第23話 王家の危機と黒い霧
2012/5/2 総ユニーク数2万を突破しました。読んでくれた方々本当にありがとうございます。
ヒルナンの話も終わり、集まっていた貴族達も再びそれぞれいた場所に戻った。ハジメ達とシャワル、ヨークソンだけで雑談をしていると大広間の方から国王オルティダがこちらにやって来た。周りで談笑していた貴族もオルティダの姿を確認してすぐに頭を下げている。オルティダの後ろには騎士の恰好をした男が1人付いて来ていた。ヨークソンと同じ親衛隊の様だが、所々装飾が違っているのと纏っている雰囲気からして親衛隊の隊長かとハジメは思った。ヨークソンも近づくオルティダに気付き慌てて跪く。
「へ、陛下!」
「あ、父上」
「ここにおったか。シャワルが大広間に居なかったのでな。どこに行ったかと思っておったが・・・こちらがお前の言っていた友人達か?」
「はい!」
シャワルに聞きながらオルティダはハジメ達を見つめる。その目はとても優しい眼差しをしていたが、いきなりの国王登場にポカンとしていたハジメ達をヨークソンが慌てて注意をする。
「こらっ! 陛下の御前だぞ! ちゃんと跪け!」
「構わぬ。シャワルを祝いに来てくれた友人なのだからな。それにヨークソン、お前ももう立ってよい」
「はっ!」
オルティダに言われ、すぐに立ち上がるヨークソン。オルティダがハジメ達の方に再び顔を向けたので自己紹介をすることにした。
「はじめまして陛下、私はハジメ・アメジストと申します」
「オ・・・私はヒルナンと申します!」
「エルレアと申します」
「ラ、ラニアンと申します」
「うむ、君達の事はシャワルからよく聞いている。2人の事でいろいろ助けてもらったそうだな」
「いえ、私達は大したことはしてません」
「そう謙遜しなくてもよい。それに今日は息子の為に来てくれて本当に感謝する。そしてシャワルの友人になってくれた事にも。これからも身分関係なくシャワルと仲良くしてやってほしい」
オルティダからの感謝の言葉に慌ててお辞儀をするハジメ達。シャワルは照れくさそうに、後ろの騎士2人も微笑ましそうにその光景を見つめていた。
「さて、シャワル。友人達と楽しんでいる所申し訳ないが私と一緒に2階へ来てくれ」
「あ、はい」
「ヨークソン」
オルティダの後ろに居た男がヨークソンに声を掛ける。
「はっ!」
「謁見の間までの護衛は私がする。そろそろ貴族区見回りの定時報告が来るからお前は城門へ行ってくれ。報告を受け次第私か副長に伝えろ」
「はっ!」
そう指示を出すとオルティダ達の後ろに付いて大広間に入って行ってしまった。
「よし、それでは私も失礼する」
「はい、わかりました」
「またな! ヨークソンさん!」
片手をあげ応じるとヨークソンも大広間へ消えて行った。ヨークソンを見送るとヒルナンがハジメに話し掛けてきた。
「貴族区見回りってやっぱりルビカスの事かなぁ?」
「そうじゃないか? こういう会の時は見回りが定例なのかもしれないけどな」
その後もバルコニーで話していたハジメ達だったが、先ほど別れたヨークソンが慌てて戻ってきた。
「おい、お前達」
「あれ? ヨークソンさん。もう戻って来たんですか?」
「ああ。それよりシヨナ様がどこにいるか知らないか?」
「シヨナ様?」
「シヨナ様なら僕達がバルコニーに来る前に一緒に大広間の右側の部屋に居たけど、今もいるかな」
「そうか」
そう言うとすぐに早歩きで部屋に向かって行った。
「なんだったんだ?」
「何かあったのかもな。行ってみるか?」
「よし、行ってみようぜ!」
ハジメ達もヨークソンの後を追って部屋に向かった。
「シヨナ様!」
「あらあら、そんなに慌ててどうしました?」
ハジメに教えてもらった部屋に居たシヨナに詰め寄るヨークソン。ハジメ達もすぐに合流する。
「シヨナ様に伺いたい事がございます」
「あら、何かしら?」
シヨナは笑顔で少し顔を傾げてみせる。穏やかな顔を見て少し気を落ち着けるヨークソン。一呼吸置いて続きを話す。
