第25話 驚きの実力と新たな課題
2012/5/13 総合PV150000アクセス突破することができました。読んでくれた皆様本当にありがとうございます。
ハジメは<軍団>との特訓の他にラウと体術の強化も行っていた。特に回避や防御など身を守る術を重点的に強化する為、その日はラウの他にクラウも参加する事になった。
「えっと・・・。それでなんで母上が参加する事になるの?」
クラウが嬉しそうに準備するのを見てラウに問うハジメ。クラウは普段のロングスカート姿ではなくズボンに履きかえており入念に準備運動をしている。昔からクラウが運動している記憶が特になかったハジメは今更のクラウの参加に疑問を抱いていた。
「坊ちゃんの防御力なら一般人による攻撃を受ける点では問題ないと思われます。ですが最善としては受けるのではなく躱す事。その為の反射神経と身のこなしを強化するにはやはり実際に攻撃を躱す事が一番だと思いまして。そこで奥様に手伝ってもらう事になった訳です」
「それで母上になる意味が解らない」
「あら、それは実際にやってみれば分かるわよ」
ハジメが首を傾げていると準備運動を終えたクラウが歩いてくる。
「それじゃラウ」
「はい、こちらです」
そう言うとラウはクラウに木製の細剣を渡す。先は丸くなっており刃の部分は全て赤い塗料の付いた布で覆われていた。切っ先は入念に布が巻かれている。
「母上、剣を扱えるのですか?」
「ええ、私も冒険者だったからこれくらいはできるのよ?」
ニッコリと微笑むとヒュンと細剣持った手首を回して半身で構える。
「ハジメに剣を向けるのは嫌なのだけどこれなら布で覆われてるし。でも怪我しちゃうかもしれないからちゃんと避けることに集中してね」
「はは、大丈夫ですよ。母上も遠慮しないで下さいね」
「ええ、わかったわ」
笑顔で言葉を交わすとハジメも構えて攻撃に備える。
「それでは・・・はじめっ!!」
コォン!
ラウの合図とともにハジメの上半身が仰け反る。
「え?」
一瞬の出来事にハジメ自身も何が起きたかわかっていない。ラウの合図があった瞬間額に衝撃が来た事も仰け反った後気付いた程だった。慌てて上半身を戻しクラウを見るがずっと同じ構えのまま立っている。ハジメは額を手で押さえる。そしてその手を見ると赤い塗料が付いていた。
「今攻撃したんですか・・・?」
「あら? ちょっと速過ぎたかしら?」
「ぜ、全然見えませんでした」
「それじゃ、もうちょっとゆっくりにしましょう」
あまりに意外な出来事に言葉を失ってしまうハジメ。その姿を見てラウが説明する。
「この通り奥様の剣の腕前は超一流でございます。坊ちゃんは奥様の剣の腕前が大したことがないと油断なされたのではありませんか?」
「う・・・そうだね。たしかに油断してた」
「相手を上辺の情報や先入観で判断をしない。これは旅をする上でも重要な事ですのでお忘れなきよう」
「き、気を付けます」
「さ、それじゃ再開しましょう」
「はい!」
ハジメは気合いを入れ直してクラウと向き合う。クラウとの特訓は日暮れまで続けられたが、終了する頃には体中赤い塗料だらけになっていた。
顔の塗料を洗っているとクラウがタオルを持ってやって来る。
「はい、ハジメ」
「ありがとうございます母上」
タオルを受け取り礼を言うハジメ。クラウは笑顔で応える。
「母上があんなに強いとは思いませんでした。今でも練習してるのですか?」
「いいえ、この村で暮らす様になってからは全然。たまに運動がてら剣を握るくらいかしら」
クラウはそう言いながら剣を振るジュエスチャーをした。
「練習しないでよく衰えませんね」
「それは魔人族になったおかげね。剣士として一番いい時期に・・・って自分で言うのも変だけど、その時に魔人族になったから今も肉体的にはそのままね。だから勘が鈍らないようにたまに剣を握るだけというわけ」
「なるほど」
クラウに言われて納得する。
「ハジメも成長が止まってしまう前にできるだけ鍛えておかなきゃね」
「はい、がんばります!」
元気よく返事をするとクラウはハジメの頭を優しく撫でる。恥ずかしさに顔を赤くするハジメだった。
それからクラウとの訓練のおかげで身のこなしは格段に上達した。<軍団>達の攻撃も避ける事に集中すれば戦闘を維持出来るほどになった。
村での特訓を始めて半年経った頃、家族で夕食を食べているとオルタスが話を始めた。
