは闘斧団だよ」

「え?」


 後方の席に座る老人が声を掛けてきた。


「街のゴロツキさ。ほれ、あの真ん中の馬鹿でかい男がいるじゃろ? あれが親玉のバータルじゃ」


 老人はそう言うとその男を指差す。周囲の男達とは明らかに違う男がいた。体格と態度から相当力に自信があるようだった。その脇には大きな斧を置いている。


「あれが闘斧団の団長」

「こっちに気付かなけりゃいいけど……」

「今はオラリア殿、フロックス殿、それにカマル殿もおるしのう」

「そうですね。あまり目立たないようにしてよう」

「…………」


 ハジメがカマルを見ると、ジッとバタールを見つめている事に気付いた。


「どうした? カマル」

「えっ? いや別に何でもないよ」


 ハジメに言われ慌てて首を振る。


「ああ、あの怖そうなおじさんなら心配いらないよ。今は舞台に集中して楽しまなきゃな」

「え? あ、うん。そうだね」


 カマルはニッコリと笑顔を見せる。

 それから少しして場内に鐘の音が鳴り響いた。


「お、始まるか」


 舞台以外の明かりが消されて、観客の視線が皆舞台へと向く。舞台裏へと繋がる通路から一人の小太りな男が現れて舞台中央へとやってきた。


「皆様! 長らくお待たせいたしました。これよりフレントスト一座の華麗なる曲芸をご覧いただきます!」


 その声と同時に場内から拍手が鳴る。


「まずは平衡感覚を極限まで鍛え上げた彼等の技をご覧いただきましょう」


 そう言うと数人の男女が舞台へとやって来る。いくつも重ねた椅子の上に上りバランスを保った状態で倒立をして見せたり、それを別の人が持ち上げて舞台を1周して見せたり、バランス感覚を要求する高度な技を次々と見せる。技が決まるたびに歓声と拍手が沸き起こった。


「すごい!すごい!」

「あんな事出来るのね」


 大はしゃぎのサニーに素直に関心するクーネ。


「鍛えればあれほどの事が出来るのでござるか。某も鍛錬を積めば……」

「いや、兵衛さんは必要無いでしょ」

「しかし、鍛えておいて損は無いはず」


 自分の鍛錬に応用出来ないかと真剣に考える兵衛。それを聞いて若干呆れるハジメ。


「さて、次は動物達の芸をご覧頂きましょう!」


 そう言うと舞台裏からボールに乗った犬が舞台へやってきた。


「なにあれ、かわいすぎっ!」

「かわいい! すごい!」


 愛らしい仕草に場内の、特に女性の声があがる。その犬に続いて大きなボールに乗った虎がやってくる。


「うわ、虎だ!」

「あれ? でもなんか可愛い……」


 街の外では恐怖の対象の大型動物もボールの上でちょこちょことバランスを保っている姿を見ると可愛く見えてしまった。その後ろからシンバルを持って直立歩行する熊がやって来る。肩には猫の顔をした愛らしい若い獣人の女性が笑顔で手を振っている。その女性の肩には子ザルが乗っておりその猿も手を振っていた。それを見て会場からも拍手が起きる。女性が合図をすると直立していた熊はシンバルを叩く。するとボールに乗った犬と虎がボールから落りてボールを前足で押しながら女性の横に並ぶ。並び終えると再びシンバルが鳴り、それと同時に全員でお辞儀をした。


「すごいな。あそこまで覚えさせるなんて」

「大変でしょうね」

「あの女性なかなかの手練れでござるな」


 素直に感心するハジメ達。


「サニーもお願いしたらやってくれるかな」

「危ないからやっちゃだめだよ!」


 サニーが真剣に悩むのを見て、思わずツッコむカマル。


「次は短剣投げの名手による技をご覧ください」


 次に現れたのは黒い長髪の人間族の女性だった。そしてその後ろからもう一人、道化師の仮面を付けた女性が現れる。2人とも露出の多い煌びやかな衣装からスタイルが良いのは一目瞭然で、仮面の女性は分からなかったが、黒髪の女性が美人だった為、舞台に現れるだけで男性の歓声が上がった。仮面を付けた女性が舞台の通路側に立てられた大きな板の前に両手を広げて立つ。そして黒髪の女性はその反対の舞台端に立ち、腰に備えたいくつもの短剣から2本を取り両手に持つ。今からやる事を観客達も理解したのか自然と静まり返る。しんと静まり返った中、黒髪の女性は一呼吸すると持っていた短剣を素早く投げた。スタンと音を立て、仮面の女性の両脇付近に突き刺さる。黒髪の女性はさらに短剣を抜き取り次々と投げていく。短剣は仮面の女性の体周辺を沿うように突き刺さって行く。すべて突き刺さり、仮面の女性が板から離れ、2人でお辞儀をすると、大きな歓声と拍手が起こった。


「ふぅ、観てるこっちが緊張するわね」

「確かにな」

「ハジメは出来る?」

「う~ん、やったこと無いからなぁ。クーネ、試してみるか?」

「じょ、冗談じゃないわよ!」


 ニヤリとするハジメを見て、「ふん!」と頬を膨らませるクーネ。

 クーネを笑いながら舞台を見ると仮面の女性がこちらを見ているように感じた。


「ん?」


 ジッと見つめているが目が合っている感じはしなかった。


(こっちを見てるようだけど、誰か知り合いでも来てるのかな?)


 そう感じたハジメだったが、仮面の女性がすぐに黒髪の女性の方を向いたのでそれ以上は気にすることは無かった。そしてその視線を感じた人物がすぐ近くにいた。


(あれ? あの人なんかこっち見てた?)