「ルビカス邸に地下道への入り口があったのですがどこに繋がっているかわかりますか?」
「ルビカス邸?」
「え、ルビカスがどうかしたのか!?」
シヨナの後にヒルナンが割って入っていく。
「お、おい! お前達は下がっていろ!」
「ルビカスが居なくなったんですか?」
ハジメもヨークソンに聞く。シヨナも同じ質問のようでヨークソンを見つめていた。
「む・・・。ああ、ルビカス邸を見回りしていた者からいなくなっているとの報告があった。中から何かを壊す音がして屋敷に入るともぬけの殻だったらしい。そして地下道への入り口と思われる扉が壊され開いていたという訳です」
「使用人はいなかったのかしら?」
「使用人は夜になると家に帰されるようになっていました。この時間はルビカスだけだったはずです」
「なるほどね。それで私に聞きたい事って?」
「はい、その地下道がかなり古いものらしく恐らくほとんどの者が地下にそんなものがある事を知りません。シヨナ様ならその地下道がどこに繋がっているかご存じではと」
「う~ん、私は聞いた事ないけれど。スカリー、貴方何か知ってる?」
シヨナから聞かれ目を瞑りすこし考えるスカリー。そしてすぐにシヨナに答えを返す。
「まだ先代がご存命でした頃、城から脱出する為の通路を初代国王が造ったと聞いた事がございます。その通路は貴族区の王家の屋敷や王都の外に出られるようになっているとか。ただ建国より1度も使われておらず、今ではすべての出入口を把握するのは手間がかかると思われます」
「と、いうことですって」
シヨナがニコリとヨークソンを見る。
「じゃあ、ルビカスがどこに逃げたかわかんねぇってわけか」
「王都の外から調べるとなると逃げられちゃうかもね」
「・・・・・・」
「急いで騎士団長に報告して行動に移さなければ!」
「待って」
走り出そうとするヨークソンをエルレアが引き留めた。
「なんだ! 一刻を争うんだぞ!」
「ハジメが何か考えてる」
そう言うとエルレアはハジメの方を見る。ヨークソン達も皆ハジメに注目する。
「何か気になる事があるのかしらハジメ君?」
シヨナに聞かれハジメは口を開いた。
「あの、その通路って王が城から逃げる為の通路なんですよね?」
「ああ、今そう言っていたではないか」
「それじゃあ、逃げる以外も考えられませんか?」
「?」
「どういうこった? ハジメ」
「屋敷から城に来ることも出来るって事だよ」
「あ! そうだ!」
「城に忍び込むという事か!」
「そして王が脱出するなら王がいつもいる所に入口があるはず」
「!!! いかん! 陛下と王子があぶない!」
ヨークソンは急いで2階へ向かう。ハジメ達もヨークソンに続いて2階へ向かった。
「あらあら皆元気いっぱいね。それじゃスカリー、騎士団長に今の事を伝えておいて頂戴」
「畏まりました」
ヨークソン達が2階へ上ると扉の前にいた親衛隊長に止められた。
「ヨークソンどうした?」
「緊急事態です! 通ります!」
物を言わせず走り抜けるヨークソン。その後をハジメ達も付いて行く。
「お、おい! お前たちはなんだ!?」
慌てて止めようとする親衛隊長だったが、ハジメ達はあっという間に走り抜けていった。
謁見の間では3人の人物が居た。一人はシャワル、そのシャワルを庇うように剣を構えるオルティダ。そして2人と向かい合うルビカスだった。ルビカスもまた剣を構えている。
「血迷ったかルビカス!」
「うるさい! 素直に私に王位を譲ればいいのだ! 私こそ王に相応しいではないか!!」
「野心に溺れおって・・・」
「ふん、弱者が王などそもそもの間違いなのだ」
血走ったルビカスの目が悪意と殺意を込めて2人を睨みつける。
「ち、父上」
「大丈夫だ」
「ですが血が・・・」
シャワルはオルティダの腕を見る。オルティダの右腕は斬りつけられ血が流れていた。
「まさか地下通路を通って来るとは・・・」
オルティダは玉座の裏をちらりと見る。カーテンで隠れた壁が一部開いていた。
「さぁ、シャワル共々死ぬがいい!」