「さて、ハジメも<軍団>との戦闘にも慣れてきたね」
「まだ全然勝てる気がしませんよ」
「ハッハッハ! そりゃ相手は歴戦の強者だからね。勝てるようになるならもっと長い年月重ねないと。でも特訓を始める前に比べたら今のハジメはかなり強くなってると思うよ。魔法も使って戦えば普通の人間にはまず負けないんじゃないかな」
「普通じゃない人間もいるわけですね・・・」
「ああ、<軍団>でもわかるとおり世の中にはずば抜けて高い能力を持つ人がいるものさ。人間の域を超えちゃってる人なんかね。それが悪人だったらそりゃもう厄介だよ」
「出くわしたくないですね」
「ハッハッハ! そうだね!」
オルタスはウンウンと笑いながら頷く。
「そういう人間も厄介だけど他にも戦うのが厄介な相手がいるんだけどね」
「なんですか?」
「それを知ってもらう為に次の特訓の時に森へ行ってもらおうと思うんだ」
「森・・・ですか?」
「ああ、たぶん3日程かかると思うけど学園は大丈夫かな?」
「えっと・・・次の休みは数日あるので大丈夫です」
「よし、それじゃ決定という事で。まぁ楽しみにしておいてよ」
そう言うとオルタスはニッと笑う。こうして予定が決まるとまたいつもの雑談を交えた食事に戻った。
そして次の休み。朝早く家に入るとオルタス達はもう起きていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう!」
「おはようハジメ」
「おはようございます坊ちゃん」
全員居間に集まっていてテーブルには荷物が広げられていた。ハジメはその荷物を指差して聞く。
「あの、これなんですか?」
「これは森へ行くための道具一式だよ。と、言ってもあまり荷物を持って行っても邪魔になるから必要最低限だね」
「坊ちゃんが訓練で使われていた剣、火打ち石、ナイフ、マント、傷薬に応急処置用の布など一式も袋に詰めております」
キャンプをイメージしていたハジメは思いの外サバイバルな事をやる事に今になって気づく。そしてもう一つ気付いた事があった。
「これ、1人分ですよね?」
用意されたナイフもマントもすべて1人分だった。オルタスは不思議そうな顔でその質問に答える。
「あれ? 言ってなかったっけ。森に行くのはハジメ1人だよ。今回はパルもお留守番だね」
「えっ、そうなんですか」
「キュィィ」
驚くハジメと残念そうなパルを見てオルタスはクラウとラウに「言ってなかったっけ?」と聞くと2人共ウンウンと頷いた。
「あっはっは! ごめんごめん。うっかりしてたね。じゃあやることをちゃんと説明しておこう。ハジメにはこの森の最深部に行ってもらうよ。3日もあれば行って戻ってこれるからね」
「は、はぁ・・・」
「そこにある大樹に彫ってある文字を調べてくること」
「文字ですか」
「うん、前にドルガンから冒険者の登録試験って言うのがあると聞いてね。こんな内容だったから真似してみたんだ」
「試験があるんですか」
「らしいね。でも大体の人が受かるらしいから安心していいよ。とにかく大樹を見つけて書かれている文字を調べる。あとはそうだなぁ・・・。あ! そうそう、気を付ける事!」
オルタスは手をポンと叩き「ウッカリしてた」という表情をする。
「気を付ける事ですか?」
「ああ、森の奥に行くとより危険な生き物がいるんだ。もちろんそれも気も付けなきゃいけないけど一番気を付けなきゃいけないのはヌシだね」
「ヌシ、ですか・・・」
「うん、かなり強いから気を付けて。別に倒す必要もないからね。危険だと感じたらすぐ逃げる事」
「は、はい」
用意されたものを身に着けて家を出ると家の裏に向かう。オルタス達も見送りの為後に続く。
「さ、ここからあっちの方向に大樹はある。太陽の位置で方角は確認する様にね。あとここから大樹は見えないけどその辺の木に登れば1つ飛びぬけて大きい木が見えるはずだから」
「わかりました。それじゃ行ってきます!」
「ああ! がんばれハジメ!」
「ハジメ、気を付けてね」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「キュイイイイ!」
オルタス達に見送られハジメは森の中へと入って行った。
そんなわけで実は剣の腕前超一流なクラウさんでした。
次回は森の探索のお話です。森のヌシはもちろん登場します。はたしてヌシの正体とは!?
それでは次回もよろしくおねがいします。