 フロックスは仮面の女性と目が合った事に疑問を抱く。目が合った事というよりも、それによって不安感を覚えた自分に対して。


(何だろう、何か嫌な感じがしたな……)


 拍手が鳴り止まないうちに仮面の女性は舞台傍の柱に向かい、そのまま立てかけられた梯子をスルスルと登って行く。柱には縄が繋がれており、舞台を挟んだ反対側の柱に続いていた。10m程の高さはある縄に足を伸ばし、縄の上で立った状態で停止する。命綱も無いその行為に観客から悲鳴に似た声があがる。だが、仮面の女性は背筋を伸ばし両手を広げたまま微動だにせず体勢を維持し続けている。そして黒髪の女性は先程板に突き刺した短剣を取ると、仮面の女性に合図を送る。仮面の女性はゆっくりと側転をする。そしてそのまま縄の上で宙返りやバク転、側転宙返りなどを色々な技を繰り返し、縄の上を左右に行ったり来たりする。しかも技を繰り出す度に速さが増し、不安定な縄の上という事もありいつ落下するのかと観客は息を飲んで見守るしかなかった。


「すごい……」

「鍛錬を重ねればこれほどの事が出来るとは……」

「ねぇ! 黒髪の人、短剣構えてるわよっ!」


 そう言うとクーネが指を指す。見ると黒髪の女性が仮面の女性に向けて、短剣を構えていた。


「マジか……」


 ハジメが言うのと同時に黒髪の女性は素早く短剣を投げつける。観客から悲鳴が上がる中、短剣は真っ直ぐ仮面の女性に飛んでいくが、体に突き刺さる事は無く仮面の女性の手に収まっていた。縄の上を飛び回りながら手に持つ短剣をベルトに仕舞い、何事も無かったかのように動き続ける。黒髪の女性は射落とすつもりではと思う様な速さで次々と投げつけるが、そのすべてを手で掴み腰に納めて行く。すべての短剣を受け取った仮面の女性は縄の中央へと移動して、そのままクルクルと回りながら縄から落下をした。だが、その下には布を広げた男性4人が待ち構えていて、ピンと張った布の上をバウンドした仮面の女性は再び空中へ舞い上がり、クルリと回るとピタリと地面に着地をする。そして、黒髪の女性と再び並んでお辞儀をすると、静まり返った場内に割れんばかりの拍手と歓声が起こった。


「すごいわっ! こんなの初めて見た!」

「ああ、あんな事出来るもんなんだな」

「いやいや、恐れ入ったでござる」

「すごかったね! カマル!」

「うん、そうだね」


 鳴り止まない拍手の中、仮面の女性を徐に仮面を外す。女性は観客の期待通りの美女だった。ウェーブのかかった短めの紫がかった黒髪に真っ赤な目、肌も透き通るように白く、その容姿に観客も「おぉ!」と声が上がる。黒髪の女性や他の座員もその行動には驚いた様子で女性を見つめていた。そして肝心の女性は真っ直ぐハジメ達の方向を見ている。


「ん? こっち見てる?」

「なんだろ?」

「どこかに知り合いでもいるのでござろうか?」


 そんな事をハジメ達が話していると、すぐ近くから悲鳴が聞こえる。


「ひっ!」


 声の主はフロックスだった。オラリアはフロックスに声を掛ける。


「どうしたのフロックス?」

「あ……あの目……。アイツだ……」

「アイツって―――」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 オラリアが聞こうとするとフロックスは悲鳴を上げて逃げ出してしまった。


「えっ! ちょっと!」

「フ、フロックスさん!?」

「どうしたの!?」


 逃げ出すフロックス。周りの観客も何事だと見ている。


「と、とりあえず追いかけよう」

「そ、そうですね」

「サニー、行くわよ!」

「あ、うん!」

「カマル殿はどうするでござる?」

「あっ!」


 立ち上がるハジメ達に兵衛が問う。だがハジメ達が答える前にカマルが口を開く。


「あ、ボクはここにいるから行ってきて」

「いいの?」

「うん、ボクが行っても邪魔になりそうだし」

「最後まで付き合えなくてごめんね」


 クーネが謝るとカマルはニッコリと微笑む。


「ううん、いいよ。楽しかったし」

「それじゃ、気を付けて帰りなよ」

「寄り道せず帰るでござるよ」

「それじゃあね」

「またね! カマル!」

「キュィイ!」


 そう言ってハジメ達は出口へ向かって走って行った。それを手を振り見送ってカマルは舞台の方へと向き直る。


「あっちも面白そうだし気になるけど、先にやっておきたい事もあるからねぇ」


 カマルは腕組みをして考える。


「さて、どうしよっかなぁ」


 舞台の上では仮面を付けていた女性が走って行くフロックスとハジメ達をずっと見つめていた。そんな彼女に黒髪の女性が近付き話しかける。


「どうしたのよクチナ。仮面取るなんて珍しい」

「……用事が出来たので御先に失礼します」

「えっ!?」


 クチナと呼ばれた女性はそう言うとそそくさと舞台を後にする。


「えっ! ちょっと!?」

「ク、クチナ!?」


 それには座長のフレントストや座員達も驚いた様子で声を掛けるが、クチナは聞く耳を持たずそのまま舞台裏へと消えて行った。


「おいおい、行っちまったぞ。クチナの奴」

「ど、どうしましょう、座長?」

「と……とりあえず演目はあとちょっとで終わりだからこのままやろう。彼女の演目は終わってるわけだし……」

「ウイッス」

「わかりました」


 そう言うと一同は素早く笑顔に戻り、舞台を再開した。

パマウィン編もこれで折り返しくらいですかね。

それにしても宿屋は本当に忘れてた。どうにかできる段階で気付いてよかった。結果オーライって事で……。

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