ルビカスが剣を振り上げたその時、扉が勢いよく開かれた。
「陛下! 王子!」
「な、なんだっ!?」
「ヨークソンか!」
「ハジメ!?」
突然乱入してきたヨークソン達にルビカス、オルティダ、シャワルも驚く。
「く、邪魔させるかぁぁ!」
それでもルビカスはオルティダに斬りかかろうとした。
「いかん!」
ヨークソンは急いで駆け出すが距離があり間に合わない。だがヨークソンの後ろから大きな火の玉がルビカスの顔を目掛け飛んで行った。火の玉はルビカスの顔を直撃し爆発する。
「ギャァァッ!!」
左目のあたりを押さえ悶絶するルビカス。その間に駆けつけたヨークソンが剣を持ったルビカスの腕を斬りつける。
「グァッ!!」
剣を離してしまい後ろに下がるルビカス。ヨークソンはオルティダとシャワルの前に立ち剣を構える。ハジメ達もシャワルを囲うようにルビカスに向く。
「へ、陛下!?」
ヨークソン達を追ってきた親衛隊長も謁見の間の現状に驚く。剣を抜き王の元へ駆け寄る。
「さぁ、大人しく投降しろルビカス!」
「ぎ・・・く、くそ・・・」
顔を抑えながら後ずさるルビカス。そして窓際まで追い詰められる。そこへ騎士団長達も駆けつける。
「さぁ、もう逃げられん。諦めろルビカス」
オルティダが言うとルビカスはガックリと膝をついた。騎士達が近づこうと歩き出したその時、ルビカスの背後の窓が叩き割られ黒い霧のようなものが入ってきた。
「な、なんだ!?」
近づこうとしていた騎士達も剣を構えつつ後ろに下がる。霧は次第に固まって行き、黒いローブを着た男が姿を現した。ギョロリとした目で周りを見渡す。
「き、貴様はシーケックか!」
ヨークソンは驚きの声を上げる。他の騎士も突然の出来事に動きが止まってしまっていた。
「貴様・・・なぜここに・・・」
ルビカスもシーケックに驚いているのか驚愕の顔で見つめていた。だがシーケックはルビカスをまったく見ることなく話を始める。
「おやおや、皆さんこんなに集まってご苦労様です」
そう言うと仰々しく一礼をする。
「さて、窓からの入室は大変失礼だと思ったのですが、まだこの男には利用価値があるので貴方がたに渡すわけにはいかないのですよ」
「な、何を言っている!? 貴様にも様々な容疑があるのだ。貴様も捕えさせてもらうぞ!」
親衛隊長が言うと、シーケックはクックックと笑いだす。
「何を笑っている!」
「いえいえ、失礼しました。私を捕えるという冗談があまりにもおかしかったもので」
「じょ、冗談だと!?」
「ええ、まぁここで実力の差を見せつけて絶望させるのは簡単なのですが、私も色々と忙しい身でしてね」
「き、貴様!」
まわりの騎士達も一斉に構える。だがまったく臆する事なくニヤリと笑って見せる。
「まぁまぁ、そんなに殺気立たずに。もう王も王子も殺そうなどという事はありません。それは私が保証します」
「お前の保証など信用できると思っているのか?」
ヨークソンが睨みながら言う。
「まぁ、そうですね。ですが本当です。この国での用も済んだのでこのゴミに付き合う必要もなくなったのですよ」
そう言うとルビカスを指さす。だが一切見ようとはしなかった。
「き、きさ・・ま・・・」
火傷と出血で意識がもうろうとしているのかルビカスはグッタリとし始めていた。
「おやおや、こちらの方がやばそうなんで私はこれで失礼します」
そう言ってまた仰々しく頭を下げると足元から霧になって行く。
「に、逃がすか!」
騎士達が近付こうとするとニヤリと笑うシーケック。手を振りかざし、すばやく詠唱をすると掌に緑色の煙が出来る。それを床に叩きつけると煙は周りに素早く広がっていく。その煙を吸った数人の騎士が激しい咳をしながらその場で倒れてしまった。
「いかん! その煙を吸うな! すぐに離れろ!」
騎士団長が叫ぶと騎士たちは口元を抑える。そして倒れた騎士を引っ張りながら素早く後ろに下がった。
「ククク・・・その煙は吸い過ぎなければ死にはしませんのでご安心下さい。それではしつれ―――」
言いかけたシーケックに向かって火の玉が飛んでくる。シーケックは素早く霧に包まれた手で受け止める。着弾後火の玉は爆発するも霧状になっている手にはダメージはないようだった。
シーケックは少し驚いた顔をしていたが火の玉が飛んできた先にいるハジメを見てニヤリと笑うと全身霧になりルビカスを連れて窓から飛んで行ってしまった。
「くそっ! 追うぞ!」
「だ、団長!」
走り出そうとする騎士団長を謁見の間に入ってきた騎士が呼び止める。
「なんだ!」
「ル、ルビカス邸が燃えています!」
「なんだと!?」
慌てて窓から見るとたしかにルビカス邸と思われる建物が炎に包まれていた。
「くっ! こんな時に!」
「ど、どうしましょう」
「皆の者落ち着け」
動揺する騎士達にオルティダの声が響く。
「まずは鎮火を優先せよ。国民の安全こそ最優先でなければいかん。燃え広がる前に食い止めよ」
「はっ! 総員ルビカス邸の鎮火、周りの住民の避難誘導にあたれ!」
「「「「はっ!」」」」
騎士団長の号令と共に騎士達は一斉に現場に向かって行った。
「なぁハジメ、シーケックはどうすんだ?」
「騎士団は消火作業だし、親衛隊が外出るわけにもいかないだろ。夜にあの霧状態で飛んで行かれたら追いかけようもないしな」
「くそ~、諦めるしかないか・・・」
悔しそうにするヒルナン。そんなハジメ達にオルティダが声を掛ける。
「君達、あとは騎士達に任せて学園に戻っていなさい。それとハジメ君、先ほどはありがとう助かった」
「私からも礼を言わせてもらおう」
「ありがとうハジメ!」
オルティダ、ヨークソン、シャワルに感謝され困った顔をするハジメ。ヒルナン達はそんなハジメの珍しい顔を楽しそうに見ていた。
「そ、それじゃ皆無事だったし、帰るぞ!」
「おう! それじゃシャワルまたな!」
「またね」
「おやすみなさい」
そう言ってハジメ達は謁見の間を出て行った。
その後ハジメ達はシヨナ達と合流して事の顛末を話すと学園に帰って行った。ルビカス邸の火事も騎士団や住人たちの消火活動のおかげで延焼はせず、朝には鎮火された。
自室のベッドに入り眠りにつくハジメは先程のシーケックの事を思い出していた。
(オレの火の玉を受けた後にオレを見た時のあの顔・・・なにか引っかかるんだよな)
じっと天井を見つめながら考えていたが、パーティという慣れない事をした疲れかすぐに眠ってしまった。
[ある国のある場所]
「いやぁ、一晩でここまで飛んでくるのは骨が折れます。しかもこんなお荷物を背負って」
シーケックはわざとらしく肩を叩く。足元にはルビカスが寝転んでいた。傷口は応急処置されている。
「それにしてもコレ何に使うんですかねぇ」
「早いわね」
「おや、もう起きていましたか。言われてたモノ持ってきましたよ」
「ああ、コレね。ありがとう」
「こんなもの何に使うのですか? 何の役にも立たなそうですが」
「例の実験。"あの方"のご命令よ。負の感情が強い人間を使ってみるの」
「ああ、たしかにそう言う事なら適材でしょうね」
シーケックは「クックック」と笑って見せる。
「アナタって本当悪人って感じよね」
「そうですか?」
「顔も悪人面だから気を付けた方がいいわよ。ま、実際悪人だから気を付ける必要ないか」
「ひどい言われようですね」
シーケックは非難の目で見つめていたがすぐに戻って話を続ける。
「それはそうと面白い少年を見ました」
「面白い少年?」
「ええ、例の男と同じような外観だったので前々から気になっていたのですが今日確信しました。あの少年、息子か何かでしょう」
「へぇ、それはちょっと興味あるかも」
「私もです。あいにく次の仕事があるのでしばらくお預けですが」
「私も見に行くほど時間は作れないわね」
「ま・・・例の男と関係してるなら向こうから関わってきますよ」
シーケックは楽しそうに口を歪めて笑っていた。
シャワルの誕生会はこれで終了です。
シーケックは何者なのか。気になるところですが、具体的な事はオレにもわかりません。
次回もよろしくお願いします。




